50話 選挙当日
選挙当日。
私は今パパと共に朝議の行われる広間にいる。
今パパはすでに役を退き、また候補者の肉親でもあるため、本来なら参加できないと以前アード卿らに言われたが、
『当選した者は筆頭大臣としての役職を引き継ぐ必要がある。ゆえに参加させていただく。ただし選挙権は放棄する』
という毅然とした態度で反論して、それを国王が認めた形になった。
「えー、それでは。選挙、というものを始めます。えー、よろしいですかな、陛下」
「うむ。よきにはからえ」
選挙の司会進行を務めるのは、この参加した貴族の中でも年長の老人。どこの派閥にも属さず、ただそこそこ爵位が高く、人望もそれなりにあるということで特別議長に祀り上げられた。
名前は……忘れた。選挙権もないし、別にどうでもよかった。確かなんとか侯爵とか言ったわね。
議長の侯爵が手を鳴らすと、奥の扉が開き、そこからカートに乗った箱が運ばれてきた。その横には紙の束とペンとインク。
投票箱と投票用紙だ。
一般の選挙みたく、身分証明も候補者の名前の票も何もない。
ここにいる時点で、全て爵位持ちであり身分が証明されているし、ほぼ毎日のように顔を合わせているから照会の意味もない。
候補者も私とガーヒルだけだからそれもまた意味もない。
また、投票者も少ないからその場で開票され、今日のうちに勝敗が決まる。
当然比例もない。
「えー、というわけで。1人ずつ前に出て、ここで名前と投票相手を記載。えー、この箱に入れていただきます。全員が投票後に開票。集計して、えー、その結果、多い方が次期筆頭大臣となります」
というわけで、投票用紙とそれを収める箱さえあれば事足りる超簡易的な選挙。
前に映画で見た、教皇選出の選挙みたいな感じね。
「ただし、この投票において。総数の過半数、60%を超えない場合。えー、再選挙となります。えー、つまり。参加人数138人の60%なので、82人以上の票を獲得しない場合は、民意不一致で再選挙ということです。えー、その再選挙の際は、国王陛下の15票を加算した数での得票数となります」
そう。ここから。これがこの選挙の難しいところ。
いや、難しくはないけどめんどくさい部分。
てかなに? 過半数が60%って。日本語分かってる? ああ、日本語じゃないのね、ここ。
つまり50%の69票を獲得しても当確が出ないということ。ややこしくなるところだけど、そこはまだ。まぁまだいいわ。
というよりこれはどちらかというとこちらに有利なルール。
一番厄介なのは国王の票というところ。
今、候補者は私とガーヒル2人しかいない。
それなのに再投票をしたところで、票数はそう動かないだろう。
となるとそこで重要になるもの。つまり国王の票。
その15票とかいう中途半端な票をどれだけ味方につけられるかにかかっている。つかめんどくさい。だったらもう国王が決めてよ、とは思うけど。
まぁ選挙やろうって言いだしたの私だから、今更そんなこと言えないけど。
「エリ、大丈夫か?」
今パパが心底不安そうに私に問いかけて来る。
それは私の身を案じているのか。
それともカシュトルゼ家の未来のこととして聞いているのか。
どちらでもいいわ。というか、それはある意味表裏一体。
だから私が負ける時はカシュトルゼ家もなくなり、私が勝つときはカシュトルゼ家は興隆する。
それだけの話。
「ええ。なにも問題はありませんわ。なにも」
「そ、そうか……」
それでもまだ不安そうに俯く今パパ。
やれやれ、度胸がないというか。ま、仕方ないのかもしれない。
今パパにも私のしてきたことはほとんど秘密にしているし。あるいは少し気づいているのかもしれない。私の最後の奥の手のことを。それを仲介するようなことを頼んだのだから。
けど、それは今更。すでに賽は投げられた以上、前に進むしかないわけで。
「お父様、あとは天に運を任せましょう」
「……うむ。そう、そうだな。そうするしかないな」
納得したというより、自分に言い聞かせるように今パパは何度も頷く。
ふん。どうでもいいけど、人事を尽くして天命を待つって言葉。嫌いなんだけど。
だっていくら人事を尽くしても、天の気まぐれでどうにもならなくなるってことでしょ? それって思考の放棄と同じじゃない?
これだけ自分はやった。だから負けても仕方ない。
そういう言い訳にしか聞こえない。
なら私はこうだ。
人事を尽くして、天命を捻じ曲げる。
天命を私の良いように。全て。
もし万が一、天命が私に向かなくても。それを捻じ曲げて私に向けさせてみせますわ。ええ。
そうでもなくちゃ、こうして生きる意味もない。
それなら負けてこの世から消え去ったとしても悔いはない。
それが私の覚悟。
それが私の生き方。
さて、ではそれが白と出るか黒と出るか。
「えー、では。選挙を開始します」
厳かな雰囲気で議長がそう告げると、鐘が遠く鳴り響いた。




