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45話 エリの休暇

 その日は晴天で、気分もいいので外出することにした。最近働きすぎたから、少し気分転換を兼ねて自分に休暇を出した形だ。

 え? 選挙? 大丈夫。私のげぼ――こほん、大事なお友達が働いてくれますから。


 向かうのはソフィーの家。例のガーヒルと婚約した、貧乏貴族のお嬢様。


 本来なら私の婚約者を奪った泥棒猫なんだけど、なんかこの子、憎めないのよね。

 こう、小動物というか。キュッとしたらキュッとしてしまいそうな儚さ。

 うん。というわけで友達になりました。何度か会ってくれて相手も喜んでるからそれでいいわよね。


 何よりあのガーヒルのクソっぷりを全力で証明してくれる、何よりの生き証人ってところが重要。


 そろそろ選挙戦も大一番を迎える中。色々と手は打ってるから、少し気晴らしとしてお茶会でもと思って訪ねたわけだけど……。


「こ、これはカシュトルゼ様」


 出てきたのはソフィーパパ。

 前に見た時より憔悴しているようで、何かあったのかしら。


「どうかしまして?」


「いえ、その。ですが、それは……」


「なにか言えないことでも?」


「はぁ、あ、いえ! そういうわけでは、その……」


 何かしら。このイライラする感じ。娘はあれで結構はきはきするところがあるけど、この父親は……。

 いえ、いけませんわ。これしきのことでイライラしてたら。


「ソフィーはいます?」


「あ、え、いや、その……」


「大丈夫です。今日はソフィーとお茶をしに来ただけですから。ああ、こちらお土産のスコーンですわ」


「…………」


 急に押し黙ってしまったソフィーパパ。何より視線をきょろきょろさせて落ち着きもない。

 どこか不自然で、とても不安に見えた。


「大丈夫です。ソフィーは私の友達ですから。彼女は今どこへ?」


 何かあったのだろう。

 そう考えて極めて優しく、おだやかに問いかける。


「ひ……ま、しきへ」


「はい?」


「ガーヒル、様の、屋敷へ……」


「…………」


「昨日、お呼び出しがあり……その、まだ……」


「まだ帰ってきていない?」


「……はい」


 なるほど。何が起きたか大方理解した。そしてソフィーパパがなぜこうも憔悴しきっているのか。

 愛娘が呼び出されても帰ってこない。おそらく彼女のことだ。非行みたいなことは一切なかったに違いない。そのうえでの無断外泊。心配しないわけがないわね。

 普通なら警察に届けたり、直々に相手に問い合わせたりできるが、相手は大貴族様。ソフィーパパみたいな貧乏貴族なんて吹けば飛ぶようなもの。

 その娘が大貴族との婚約を決めたのだから、できるだけ穏便にしたい。けど娘も心配。


 まったく。なんて世の中よ。

 こういった人身御供(ひとみごくう)が成り立つとか。私の時代ではありえな……くはないか。まだまだ女は政治の道具だとかいう昭和の妖怪連中はわんさかいるからね。

 でももう21世紀も4分の1が経過して、今更こんなことはありえないわよね。ウーマンリブな女性の人権が主張されて女尊男卑のウェルカムトゥザクレイジーワールド、イカレた時代へようこそ!だわ。


 ホント、男ってこういう、どうでもいいことばっかりしたがるんだから。


 それにしてもガーヒル(あのおとこ)

 一体何を考えているのか。

 この際だからちょっと問い詰めてみようかしら。


「大丈夫ですわ、おじさん。私はソフィーの友達ですもの。ちょっとガーヒル様のお宅へ伺ってみますわ」


「おお、エリーゼ様……ありがたい……」


 ソフィーパパは大粒の涙をぼろぼろとこぼして私の前で跪いてしまった。


 気の毒に、とは思わない。

 結局この男は守れなかったのだ。愛娘を。

 人身御供と知って送り出したのだから、本来なら唾棄すべき存在で蹴りでも入れて……いえ、私は清楚なお嬢様ですから。暴力なんて振るいませんとも。ええ。


 本当に気の毒なのはあの子。

 一体、何を思ってガーヒルなんかと共にいるのか。いえ、彼女のことだから愛とか言ったりするのかしら。それとも、父親のためだとか。


 はぁ。まったく。本当に甘いんだから、あの子は。


「やれやれ、休暇はこれで返上かしらね」


 つぶやきながらも、どこかガーヒルをどうしてくれようかと考える自分がいて、少し愉快だった。

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