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39話 襲撃

 ダウンゼンらと別れて夜の道を屋敷へと向かう。

 街頭なんてないから、ところどころに炊かれたかがり火と月明りを頼りに。


 本当ならアーニィが一緒にいるはずだけど、今日は生憎、お使いに出してる。ま、あの子がずっといると肩がこるから。少しはこちらの苦労も分かってほしいものね。

 こうやって羽を伸ばすのは――


 ふと、前に人影が現れた。

 いえ、元からそこにいたのか。それすらも定かではない。

 なぜならその人物は全身を黒いローブみたいなもので覆っていて、頭もフードで隠れて男か女か大人か子供かも何もわからない。少し大きめのローブだから体のラインも分からない。


 他に周囲に人影はない。


 なんとなく嫌な感じよね。

 道のど真ん中で突っ立ってるだけなんだけど。てか邪魔なの分らないかなー。


 けどまさか私の知り合いなわけないし。

 というわけでその横を通り過ぎるように、黒ずくめの人物の横を通ろうとする。

 するとそれを遮るように黒ずくめは横に一歩。


「……」


 反対側に1歩。

 すると相手も1歩。


「…………」


 この動き。完全に私をマークしてるじゃない。


 嫌な予感が加速する。

 けどとりあえずの牽制として、相手に尋ねることにした。


「何か御用?」


「…………」


「あなた、どなたかしら?」


「…………」


「挨拶したのに無視。マナーがなってないわね」


「…………」


「それとも女性から名乗れと? マナーというより、礼儀がなってないわね。レディファーストが――」


 銀色が光る。


 何か嫌な予感がして、一歩後ろに下がった。その目の前で何かが横切った。フッと空気を薙いだ何か。それが私の前髪に触れて、その戦端をすっぱりと切り落としていった。


「な――」


 切られた。

 いえ、斬られた。


 黒ずくめが今や隠そうともしない、月明りに反射する大振りの銀色のナイフ。


「なにが……」


「…………」


 相変わらず黒ずくめは声を発しない。

 それでも無言の圧が、圧倒的な殺気が私を打ちのめそうとする。



「あまり言いたくないけど、とりあえず言っておくわ。私はエリーゼ・バン・カシュトルゼ。この国の筆頭大臣の娘よ」


「元、だ」


「!」


 この男(?)、いや、たぶん男の声。だから男。知ってる。

 今パパが辞任して今の選挙になっているのを。まだ私が平民階級に告知したわけではないから、知ってる人は限られているというのに。

 つまり、いえ、ほぼ間違いなくこの男は貴族階級に属する者。あるいは雇われた殺し屋。


 ふっ。殺し屋ね。我ながら現実離れしてる。

 けどそういえば私、いえ、元のエリーゼは殺されているのよね。あのガーヒルに。となるとやっぱりこれもその線? まったく。懲りないというかなんというか。


 それにしても私、というかこのエリーゼも大変ね。二度も殺されそうになるなんて。いや、1回は殺されたんだっけ。

 ま、1回あったからもう1回殺されるのはごめんだけど。当然。


 さて、というわけで逃げましょう。

 だって私バトルできる人間じゃないし、こんな刃物をもった人なんて怖くて怖くて。


「逃がさない」


 私の動きを検知したのか、男がじりと前に踏み込もうとする。


「いいの? こんなところで。私が呼べば10人はすぐに味方が集まるのよ?」


「お前に味方はいない。それは調べ上げている」


 用意周到ね。

 アーニィがいない時を狙ってきてるし。


 けど残念。ちゃんと味方はいますよ。


 というわけで警報装置、オン。


「きゃーーーーー!! チカンーーーー!!」


 まぁチカンじゃないけど。同じようなものでしょ。

 え? 恥ずかしくないかって?

 恥をかくのと殺されるのどっちがいいのかしら? 私は間違いなく前者だけど。


 というわけで騒ぐ。

 この時間とはいえ、周囲は民家。騒げば誰かが来る。

 厳密には仲間じゃないけど、この状況。圧倒的に私が被害者。つまり来てくれる誰かは逆説的に味方ってことになるわけで。


「きゃー! 殺されるー! 犯されるー!」


「死ね」


 男が刃をきらめかせて突進してくる。


 ちょっと! まだ仲間を呼んでる最中でしょうが!


 けどまずいわ。

 このまま叫び続ければきっと誰かが来てくれる。けどその前に間違いなく私は――


 刃。それが迫り。そして――


 銀色が走り、金属音が響く。


「くっ!」


 男が飛びずさる。


 何がと思う前に、私の前に銀色――男が持つナイフより長い銀色の鉄の棒。それが目の高さに浮いていた。

 もちろん鉄が自動で浮くわけがない。

 それを持つ人間が横にいるわけで、それは私の知ってる人で。


「おいおい。俺の嫁になにするつもりだ、てめぇ」


「ダウンゼン!」


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