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32話 朝議にて

「では、朝議を始めるとする」


 場が収まったのを見計らって、国王陛下がそう宣言した。

 それで私もこの場にいることが容認されたということで、とりあえず一安心。


 ただそれからの小一時間は、なんというかこの世の無駄を凝縮したような時間だった。


「今朝、我が家の庭に白い小鳥が3羽舞い降りましてなぁ。これは吉祥と家来に命じて捕まえさせましたので、あとで皆様にご覧にいただきましょう。ええ、鑑賞の後には鶏肉を使った豪勢なコース料理を用意いたしますぞ」


「昨晩、我が領地の今年の収穫が豊作になるだろうという知らせを受けてな。どうだ? 誰か買う者はおらんか? 今なら少し安く売ってやらんこともないが? 不作だったらどうするのかって? そんなもの税を倍にすればよかろう」


「ああ、来週に迫った我が家のパーティだが、少し趣向をこらしてな。そこらでかっぱらってきた農奴の家族を使ってな。夫婦を別々のところに隠し、それを子供が探し当てるという推理ゲームだ。先に見つかった方は助命すると言えば、生に執着した愚かな夫婦の争いを楽しめることができるんだなぁ」


 聞くに堪えないとはこのこと。

 誰もが自慢だったり、己の力を誇示しよう盛った話をするだけでなんら生産性のないおしゃべり。


 それを国王は、


「ふむふむ、良いなぁ」


 とか、


「わしもそれに参加したいぞ!」


 とか興味津々に頷いているのだからたまったものじゃない。


 一応、この話をどうでもいいという風に聞き流しているのは、今パパと、クロイツェルらガーヒル派に属していない人たち。

 そんな彼らが常識人と呼べるのか、そこまでは分からないけど、少なくともまともな神経を持っている人たちということ。


 ここに来る前に今パパに『あまり期待してはいけないよ』と言われたけど、なるほど。これは何も期待できないわ。


 てかよくこれで国が成り立ってるわね。

 こんなのが現代だったら、もう総スカンで、全国に流れてそれで……あれ、結局何も変わらなくない? だって政治家の汚職があろうが、それがネット記事として流れて炎上しようが、その当の本人はほとんどが何事もなかったかのように政治家を続けるわけだし。


『政治家を裁けるのは政治家だけだよ。一般市民がどれだけ声をあげようと、法的な力を持つのは政治家だからね。逆に言えば、そこで生き延びる力がないと政治家と言えないというか。じゃあ政治家が裁けば、といえばそうじゃない。だってその政治家が一方を裁けば、その裁きはいずれ巡り巡って自分に返ってくるからね。誰も自分がババを引きたくない。残念だけど、それが今の政治の実情なのさ』


 とは前パパが言ってたこと。


 この発言は個人の感想です。一般的見解とは異なりますのでご注意ください。

 うん、なんか分からないけど言いたくなったわ。


 ともあれ、情報社会の現代でもそうなのだから、この閉塞した社会であるこの世界ではその度合いは激しい。


 貴族はこれが普通のこととして通っているし。

 平民はそんなことが行われているとは知らない。

 仮に反発が出ても貴族に力で押さえつけられているから抵抗できない。


 一般的にそういう状況が極まったからこそ革命が起きるわけだけど、そうそうそんなものなんて起きやしないわけで。


 だって考えてみて。世界中で起こった革命で知ってる革命っていくつある?


 有名なのでフランス革命とかロシア革命とかだけど、どれだけ思いつく人がいるかしら。

 さらにその中で市民が反乱を起こして政権をひっくり返して成功したものになれば、100もないんじゃないかしら。


 それを多いと感じる人は考えてみて。


 この2000年、いえ中国4千年とかエジプトとか考えればもっと。日本だけじゃなく、世界中でそれだけしかないのよ。


 そう考えたら革命なんて起こらない。

 いえ、起きてはいる。けど鎮圧されるのがほとんど。

 有名な革命ってのは、それが成功したから有名なの。有名だから革命が起きたじゃない、順序が逆なのよね。


 っと、話しがずれたわ。なんだっけ?


 …………ああ、そうそう。

 つまりはこいつらを断罪するなら同じ貴族――つまりは私とか今パパがしないといけないわけだけど。

 それをするには、そうするだけの力が必要。反発を起こして、それこそ相手に革命を起こさせるようなことは起きちゃ意味がない。そう結局、力こそすべてってことね。


 というわけでとりあえずこの場ではこういう馬鹿な連中がいるとだけ覚えておきましょう。

 うん。相手の知能レベルを察することができただけでもこの無意味な時間を過ごした価値があったわ。そう思わないとやっていけない、本当に。


 という感じで小一時間が流れ、ようやく議題も尽きたという時に、今パパが本日の本題。とびっきりの爆弾を投げかけた。


「――というわけで、私は大臣を辞任しようと思う」


 長々とした前置きをして、今パパがそう告げると声にならない声がホールに響く。


「もちろんこれは体調上の理由からだと言わせてもらおう。巷間でささやかれている汚職などというのは荒唐無稽。だが、皆の疑いを受けたことは事実。何よりこのような非才の私を信じてくださった陛下に申し訳が立たない。ゆえに、これ以上体調を悪化させて、突然の交代となって後任を慌てさせないよう、国事を全うし陛下にはお心安んじていただくために、今、身を引く所存である」


 ああ、お父様。なんて政治家らしい言い訳。

 多分、クロね。これは。けどそう言えば追及はかわしやすくなる。一応、責任は取ったということだから。


 ま、本来なら責任を取って辞任というのは、問題の解決を全力で尽くした後にやめるべき。

 だって、


『問題起こしました。すみません、辞めまーす。あ、自分はもう関係ないんで、その問題がどうなるかだなんて知りませーん』


 なんて人、信じられる?

 とりあえず私だったら靴を顔面に投げつけるわ。


 これが今パパだったら、とりあえず汚職の件は認めてないわけだし、問題がこじれる前に距離を取るという危機回避術となるわけだから花丸をつけてあげたいくらい。

 これでガーヒル派が掲げる、反カシュトルゼ家への求心力も落ちるはず。だって、叩くべき相手がいなくなったんだから。


 ま、そこらも私の入れ知恵だけど。


 というわけで突然の筆頭大臣の辞任。それを受けて場は一気に過熱した。

 次の大臣は誰なのか。政策はどうなるのか。今パパの今後は? などなど。


 それを静めたのは陛下の声だ。


「あー、そのことについてだが、とりあえずまずは後任を定めようと思う。その者にしっかりと引継ぎをし、無事に職務を果たせることになった上で、ホルム(今パパの名前)には勇退してもらおう」


「では、その後任というのは?」


「慌てるでない、ガーヒル。この国の政治を任せるのだ。すぐに決められるものではないだろう」


「しかし陛下。政治が滞ってよいものではありません。もしカシュトルゼ殿が退くのであれば、その後任はすぐに決めるべきではないでしょうか」


 おお、ガーヒルがぐいぐい来るわね。


 その積極さは、これまでにないところで、やっぱり覚醒のものと関係あるのかしら。


 うぅんこれは意外も意外。


 まぁ、その強さ。


 想像した以上のことになりそうだわ。


 そう、私が小さく笑みを浮かべたところに、期待した通りの声があがった。


「あいや、待たれよガーヒル殿!」


 それはガーヒル派、崩壊の音色となって、ホールに響き渡るのだった。

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