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29話 今パパとお嬢様と

 デモ隊を退け、ジュエリ男爵を捕縛し、ガーヒル派の貴族の一部を味方に引き入れ、中央区の警備隊と懇意になってから数日が経った。


 ふむ。こうやって見ると、結構前進したんじゃない?

 数か月前の、味方がクロイツェルみたいな、劣勢のうちに味方して一発逆転を狙うギャンブラーな超下級貴族以外いないような状況よりはそれなりにマシになっている。


 だからここは一気に攻める時だと感じている。

 あの女神様がガーヒルを強化したとか言ってるけど、元が元なので対して脅威に感じてはいない。

 むしろ自分のお願いが効果を発揮し、直接ガーヒルの周囲に工作できるようになれば、あれを素っ裸にひんむくのもそう時間はかからないはず。


 なんだけど……。


「ふぅ~」


 書斎の今パパが重苦しいため息をついている。


 それを私はドアの外から聞いていた。


 最近、今パパの様子がおかしい。

 なんでもないところを見てぼぅっとしたり、私が話しかけるとビクッと反応したり、書斎に籠りきりになったり。


 どうもただ事ではないことが起きてるみたい。

 一応、あんなでも今パパは大黒柱。それはこの家においても、この国においても。


 それが何かは知らないけど、元気をなくしてしまっているのであれば、あのガーヒルたちに付け入る隙を与えることになる。

 せっかく状況が好転したのに、このままだとせっかく味方してくれた連中が寝返りかねない。あくまで彼らが従うのは、今パパの大臣としての力があるから。

 それをなくせば要はないとばかりに、たとえ裏切り者の烙印を押されてもガーヒルのもとに走るだろう。誰だって沈む船に居残りしたいものじゃない。


 そんな中でも逃げ出さない者がいる。

 いや、逃げ出せないというべきか。


 当然私のこと。


 だって今パパとは家族だからね。

 今パパを見限ってガーヒルに降参しても、一番の政敵の娘を重用するのはいくらガーヒルでもないだろう。私ならやらない。というか降参を認めない。

 まぁそれ以前に、あの男にはこの世界に生まれたことを後悔させると心に誓ってるので、降参なんて絶対しないんだけど。


 というわけで、今パパとは一蓮托生な私。

 


「ねえお母さま。お父様はいったいどうしちゃったの?」


 今パパに一番近しい人間に突撃インタビュー。


「それがね、わたしにも話してくれないの。どうも会議がうまくいってないらしいんだけど……」


 何もわかってなかった。

 まぁ政治の話を家族に漏らすようなことはしないのが普通よね。


『え? 今期の決算内容知りたい? それと来季の使用用途も? も~、しょうがないな~琴音は。うん、秘密だけど琴音は可愛いから教えちゃおう!』


 みたいなこと言ってた前パパとは大違いだわ。

 ……よく捕まらなかったわね。


 というわけで、政治の方での話なら執事のワルドゥも知るわけもない。つまり誰も知らないということ。


 こうなったら仕方ない。


 前パパ流、使途不明金解決万能最終奥義……



「で、パパ。最近元気ないけど、何かあったの?」



 直接聞く!


 だって知っている人に聞くのが手っ取り早いじゃない? 当然でしょ?

 なんで皆、「人に聞く前に調べろ」「グ〇レカス」とか言うのかしら。

 聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥。知ってる人に聞くのが一番手っ取り早くて効率いいに決まってるもの。


 ま、あまりこの世界でそれをやると、最悪、消されちゃうみたいなこともあるから要注意だけど。


「ああ、エリか……」


 そう書斎で革張りの椅子に背を持たれる今パパが答える。

 なんというか、ここ数日で一気に痩せた感……いや、やつれたわね。


 それほどに朝議は大変なのかしら。


「で、なんだっけ? エリ」


「元気ないけど大丈夫ってこと」


「おおおおお! エリがわしを心配してくれる……わ、わしは、わ、わしは! なんたる果報者!!」


「あー、もう! 痛いから髭をこすりつけないで!」


「うぅ、酷い。エリちゃんは昔はお髭だって……」


「いや、言ってないから」


「うっ、な、なぜ覚えているのだ」


 いや、そりゃじょりじょりの髭を心地よいと感じる赤子はいないでしょ。


「で? 何かあったの? 国王とか、ガーヒル周りとか」


「っ!!」


 今パパが目を見開いて顔を細めた。


 分かりやすっ。そんなポーカーフェイスで大丈夫?


「当たりってことね」


「そ、そうだな。ふふふ、さすがエリちゃん」


「はいはい、おだてても何も出ないから。で? またあれが騒ぎ出したわけ?」


「ああ、それが問題となって……」


「なんでそこで黙るのよ」


「いや、エリちゃんにこういった話をしていいのかなって」


「いいでしょ。というよりそれを聞きにきたのよ、私は。お父様に。いえ、聞きたいというよりお願いね」


「何がいいたい、エリ」


 急に口元をキュッと引き締め、真顔でこちらを見る今パパ。


 あまり格好つけを遅らせても仕方ないので、このさいはっきり言ってしまおう。


「引退して、私が後任になろうと思いますが、いかがでしょう?」


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