28話 立っている者は女神でも使え
「はいはーい、というわけで女神ちゃんなわけだけどー。……え? てかなに? 琴音ちゃん無双? てかバランスブレイカーすぎない? と、い、う、わ、け、で!! 大バランス調整大会を始めまーす!」
あら、女神様。お久しぶりです。
「お久しぶりちゃんーって、そうじゃないっての! ちょっとやりすぎってね、琴音ちゃん。フフフ、女神ちゃんを怒らせたらどうなるか教えてしんぜよう」
わぁー、すごいすごい。とても恐ろしくて足がガクブルです。
「全然怖がってねー。ここまで心も何もない棒読み初めてだわ。むしろ喜んでる!? うん、まぁそういうわけでちょっとバランス調整しますよ。やっぱゲームは公平性がたもててこそだと思うんだよね! というわけでガーヒルくんの知力と政治力のパラメータを2倍にしてみましたぁん! さらにボーナスでスーパーお助けキャラ登場の巻! いぇいいぇい!」
はぁ。
「もうちょっと驚いてくれいなかー。せっかく準備したのに」
いえ、パラメータとかよくわからないんで。
「え? ゲームとかやったことない? キャラの強さとかそういうのを数値化しているやーつ」
ああ。つまりその人間の強さを数値に置き換えたものってことですね。例えて言うなら偏差値みたいな。
「ジャス・ドゥ・イッ! そのとーり! ふふふー、これでわかっちゃったー? 敵が2倍の強さになっちゃうんだよー? さらにお助けキャラだよー? もうこれは降伏宣言まったなしじゃないかな!?」
なにがです?
「……なんで驚かないのかな、この子。てかすごい嫌な予感しかしないんだけど、なんでそんな平静にしてられるか、理由聞いてもいー?」
ええ。簡単ですわ。ゼロにいくつかけてもゼロにしかならないので、2倍になったところで何も変わらないからです。
「うわぁい! 強キャラムーブのゼロ除算! っていやいや、そんなわけないって! パラメータの下限は1だかんね! それはありえないのよ」
じゃあ1が2倍になっても2。ゴミですわね。
「だからなんでそんな自信満々!?」
今までの彼の動きからしてアレがそう賢くはないことは明らかでしょう? 私、これでも人を見る目はあるんで。
「いやいやいやいや! ガーヒル君のパラメータ的に、確かにそう賢くなくて。知力なんて43だけど、それが2倍になったら86だよ? 全武将ランキングでトップ50入りするレベルだよ!? てかよくそんな平均以下のパラメータのやつがラスボスポジションにいたわね……これは反省だわ。うん」
それでも問題ありません。
「だからなんで!?」
前パパより薫陶を受けた私が、たかがあの男相手に劣るわけないからです。
「うわぁ、すごい自信。キミの自信銀行の預金残高はいくらなのかな」
53億ですが?
「そんな私の戦闘力みたいに言われても!?」
それにお助けキャラでしたっけ?
「うん! スーパーお助けキャラだよ! これはもう凄いよ。裏から表から琴音ちゃんの邪魔をしまくって、ガーヒルくんを超強化しちゃう感じの……うん、ごめん。やっぱりラスボスの人選間違ってるよね」
それも問題ありませんわ。
「だからなんで!? 大事なことなので、同じツッコミにしました!」
パラメータが2倍になっただけですわよね、知力と、政治力でしたっけ?
「え、あ、うん。それが?」
なら簡単です。あの男にそのような人物を扱える器量はないからです。
将来自分の地位を脅かす存在を、手を打って迎え入れるほどの度量はあの男にありませんわ。
それで器量は増えないわけですから、あとはおしてしかるべし。
よってそんな人が来ても、逆にマイナスにしかならないわけですQ.E.D(証明終了)。
「それは的を射ているね!! って、うわー、やっちゃったー、女神様痛恨の凡ミスー!」
まぁそもそもこの考えは女神様がおっしゃっていたことですよ?
「どういうこと?」
だって女神様はさっきこうおっしゃったじゃないですか。ゲームは公平性が保たれてこそ、と。
つまりあの男の力が2倍になろうが、お助けキャラなるものが出ようが、それであちらが圧倒的有利になるわけではないってことですよね。
そうしたら、私が一方的に負けるだけのワンサイドゲームになってしまいますから。
そういった要素を排除して、それでなおギリギリ、白熱するだろうレベルに調整された女神様の絶妙なバランス設計ということになるかと思いまして。
「お、おおお。そう! その通り! いやー、分かっちゃう? この女神ちゃんの超絶技巧のバランス設計。そこに気づいちゃうなんてオタク、渋いねー」
ええ。今の私は女神様あってのことですから。
「むふふー、いやいや、やっぱ分かってるね琴音ちゃんは。どっかの女装変態フェチツッコミ魔神野郎とは大違いだよ。いやー、これは今年も取っちゃう? 女神オブザイヤー、またまた女神ちゃんの時代来ちゃう?」
ええ。もちろんですとも。
ところで1つ提案なんですが。このゲームをもっと面白くするための。
「お、ん? いいね、そういうのどんどん頂戴!」
私、思うんですけど私とガーヒルの接点少なすぎません? せっかく、ガーヒルが(一応)強くなっても、私との接点がなければその様子というのは伝わらないのでは? それは見ていてつまらないものですよね?
「む、確かに。ガチンコの殴り合いバトルだったら分かりやすいけど、頭脳戦的なものだとそれはそれで弊害になるか。うぅーん。やっぱり現場の意見? ていうか新しい風を取り込むのは重要だね! よし、分かった! じゃあガーヒルとのエンカウント率をもっとあげちゃおう!」
それについて。私もそろそろ朝議(国王の前で毎朝行う重臣会議)に出ていいかなと思うんです。今パパも色々大変でしょうし、そこならガーヒルとの対決も期待できるのでは?。
「んん。まぁそうかも。うーん、けどそこに入るっていってもねぇ。他の貴族様とかそういうのの反発すごいと思うけどいいの?」
何事もやってみなければわかりませんわ。それに、それで潰れれば私もそれまでということ。何ら問題はないでしょう。
「む。そう、かな。そうだね。うん、じゃあそうしよう。ちょっとルールと因果律をいじくれば……オッケー! これで琴音ちゃんも朝議参加できるよー」
ありがとうございます…………(ちょろい)。
「ん、なんか言ったー?」
いえ、ただ女神様が優しい方でよかったと。
「うんうん、わたし優しいからね! それなのにまったく、鬼だ鬼畜だ黒幕だなんだってやっかみばっかしてさ。ほんと、琴音ちゃんだけだよ、人間で味方してくれるの」
ええ、私は受けた恩は絶対に忘れませんから。
「うんうん。そういうの大事よね」
そして受けた仇も絶対に忘れない。
「げぇ!? やっぱりアヴェンジャーズ! 恐ろしい子!」