2話 転生者が復讐を決めるまでの現状整理
結論から言うと、私はどうやら殺されていたらしい。
ついでに言うと婚約破棄もさせられていたらしい。
なんでも自分、もといエリとかいう今の体の婚約者――侯爵家であるバイスランウェイ家の長男であり当主ガーヒルが一方的にパパの汚職を糾弾、それを理由に一方的に婚約破棄。しかも一方的に別の令嬢との婚約を発表したという。
え、てかダメじゃん。
婚約破棄に気をつけろとかなんとか、あの転生の女神が言ってたけど……。遅かったね。どうでもいいけど。
問題なのは、婚約破棄の後に私――もといこの体のエリが殺されているということ。
なんでも外出から馬車で帰ってくる途中。何者かに襲われて刺し殺されたということなんだけど。
え、殺されるってそういう? 暗殺ってこと? 桜田門外の変ってこと?
しかも犯人は捕まらず、噂では近くの漁港で浮浪者のどざえもんがあがったとかで。それが事件の目撃者によると人相が襲撃者に似ているとか似ていないとか。
まぁあくまで噂なんだけど。
これ完全にやってるよね。
完全に浮浪者を雇って私を襲わせて殺してるよね。
誰がって?
当然そのガーヒルとかいうやつよ。
私と結婚したくないために、非もないこの世界のパパを糾弾。しかもあとくされのないように、私を始末させた。
都合が悪くなったら我関せずでポイ捨て。しかも後々面倒にならないよう事後処理もするなんて
そのガーヒルとかいう女の敵。許すまじ。
だってパパ、あ、このパパはわたしの前世の本当のパパね、が言ってた。
『他人から受けた害は忘れてはいけないよ。こちらが無視すれば相手はつけあがるからね。しっかり報復してこちらに噛みつくことのリスクを自覚させないと。目には目を、歯には歯を、冤罪には冤罪を、ってことで。ん? 大丈夫、パパは何もしてないよ。前にパパを追いまわした記者が、自殺未遂事件を起こして世間的に抹消されたけど琴音が心配することじゃないさ』
うん。そういうこと。
あ、ちなみにパパは県会議員。
ただまぁあんまり評判は良くなく、何度も汚職の嫌疑で裁判沙汰にもなりかけた。一応何事もなく終わったからこうして今も議員さんだけど、あまり良い目で見られないのは確か。
というわけで私は汚職議員の娘というレッテルを貼られ、だからなのか悪役令嬢っていうのは、まさにピッタリすぎて嫌だったんだけど。
えっと、なんだっけ。
そうそう、そのガーヒルという奴許すまじ。
異世界ってことで、まだネットとかはないみたいだから全世界的には無理だけど、とりあえず社会的に抹殺しよう。復讐よ。
とは思うけど、どうすればいいんだろう。
正直、勉強は得意じゃない。てかできない。
学校のテストで3回連続数学で9点を取ったのを知ってパパは苦笑いしてたけど、まぁ別に政治家とかなりたくないし。適当に生きて適当に結婚して適当に死ぬのに、二次関数とか加法定理とか必要ないわけで。別にどうでもいいでしょ。
どっちかというとメイクとかイケメン俳優とか音楽事情、流行と最先端、どうやって盛れるかのPC技術、ネットでの生存方法、いかに敵を作らないか、他者を陥れる方法に扇動の知識の方が重要なわけで。
今の時代、テストで100点が取れても生きる力のない馬鹿は排除されていくんだから。重要なのはテストの点数じゃなく、何ができるか、何ができないか、それを知ることだと思うんだよね。
というわけで今。
うち、つまりエリのパパは公爵で、ストリック家というものを継いでいる。その子女が私、エリことエリーゼ・バン・カシュトルゼ。18歳。
他に子供はいないらしいから、その一人娘が殺されたとなれば、パパの嘆きも分からないでもない。うるさかったけど。
あれ、あのガーヒルっての。侯爵って言ってたっけ? 公爵と侯爵ってどっちが上なんだっけ? 知らない。どうでもいい。
そしてパパは偉いらしく、この国、ハバリエ王国の大臣をやってるらしい。でた王国。
国王の信頼は得ているから権力は絶大。ただあまり人望があるわけじゃなく、敵は多いとかなんとか。
それの状況打破のために、ガーヒルとかいうのと私が結婚することになったらしい。もう破局してるけど。
そんな婚姻政策も、ガーヒルの裏切りによってパァになったってことで、パパは今まで以上の苦境にいるらしい。
というのもさっきあった通り、ガーヒルがパパの悪行についてを糾弾し出してそれを理由に私との婚約を破棄したというのだから。
それで今や議会は大炎上。
なんでもことの次第は王宮の中だけじゃなく、一般国民にも広がっているようで、町ではパパを辞めさせろのデモが頻発しているとか。
私、もといエリが死んだことも、自業自得ということで「ざまをみろ」という意見が多数という。世も末ね。
あー、こりゃダメだね。相手の方が上手すぎる。情報戦で負けてるよ。
うちのパパ……なんかごちゃってめんどい。前パパと今パパってことにしよう。え? 字面がヤバいって? 何のこと言ってるかちょっと分からないんだけど。
前パパは情報戦の重要性を理解して、特にSNSには力を入れてた。
配信する時は必ず弁護士と内容のチェックしたうえでGOするし、問題ありそうな人間は即ブロック。バイトを雇ってサブ垢での情報拡散と応援コメントでの支持向上もぬかりない。
ん? 違法? 何が?
だってただ応援をお願いしてるだけでしょ? サブ垢なんてみんな作ってるし、誰を応援しちゃいけないとかっていうの逆に表現の自由を侵害してない?
だから自分は何も悪くない。そう前パパは言ってた。
というわけで現状は最悪。
貴族連中からは冷たい目で見られるし、民衆からは屋敷の前に人だかりができるほどに総スカンを食らってる。
さすがに懇意にしている国王も、そういった民意には敏感で今パパを切り捨てようみたいな話も出ているらしい。
いやー、厳しいねぇ。
……最悪じゃん。
「お嬢様、朝食をお持ちしました」
その時だ。執事のワルドゥが部屋の扉をノックしてきた。
「どうぞ」
「失礼します」
そう言って持ってきたのはパンケーキにはちみつをどっぷりかけたものに、イチゴとブルーベリーをどかっと載せたもの。本当はアイスも欲しかったけど、今のこの世界じゃ入手は困難だって、残念。
でもパンケーキにはちみつがあるだけで、本当良かった。これがない生活なんて考えられない。
「あの、これで本当によろしいので? お嬢様は、その、重病、ということでしたが」
「いいのいいの。好きな時に好きなの食べないの、逆に体に悪いでしょ」
「はぁ……」
なんか微妙な顔をしてワルドゥは出ていった。
やれやれ、なんでこれが分からないかなぁ。
それにこれからやろうとしていることを考えると、少しでも体に力を入れておきたいからね。というわけでいただきます。
うん、美味しい。やっぱ甘いものは正義。これが食べられなくなるなんて考えられない。
だから今パパの失脚は、この生活の放棄と同じになる。
それは……ダメだよねぇ。
というわけで朝食の後に、今パパのところへ行った。
「パパにお願いがあるんだけど」
「あ、ああ。もちろんだとも、それより体の方は大丈夫か? どこか変なところとか――」
「パーティを開いてほしいの」
ようやく物語が動き始めます。
ブックマークや評価、感想をいただければ今後の励みになると思いますので、どうぞよろしくお願いします。




