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12話 メイド流


「カシュトルゼ……まさか大臣の?」


「嘘だ、娘は死んだって噂だぜ!?」


 気絶したらしい仲間を背負って隣室に運ぼうとしている先ほどのうぇーい系が耳ざとく反応する。


「あいにく生きてますわ。こうして、ぴんぴんと」


「に、偽物だ! そうやって俺たちを騙そうと――」


「いや、本物だろう」


 うぇーい系の言葉を遮ってアニキが答える。


「え、アニキ。なんて?」


「いいからお前はさっさとこいつらかたせ。うちの大事な仲間を失うなんざぜってぇさせねぇからな。誰かに後遺症でも残してみろ、お前に後遺症が残る傷を植え付けてやる」


「へ、へい、アニキぃぃ!!」


 うぇーい系の彼のせいじゃないのに。かわいそうに。


「信じてもらえてうれしいわ」


「信じたわけじゃねぇ。合理的に判断しただけだ」


「聞いても?」


「……まず、そこの姉ちゃん。そいつが嘘をついてるかもしれねぇが、その敬意は本物だ。だから少なくともそれに守られるお前は貴族様ってことだろう」


「ま、それくらいは当然でしょう。それで?」


「あとは勘だよ。てか、今この状況で、この場所で、カシュトルゼを名乗る馬鹿はいねーだろってことだ。政敵に足元をすくわれ、崖っぷちの大臣サマ。下町(しもまち)の浄化政策を着々と進める俺たちの敵。それをわざわざ名乗る馬鹿はいねぇ。馬鹿じゃねぇとすると……本物ってことだろ」


「GOOD」


「な、なんだよ」


「失礼。本音が漏れました」


 琴音だけに。琴音の本音。見た目がいいだけ。ゴロは悪いわね。


 それにしても、こんな場末のところにいるガテン系アニキなら情勢も理解してなくて頭より先に手が出る脳筋系だと思ったけど。なかなかどうして。


 これならアンチガーヒルへの駒として十分に機能してくれそうだ。

 しかも何やら画策しているようだし。


 そこらへんを含めて、私の強い味方にできるんじゃないかと皮算用していると、


「はっ。ってわけだ。正真正銘の亡霊ってことなら、なら俺がもう一度殺してやる。この国をぶっ壊した悪徳大臣のお嬢様なら、誰も文句言わねぇだろうなぁ!!」


 って、やっぱ手が出る脳筋!


「アーニィ!」


「はい、エリ様!」


 打って響くように、アーニィが前に出る。

 振り上げられた右腕。それをアーニィは迎え撃つ。下から突き上げるような掌底。


 言っておいてなんだけど、アーニィとアニキはふた回りはサイズが違う。それを相手にしろなんて命令はいかにも酷いかも、と自分ながらに思ってしまうのでした。


「えっと、アーニィ?」


「全力で守ります!」


 いや、逃げなさいよ。勝てるわけないでしょ!?

 こっちも脳筋なの?

 ちょっとは考えなさい!


 といっても私にはアーニィを引き留める力も度胸もなく。

 嗚呼、アーニィ。これまで色々ありがとう。ほんの数日だったけど、その本当に……色々と、色々……何かあったかしら。朝起こしてもらって、ご飯を運んでもらってくらいしか覚えがないんだけど。あとは花瓶の水をぶちまけたり、窓拭いてて落ちそうになったり、一枚二枚って皿屋敷並みにお皿割ったりってエピソードばっかだったけど。

 まぁ一応、今さっきこの狼藉者たちを排除して、このアニキから私を守ろうとしてくれたのは、うん。ありがたいわ。


 というわけで逃げさせてもらいます。

 アーニィがこの男に叩き潰される間に。


 酷い? それは彼女の意志を裏切ることになるのよ?

 彼女が身を挺して守ろうとした私が、この男に潰されでもすれば、それは彼女が命がけでやろうとした仕事を無にすることになる。それは彼女に対して失礼。プロフェッショナルとしての仕事をまっとうさせるためには、私は今ここで逃げるのが一番。よって私は悪くないQ.E.D(証明終了)。


 というわけで回れ右してこの場からエスケープ。ランナウェイ。


「潰れろ!!」


 はい、アーニィ今日まで。ありがとう。忘れないから、たぶん。


 ――と思ったけど。


「はぁ!」


「なにぃ?」


 おお、受け止めた。アーニィの細腕がその倍以上あるアニキの剛腕を受け止め――いや、弾き飛ばした。

 え、なにこの最強キャラ? 出て来るジャンル間違えてない?


「ちびっこが!」


「関節を見極めれば!!」


 アニキが左腕を横に薙ぎ払う。それをアーニィは深く沈み込み、そして右の肘を打ち上げる。それはアニキの剛腕――その肘に当たって軌道を変えた。

 ああ、ピンポイントで方向を変えて軌道をずらしてかわしてるってわけ。とんでもないことするわね、この娘。


 うん。これはもう勝ち確じゃない?


 左の横なぎも回避したアーニィは、そのまま一歩アニキに向かって踏み出す。


「アーニィ、手加減」


「承知です! メイド流暗殺術・秘技・ダンダンブラスター!!」


「こんのぉ!!」


 アニキが決死の様子で抵抗を示す。だがそれより速くアーニィは踏み込んで両手を前に突き出す。

 その踏み出す際、アーニィの体が数倍に膨れ上がったように怒張し、バリっという音と共にスカートと上着の背中が裂けた。


 ……えぇ、なにそれ。


 そのまま突き出した両手は、アニキの脇腹に直撃し胴体を弾き飛ばす。まるでボールになったみたいにアニキの体が跳ねて奥のテーブルにぶつかっても止まらず、先ほど彼が寝ていたソファに再びその体を沈み込ませた。そのまま動かない。


「ふぅ、討滅完了です!」


「…………」


 開いた口がふさがらない。最強はいいけど、反則級じゃない?

 アーニィの小さな体がその数倍あるだろう巨漢を吹き飛ばすなんて。というか手加減って言ったわよね、私。


「うっ……」


 ソファに倒れたアニキが苦しそうにうめく。


 ま、いいか。とりあえずあちらは全部これで倒したわけだし。

 少しは話を聞いてくれると、いいなぁ。

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