何食べに行く?(のんの)
「あ! しまった! タンパク質が何もないんだった! 買い物行ってくる!」
冷蔵庫を開けながら私が叫ぶと、仕事終わりのしーちゃんがコーヒーを飲みながら言った。
「これから買い物してごはん作るの、大変じゃない? どこかに食べに行こうよ」
「マジで!? 行く!」
「何食べにいく?」
「え! 私が決めていいの?」
「こないだは私が行きたいところにしてもらったし。っていうか、私が行きたい場所だと永遠に回転寿司になるけど?」
「あー、なるほど! 嫌いなものはある?」
「辛いもの以外ならOK」
「いっしょー! 私も辛いの苦手」
「「でも、わさびは好き」」
しーちゃんとセリフが重なり、顔を見合わせぷぷっと笑う。
「なんだろね。一味系の辛さは少しでもだめ。ひーひーいっちゃう。味がどうこうより、ただただつらい」
「わかるー。わさびは逆に鼻につんつんくるくらい辛いのが好き。涙出るってわかっててもモリっとつけちゃう」
*
気づけば私たちは、二人でお寿司のレーンを眺めていた。
「わさびの辛さはね、鼻から息を吸って口から吐くと軽減される」
しーちゃんが、追いわさびをのせたお寿司をパクっと食べる。
スーハースーハー。
「なるほど」
私も真似して食べる。
もぐもぐ。
スーハースーハー。
わさびの呼吸、完全に理解した!
お寿司は、最高に美味しい。
*
「結局私の行きたいところになったじゃん」
お寿司屋さんの帰り道、しーちゃんがポツリと呟いた。
「いやーだって、わさびの話してたらお寿司が食べたくなっちゃったんだもん」
「じゃあさ、この前行きたいって言ってたカフェ、モーニングやってるみたいだから、明日そこに行こう」
「モーニング! え、朝から外食していいの?」
「だめな理由ある?」
「……ない!」
そうか、私はもう朝イチから自由なんだ。
思うままに動いて、好きなことを好きなように楽しんでいいんだ!
「いいね、モーニング!」
「いいぞ、モーニング」
しーちゃんは、私の何気ない行動や、さりげない言葉を拾ってくれる。
別に私に気を使ってるわけじゃなくて、それが自然にできる人。
「しーちゃん大好き!」
「はいはいはいはい……モシャス!」
しーちゃんが「はいはい」言いながら私の頭をわしわし撫でる……いやこれ撫でるっていうよりぐしゃぐしゃにしてない!?
「何!? この雑ななでなで! もっと優しくして!」
「要求多いな」
今度は髪の毛をピロローンと伸ばす。しーちゃんは照れると謎の行動をする。完全に遊ばれてるし、もしゃもしゃになった私の髪の毛を見て楽しそうに笑ってる……けど、ま、いっか!
帰ってきてから手を洗いに二人で洗面所へ。
明かりがパッとついた瞬間、鏡に映る私の姿に、二人で声を上げて笑う。
私の髪の毛が芸術作品になっていた。
「のんの! なに、その頭!」
ゲラゲラ笑う、しーちゃん。
「ひっどーい! しーちゃんがやったんじゃん! 直してよぉ!」
そう言う私も、あまりのおかしさに笑いが込み上げる。
夜でよかった。誰にも見られていませんように!