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推しと球技大会2

 あの後なんと茜と霧島の追及を振り切った俺は、裕次郎たち同じチームのクラスメイトと合流した。


「京介、まだ一回も試合してないのに、なんか疲れてないか?」

「ああ、うん。朝からいろいろあってさ……」

「ああ。そういえば茜たちに絡まれてたな」


 ため息交じりに愚痴る俺の肩を裕次郎が思いっきり叩いてくる。

 むっちゃ痛い…… 肩が外れるかと思った。


「やめてくれ。裕次郎のせいで試合をする前に大けがするだろ」


 叩かれた肩をさすりながら裕次郎を睨むと、裕次郎は「悪い悪い」と笑いながら背中に二発、追撃をしてきた。

 今日は厄日なのかな。霧島に心を、裕次郎に体をボロボロにされ、何もしていないのに心身ともに疲れた。


「お~い! そろそろ予選リーグが始まるぞ!」

「やば、京介行くぞ!」


 グロッキー状態の俺は裕次郎に引っ張られて、というより半ば持ち上げられながら、試合が行われるコートに連行された。





 あれから俺たちは、特に何事もなく予選リーグを順調に勝ち進んでいた。

 俺のチームは俺と裕次郎以外は運動部でかなり動ける。それに、裕次郎はミニバス経験者だし、何より巨人だ。

 フリーになったらすかさず運動部のチームメイトがシュートを打ってくれるし、もしシュートが外れても裕次郎がリバウンドを取ってくれるので、俺はフリーになった味方にパスを出す以外の仕事がなかった。


 だから、俺の午前中の仕事といえば、黒川さんの応援に行くことだけだった。

 いや、仕事というと人聞きが悪いか。俺だって黒川さんがバレーボールをしているところ見たいし。


 試合の空き時間に裕次郎たちと一緒に、女子のバレーボール会場に足を運ぶ。

 ちょうど黒川さんが相手のサーブを綺麗にレシーブして見せたところだった。

 黒川さんがレシーブしたボールは、練習会の時に黒川さんにジャンプサーブを教えようとしていたバレー部の足立さんの頭上にふわりと上がる。

 黒川さんのパスを受けた足立さんが、霧島さんにトスを上げる。


 足立さんの綺麗なトスを受けた霧島が見事なスパイク…… を打てずに空振った。


 そのボールを黒川さんが慌ててフォローする。

 ボールはネットに引っかかってから、ころりと相手のコートに落ちた。


 結果オーライというやつだ。


 ていうか霧島、意外と運動できないんだな。今度霧島がからかってきたときには、あの空振りの話を持ち出してカウンターをしてやろう。


 霧島は「ありがと~!」と黒川さんに抱きついている。そりゃあ今のは黒川さんがいなかったら相手の得点になってたもんな。霧島にとっては命の恩人みたいなものだ。


 霧島に抱きつかれた黒川さんは、足立さんにハイタッチを求められて恥ずかしそうにだけどぺちんと手を合わせていた。

 よかった。昨日は泣くほど怖がっていたのに、いざ始まってみれば黒川さんは楽しそうにバレーボールができてるみたいだ。

 

 


「いや~ 霧島さん、いつもの髪型もいいけど、今日の髪型も似合ってるよな~」


 黒川さんたちに声援を送っていると、同じチームでテニス部の石田が突然そんなことを言い出した。


「なんだよ。お前、霧島狙ってるのか?」


 そんな石田に裕次郎がちょっかいをかけに行く。


「霧島さん普通に良くね? 身長高くてスタイルいいし、クールで格好いいし、面倒見良いし優しそうだし」


 それはどうだろう。身長高くてスタイルがいいのは認めるが、それ以外は正直微妙なところだ。というか、さっき見事に空振りしていた霧島のことをクールで格好いいと言える石田も不思議な奴だな。恋は盲目と言うけど、その通りだと思った。


 まあでも、石田が好きというなら応援はする。もし仮に付き合ったとしても、石田が尻に敷かれている

姿がありありと目に浮かぶけど。


「そういえば京介、霧島さんと仲いいよな」

「ああ、うん。同じ学級委員長だしね」

「まさか…… 京介も霧島さんを狙っているのか……?」

「いやいや、ないない」


 本当にあり得ない。だって霧島、なんか怖いし面倒くさいし。それにこの前身長のせいで振られたし。


「なら安心だ!」


 ころりと機嫌を直した石田が肩を組んでくる。

 裕次郎ほどではないが、石田も俺より10㎝は身長がでかいので、押しつぶされそうになるのを何とか踏みとどまった。


「その、京介。お前、霧島さんの好みのタイプとか、聞いたことないか?」


 霧島の好みか…… そういえばこの前、霧島に屈辱的な事を言われたことを思い出した。

 タイプというとちょっと違うかもしれないけど、一応教えておくか。


「霧島は自分よりも身長が大きい人と付き合いたいらしいよ」

「なるほど…… じゃあ、俺にもチャンスはあるってことだな!」


 石田が嬉しそうに頷く。


「よかったな、石田。少なくとも京介よりは脈ありだな!」


 裕次郎がガハハと笑いながら俺の肩を叩いてきたが、悔しいので無視だ。


 しかし、今日はなんだ、みんなの話題が恋バナに偏ってるな。球技大会というイベントの空気が、みんなの頭をお花畑に変えてしまうのだろうか。

 そんなことを考えていると、ピーッという審判の笛の音が聞こえてきた。どうやら試合が終わったようだ。


 結果は黒川さんたちのチームの圧勝だ。

 黒川さんも大活躍していたし、このままいけば決勝トーナメントに進める気がする。


 霧島や足立さんたちにまるでペットのように頭を撫でられている黒川さんを見ていると、俺の視線に気づいたのか、黒川さんが胸の前で小さく手を振ってくれた。


 俺も胸の前で、黒川さんに向かって手を振り返す。

 その様子を見ていた霧島がニヤニヤしているが無視だ。


「京介、次の試合始まるから行くぞ!」

「あ、うん」


 今度は大きく黒川さんに手を振って、次の試合に向かった。



 昼休みを挟んで、予選リーグを勝ち進んだチームが出そろったので、決勝トーナメントが始まった。

 俺たちはそこまで苦戦することなく準決勝にまでコマを進めることができたのだが。


「ああ、これが裕次郎の言ってた五組か……」

「そうだ。バスケ部三人を擁する優勝候補だ」


 試合が終わって移動をしていると、隣のコートで五組が三組と試合をしていた。試合時間は残り30秒。この球技大会では、前半後半それぞれ10分ずつで行われるため、そこまで点差が開くことはない。

 はずなのに、得点板に目を向けると、なんと58対2で五組が圧勝していた。


「でもこれ、強いっていうより……」

「ああ、大人げないよな!」


 裕次郎がきっぱりとそう言い切った。まあ、正直俺も同意見だ。


「それよりも早く女子の応援行こうぜ! 霧島さんたちのチームも準決勝進出したんだってさ!」

 石田がその場でジョギングをしながら俺たちを急かす。そんなに霧島がバレーをしているところが見たいのか。


「じゃあ、応援行かないとだな! ほら、京介も応援行くぞ! 黒川さんの活躍を見逃してもいいのか?」

「いや、別に黒川さんだけを応援しに行くわけじゃないから」

「そんなこと言って、黒川さんの活躍を見たくないのか?」


 まあ、見たくないと言ったら嘘になる。黒川さんはバレーボールが上手いし、霧島たちと楽しそうにバレーボールをしている黒川さんを見ていると、こっちまで嬉しくなる。


 それに、黒川さんの応援に行くと約束したしな。

 俺は黙って裕次郎たちの背中を追いかけることにした。

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