鬼族の番が最強らしいが、私にだって封印されている鬼がいるんだから〜大切なものを無理矢理奪われたので根本からなくすことにした〜!鬼は彼女を健気に待っていたのに焦らされているらしい〜
壁に大きな音。
言葉で言い表せない位の痛み。
脳が揺さぶられる。
そう……始まりは、強く頭を打った時。
ではなく、妹の運命のつがいとかいう鬼族に、たかが姉妹喧嘩如きにしゃしゃり出て来たと思ったら、そいつに突き飛ばされ、壁に頭を打ちつけた時だ。
いや、もっと遡ればありとあらゆる原因は鬼族の番が妹に現れ、平凡な家族が一夜にして栄華という花道を急に目の前で広げられたせいなのだろう。
異種族の番、特に能力が秀でている番に見染められて、幸せになる分には別になんとも思わないよ。
うんうん。
でも、アクセサリーを貸してくれと言われて、一番お気に入りゆえに貸したくないと首を横に振っただけで何故、壁に叩きつけられねばならないのだ。
ブチギレしたマリスティールは、怒りに震えていた。
それはもう、それはもう。
何故キレたのか。
親はマリスティールが頭を打ち、一日意識を戻さなかったというのに、この事件をなかったことにした。
自分はその時のことを、かなり客観的に伝えられた筈なのだが。
相手が鬼族と妹ということで、自身の価値を底辺にしている現在の状況でマリスティールの味方をする可能性は、地より下になっていたよう。
乾いた笑いを一頻り、やり終えるとキレた顔をそのままに己は家を飛び出す。
位置を確認して、乗り物を乗り継ぎ、とある森に突撃した。
場所は把握していたがこの生でまさか、会うとは思わなかった。
「許さん。絶対、許さん。生まれたことを後悔させてやる」
足音荒く進む。
特に鬼族。
そして、今調子に乗っている多種族達。
人間はヒエラルキーでいうとぶっちぎり底辺。
自分はかつて前世があり、今より昔の記憶を保持している。
頭を打って思い出したのではなく、生まれた時からすでにあった。
もし、鬼に突き飛ばされなかったら絶対にここには来なかった。
「はぁ、はぁ、ここに居る筈っ」
運動不足極まれり。
記憶している鬼の封印されている場所を見つけて、遠かった道に息を吐く。
思ったより樹海だった。
分かったのは封印箇所がモヤっているから。
薄い煙のようなものが見えるし。
「こうなったら、この世全てを荒波時代に突入させるっ」
宣言する。
流石に、異種族達はあぐらかきすぎ問題。
「メノウ!起きて!世界を震撼させる旅に出るよ」
封印を解除する為に、決めた手順を済ませた。
空間が歪む。
モヤモヤした霧が晴れていく。
晴れたら、そこには橙色の髪と瞳を持つ、一角の人型が。
「お前は変わらないなぁ」
ダルそうに発言するは、鬼。
鬼には見えないけど正真正銘の鬼だ。
しかも、彼は始祖。
全ての鬼の最強の一角を担う存在。
なぜ、彼と親しく話しているのか。
マリスティールは転生を何度も繰り返している、稀有な体質を持つ者だから。
何度か異世界に転生したこともある。
「聞いて。あの、鬼のなり損ないに突き飛ばされた!私の玉の肌がやられたっ」
チクった。
チクってやった。
内容を聞いた男──メノウは上機嫌だった顔をクンッと跳ねさせる。
「お前を……始祖の奴らと数ある功績を打ち立てた、世界の功労者のお前を?」
「あ、そこはどうでもいい。問題は、ただの鬼の溢れ出ている気を浴びた人間が鬼を名乗っていることが、超問題なんだよ」
首を振って、過去の栄光は忘れるように伝える。
「別に自慢したっていいだろ」
「だから、いいんだってば。それよりも、その鬼族のおの字もない鬼族成り変わり、の鬼を退治しにいかないと」
そう、今巷で大人気の鬼族を名乗る彼らは本物ではない。
ただの角の生えたちょっと力持ちな人間なのだ。
そもそも、鬼のオーラかなにかが体に蓄積されていったと睨んでいる。
つまり、鬼族とは調子に乗っている偽物達のこと。
鬼が静かに眠っているからといって、幅を利かせている勘違いども。
「まずはメノウがえいっ、てやって」
「えいってなぁ、お前」
こちらを見つめる鬼に首を傾げる。
「お前を怪我させてえいっ、で済む訳がないだろ」
消し炭だ、と低い声で裁断の宣言が森に響き渡る。
森から出て、家への帰路の途中。
マリスティールとメノウは色々話し合っていた。
主にこちらの今までの軌跡。
「異世界で高校生?」
「いや、大円満で終わってるから高校卒業して大人として活動したから」
「で、小説の異種類婚を書いた、と」
様々な種族、多種多様なものを。
豊作だった。
「うん。今の鬼とか異種間の婚姻とかがヤケにプッシュされてるのは多分、それも関係してるかも。バイブルってやつ」
「バイブルなんて今時使うやつ居るか?」
「居ないかも」
そうそう、本も執筆した。
いやだって、異種間の話は大得意で、余裕で脳内再生できたから、スラスラ書けちゃって。
更に更に、実話ばっかりなわけで。
そのおかげで出版社の目に止まり、この世界の過去の時代に売った。
爆売れした。
世の乙女達、異類婚が凄い好みドンピシャだったらしい。
強い種族と運命の恋。
特にこの世界では、その異種間交友が行われていたことにより、嘘じゃなく本当だと思い込む人も結構いたんじゃないかな。
知らないよ、本当。
作者に罪はない。
「その影響が周り回ってお前に降りかかったわけだ」
「うっ!」
「で、偽物に突き飛ばされておれに泣きついてきたと」
「うう!」
指摘されて呻く。
一針人針、丁寧に。
「そんな意地悪言わないでよ。気にしてるんだから。そんなことより!鬼族から鬼成分を抜いて人間にしてね。約束」
確かに迂闊だった。
「それはどっちでもいい。お前を死にかけさせた礼はする。血祭り確定演出待ってろ」
「えすえすあーる確定演出あざます」
異世界の言語を交えて楽しむ。
メノウと仲がいいのに、封印されていたことは変だと思われるかもしれないけど、これには浅く広い理由があるんだ。
彼曰く、マリスティールが転生するまでの空白が暇すぎて、転生して解除するまでは時間を感じさせない空間に閉じ込めておいてほしいと頼まれたのだ。
当の本人に。
「はあ、今世は鬼を解放する予定はなかった」
鬼本人に愚痴る。
「しかたねぇだろ。鬼族が招いた自業自得だ」
これから、鬼族という栄華を極めた種族がこの世からいなくなる。
それは、一人の鬼が無粋にも姉妹のやりとりに正義の鉄槌を場違いに下した結果。
鬼族は自ら蒔いた種を、根こそぎ刈り取られるのだ。
本来、メノウがただ鬼を謳うことくらいで目くじらを立てることはないが、今回はやったことがワースト一位。
堂々と輝いてしまったことだろう。
マリスティールも、ここまで怒ることなど滅多に無いが、お気に入りのアクセサリーが目を覚ましたら、妹の胸元に盗人猛々しい癖して揺れていたことにより、頭が爆発した。
ブチギレた。
親の隠蔽も0.1は気持ちが分からなくもないが、せめてマリスティールのお気に入りのネックレスくらいは覚えておいてほしかった。
あのネックレス、12歳の時に11歳の妹とお揃いのデザインで色違いで両親から贈られたものだった。
あれを取られたのに咎めなかった家族に何度目かの失望と諦め、もういらないと理解した。
かつての彼らはもう存在しない。
言っても「また買えばいい」と言われておしまい。
そう言われるだろう、と予測できることがどんどん悲しくなった。
何度転生しようとも、誰かを信じることは必要だと人生に学ばされた。
そうじゃないと、この世は無常であると知っている分、生きる気力をなくしてしまう。
「ここ、わたしのウチ。もう直ぐ私のウチじゃなくなるけど」
斬新な紹介の仕方にメノウは笑う。
相変わらず色気のある鬼だ。
「ただいまぁ」
うちは一般家庭。
令嬢でもなんでもない。
なのに、家はとんでもなく豪華。
鬼族の番として選ばれたので、鬼族からの持参金で、家は一気に裕福になった。
「どこに行っていたんだ」
父が出て来た。
心配したというより、面倒な真似をした奴を見る目。
「旦那様連れて来た」
旦那でも運命の番でもないけど、設定的に好都合。
彼にも事前に確認済み、のち、オッケーを貰っている。
「は?旦那?」
父がメノウの方を見て蔑む目に変わる。
男の見た目は人間まんま。
今はツノを隠してもらっているから。
鬼と比べれば、芋虫みたいなものなのだろう。
「はぁ、出ていけ」
間髪入れず。
「いやー、ここまできたか」
開口一番じゃなかったけど、タッチの差で家を出ていけという発言を、受けてしまった。
「聞こえているだろう。荷物を持って」
途中で遮る。
「もう持ってるし。あの鬼族の偽物に用を済ませたら確実になにを言われても出ていくしー」
のびのびとした語尾をつけて用意していた父に縁切りの紙を渡す。
偽物発言がよく理解できなかったらしく、不機嫌な顔でサインしようとして止まる手。
本物だから驚いたのだろうね。
「口だけはダメダメ。この私に出ていけという気概だけは褒めたげる。じゃ、ちゃっちゃと書こうか。吐いた言葉は今更どうにも出来ないよ」
目をすがめ、今まで積み上げた人生のミルフィーユを、元家族に垣間見せる。
「っ、後悔するぞ」
何をそんなに詰まるのだろう。
「うーん?先に出ていけって言ったのはそっちなのに、後悔するのって私なの?」
可笑しいぞー?
と、煽る。
父は思った通り、驕り高ぶった精神状態をコントロール出来なかった。
乱暴に記入してペンを転がす。
マリスティールは先に書いておいたので、あとは提出するだけ。
「影に運ばせる」
メノウは己の影を具現化させて、分身を作ると紙を持たせて役所へ持って行かせる。
その異能を目にした父が座ったまま腰を抜かしていた。
「なっなっなぁっ」
鬼族にはできない芸当。
始祖の鬼だから出来ることだよね。
「さて、次はあの鬼擬きから鬼抜きするか。ついでにトラウマ植えつけてやる。くくく、楽しみで楽しみで今から武者震いしてきた」
いつもは気だるいのに、血の気の多いところもある。
しゃっきり目を開けた鬼の彼は、のっそり立ち上がる。
「折角旦那っつー設定を使うんだ。分かりやすく抱き上げてやる」
色気をほとばしらせる。
目を向けられて首を振った。
「えー」
文句というか、遠慮を申し上げようとする前にするっと持ち上げられる。
「始祖のおにー様ありがとう」
とりあえずお礼を言う。
「寝かしつけもオプションでつけてやる」
突然、上機嫌。
「今のそんなに嬉しかったん??」
どうやら、おにー様呼びがツボに入ったらしい。
「お兄さまって響き、なかなか危険なものだと思わないか」
「それはそっちの好みの問題なのでは?」
マリスティールは少なくとも思わない。
メノウにお姫様のやり方で運ばれて、妹と鬼の暮らす部屋へ、バーンと入る。
「騒々しい」
クールに決めている鬼族。
それは、真実を知る身としては哀れである。
「騒々しいだぁ?誰に向かって口聞いてやがる」
メノウの始祖の能力と圧が鬼を包むように締め上げる。
「ぐ!?」
持ち上げられる巨体。
寒気と危機感と、殺気と嫌悪を一心に体験した人間属性鬼コスプレ。
「本物の鬼に喧嘩を売ったんだ。高値で買ってやるよ。おれのものに手を出したお礼もまだしてない」
報復を受けている彼は、何が起こっているかわからないのだろうな。
気力で髪がふわり、うねりと動く鬼の迫力が偽物に突き刺さる。
「ほん、ものの?」
「お前にいいことを教えてやる。お前らは鬼族じゃ無い。鬼の匂いをつけただけの香水ぶっかけ族ってことをな」
「いきなり、来て、なにを。ざれ、ごとを」
「お前ら、自分たちの生まれ知ってるよな」
「!」
自称鬼族の顔色が変わる。
「知らないわけないよな?本当は番を感じ取れないのがその証拠だ。真実は、自分好みの女を自分のものに出来るメリットが始まりか?それとも、ちっぽけな人間が同じ種族に持ち上げられて、敬われたのが手放せなくなったか?」
「番を感じ取れないよね。やっぱ」
知ってた。
鬼族について調べた時に。
普通、番を得たり、亡くしてしまえば次の番は居ない。
当たり前だけど、次の番なんて存在してしまう場合、じゃあ前の番はなんなんだという、齟齬があるわけ。
たまにあるというが、そのたまにが歴史的に見たらよくある回数なのだ。
つまり、運命の番は偽物にとったら、好みの相手を好きに選べる特典。
結婚してても恋人が居ても割り込める。
次に好きな人が出来ても、超有名なお前は本物の番じゃない祭りが、開催されるわけだ。
番は運命というくせに、なぜか本物の番じゃなかったセールはそこそこある。
本物の番など、元々存在しえなかったというのに。
マリスティールがそれについてなにも意を唱えていないのは単純に生まれ変わる間で運命の番という、知らない種族と種族のルールというか、決まりが出来ていたから。
調べても過去、運命の番というシステムを導入した種族が居なかったせいで、そこに辿り着くのに苦労したものだ。
新種だと思ってました、まる。
不穏な気配を感じたのは運命の番、第3段なんていうものを見つけたから。
ぶちのめしに行こうとは思っていたけど、鬼族を解放する予定はなかった。
メノウが種族の中でマリスティールのことになると、一番強火になってしまうのだ。
「は、離せぇ」
最初よりも自信が薄くなった声音。
偽物鬼はメノウの力から解放してもらいどさっと落ちる。
「首尾は?」
「完璧だ。おれの辞書にはその類しか書き込んでないからな」
にやりと笑みを形作る、頼もしい相棒。
「はぁはぁ、大丈夫か?」
偽称種族は、番と言い張っている好みの女たる妹を心配する。
しかし、妹は一点を見つめて固まる。
「ひい!」
引き攣る悲鳴。
このオニーサン(鬼と掛けた)は二つ角持ちの生え方をしていた。
その生えたところを、彼女は至近距離で見たのだ。
「ぶふ」
耐えきれずお腹がギュッとなる。
「傑作過ぎる。メノウ天才すぎて生え、いや、草、ううん。やっぱツラいっ」
「なに?なにが……教えてくれないか」
鬼は笑い出すマリスティールを怪訝そうに見ると、愛しの女に向かってたずねる。
おいおい、今聞くなよ。
いやいや、聞かないであげてよ。
ショックで固まってるじゃん。
「教えてやれよ。代わりに」
「ええ?わたしがぁ?そんな親切な処刑ある?」
マリスティールはメノウが作った手鏡を、ポイと放る。
近寄ると腹筋シヌもん。
人間に角が生えただけの男は、手鏡を震える指先で掴む。
本当はなにが起こったか、薄ら想像は出来ているらしいよ。
最強の鬼がただの人間に大笑いされ、最強の鬼が人間に見えるナニカに締め付けられた。
それだけヒントがあれば、十分な結末だろうさ。
「あ……馬鹿なぁああ!」
一拍置いて喉が裂けそうな音が響き渡る。
男は二角の角を持っていた。
その角が丸々無くなっているのだ。
しかも、男はツノの太さを自慢に語っているほど、恐らく一族の中で大きいのだと思う。
太いイコール頭皮を占める面積が広い。
ツノが生えている部分に髪はない。
クマの耳の形をした部分が残る。
そして、生まれて存在し続けているツノが生えていた箇所に最初からないものは生まれない。
頭の上部の大半を角で占めていたので、クマの耳がおでこの少し上にあることになる。
「ごほん!よし、次行こう」
「ああ。鬼炙り開催だ。ケーキ用意しろ」
メノウはまだ何も納得してないらしく、追加でやるらしい。
「鬼の力は怪力だけじゃねえ。間違った情報を拡散しまくった罪人には、お似合いの罰だ」
彼は手に火を宿し、相手に投げつける。
「ぎゃああああ」
「あつっ」
妹にも火が近いので、熱さで悲鳴を出す。
「おー、まるで正月のキャンプファイヤー。今度やりたいねー」
「狐族の国に行って叩き起こしたら、食いに行こうぜ」
そんなことを言われたら狐族の始祖を思い出した。
彼女は封印されてないので、社とかで眠りこけていそう。
叩き起こすのは可哀想ではないか。
「おれのことは叩き起こしたのに、あいつは叩き起こせないって言うのか?種族差別か?」
「やる、やるよ」
マリスティールは、確かに不平等だったと反省。
「火、火を消してっ」
おっと、会話に集中し過ぎた。
「あ」
妹の懇願に思い出す。
でも、それって所謂、断罪のための罰だからさあ。
「やらかした分燃えないと消えない」
怯えた身内だった彼女がやらかした分ってなに、と聞く。
「例えば、私を突き飛ばしたりした罪。そんな罪がある分だけ、燃え続けるってこと」
「!──そ、んな」
青ざめる元妹は思い当たる節があるみたい。
「随分と……彼氏使ってのさばってたらしいね?聞いたよぉ」
彼氏の鬼のフリしたやつ。
その男を使って好き勝手していたとか。
マリスティールは妹も腐り果てたと思ったので、いずれ裁きを自分が下すと思っていた。
思ったよりも人のものを分捕り、奪い、鬼が暴力を振るう一連の流れの行為の慣れを嫌と言うほど判らされ、これはマリスティールの断罪だけでは弱い。
また再犯するぞと思い、一番火力高めで自称鬼族の皮を一つ残らず暴くには、効果的な種族を選んだ。
やはり、偽物には本物をぶつければ確実だねっ。
「じゃ、妹にもヨロシク」
というわけで。
「了」
メノウに若者言葉を教えたのは私です。
「い、いやっ」
逃げようとするが、彼女の頭皮をメノウの弱火が襲う。
「ミディアムにしておいた」
「きゃああああ!!」
「もー、髪残っちゃう」
「いいだろ。残ってもマダラだしな」
「いやああっ」
二度と悪さ出来ないよう。
それに、もう鬼族の男から鬼成分は抜いたので、ただのクマの耳を所持してる、男の人間だ。
「番同士仲良くね」
「よし、次行くぞ」
番カップルは、ぶつぶつ聞こえない音量で呟いている。
次は、両親。
部屋を出るとメノウがネックレスを見せてくる。
「これ、居るか?」
「いらないいらない」
断捨離しつつ、両親にも縁切り完了済みと告げ、メノウと共に鬼の彼氏を紹介して、能力披露したら喜んだ。
「でかしたぞ」
「流石私の娘。二人の娘が鬼の」
「あ、もう籍を抜いたからもう私家族じゃないの」
「え?」
「は?」
アホヅラ夫婦。
「というわけで、よろしくおねがいしますー」
「任せろ」
鬼のパフォーマンスは最高だ。
家が浮遊して、鬼族の里にまで飛んでいく。
鬼の里に着くと、鬼族を速攻で人間に戻した。
残念ながらマリスティールでは鬼族から鬼を抜くことはできないので、自らの手でやれないことが至極残念だった。
やはり、やられたら自分でやりたいよねぇ。
「弱きを助け、強きを裁く」
「ちょっと違う」
二人だけ和やかな空気を出して、鬼族の里を後にした。
元我が家はそこに置いていく。
「いやぁああ」
鬼族の女の声が特によく響く。
ソプラノパートじゃ輝く甲高さだ。
鬼族のもの達は老若男女全員ツノが無くなっている。
腕力もね。
これからは、人間と共存しなければ生きていけない。
数百年前までは人間として暮らしていたのだ。
するしかあるまい。
いや、やれと思った。
子供はまだ、ツノがちゃんと生える前なのでリカバリーができる。
「そも、ツノってなに?腕力は分からなくはないけど、ツノ生える理由ある?」
聞いてみた。
「あいつらは人間だからなんの意味もない飾りで、おれにとっては空間を把握するための反響媒体だ」
「音を鳴らして、鳴らした音で距離が分かるっていう、あの?」
「その他にもあるが、あとは第五感、第六感みたいな役割もある」
「無くなったらどうなるの」
「……生えてくる」
生えてくるのはわかっているけど。
「いや、違うって、だから」
「無くなっても、特に困ったことはない。強いて言うなら、お前の頭にぶつかることを気にしなくて済むってところがメリットとは言えるぞ」
「唐突におでこって言われても」
普通、家の枠にぶつからないことを例えると思っていたけど。
彼の角はオンオフ式だ。
消したり、消さなかったり。
マリスティールはそれを知っているので疑問が浮かぶ。
人のおでこには、ぶつからんやろ。
「でも、これでやっと始祖達を叩き起こして世界大波時代到来させる計画、始動できる」
冒頭で宣言したことを始める。
「そうか。がんばれ」
「他人事だ」
そこを手伝って欲しいところ。
「狐族は始祖にやらせろ」
「うん。で、カチューシャ作ってね」
マリスティールの言葉にどうしてだと疑問を呈される。
「尻尾と狐耳なくなってさ。そのあと耳のカチューシャ売ったらボロ儲け出来るよね」
今の所狐族に恨みはないので、あくまで異種族類婚に対する上位種族だぞ、という調子に乗っている鼻を粉砕させる理由以外、追撃する建前が見当たらない。
ある意味、全ての種族を全て平等に生きるようにするという、世直し(?)とやはりどうせなら、始祖に圧倒的力で思い知らさせる方が、効果抜群。
「お前……」
男が眠たそうな瞳をこちらへ向ける。
「最後まで付き合う」
相棒が頼もしい。
「当たり前。そのために起こしたんだから」
二人して道中を進む。
「鬼の類婚書いたなら、お前も好きだよな」
「え?なに?あ、ごめんごめん。実は私の好きなジャンル、異世界トリップ。いたぁ!」
鬼のツノの太い部分でおでこを殴打された。
なぜに?