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薬術の魔女関連

蜂蜜酒

作者: 月乃宮 夜見

蜂蜜酒のネタを見かけたので書けるか試した話。


全年齢版。まさかのオチ。


本編『薬術の魔女の結婚事情』(https://ncode.syosetu.com/n0055he/)


「此れを、どうぞ」


 結婚した翌々日の夜、居間で魔術師の男が蜂蜜酒を差し出した。金色の液体が瓶の中でゆるりと揺れる。


「是非ご賞味くださいまし」


と真剣な顔で言われるものだから、薬術の魔女は早速硝子の器を出し、その蜂蜜酒を注ぎ入れた。


「おいしい!」

「それは良う御座いました」


蜂蜜と酒精の芳香と、何か香辛料の風味が鼻に抜ける。味は酸味があるものの甘味が強く、どちらかといえば薬術の魔女の好みの味だ。


「急にどうしたの」

一般論(セオリー)通りに、物事を進めてみようと思いまして」

「へ」


手に持つ蜂蜜酒に視線を向け、再び彼の方へ戻す。


「飲みましたよね」

「う……うん」


にっこりと笑う彼に薬術の魔女は眉尻を下げた。別に何かが困るというわけではないが、少し不意打ちを受けたような心地になっただけだ。


「では、宜しくお願いいたします」

「むーん……わたしも、一応お酒は用意してたけどさ」

「私は(ただ)の酒では簡単には酔えませぬが」

「わたしだってそうだけど」


言いつつ、蜂蜜酒を出す薬術の魔女。魔術師の男の出したものより小さい瓶であったが、中身は色の濃い濃縮された琥珀色の液体だった。


「きみが忙しそうだったから、作ってないかもって思ってたんだ」

「……私が、其処(そこ)(まで)の甲斐性無しに見えましたか」

「だって、ほんとに忙しそうだった」

「そうでしたか。不安にさせた様で申し訳ない」


薬術の魔女は口を尖らせ、拗ねた様な口調で言い訳を零す。揶揄しながらも、魔術師の男は謝罪を口にした。薬術の魔女の言う通り彼は暇だった訳ではないが、時間を捻出して蜂蜜酒を仕込んでいたのは確かだ。

 薬術の魔女の頬は薄ら赤く色付いているので、本当に拗ねていた訳ではなく羞恥を誤魔化そうとして言ったのだと魔術師の男は理解した。


 薬術の魔女は作った蜂蜜酒を硝子の器に注ぎ、魔術師の男の前に出してやる。


「……これは」


口を付けた魔術師の男が少々瞠目した。


「おいしい?」

「えぇ。薬草の風味が実に貴女らしい」


それは蜂蜜酒(ミード)というよりも蜂蜜薬酒(メセグリン)に近いものだったらしい。口元を綻ばせた彼に、薬術の魔女も緩んだ表情を見せた。


「えへへ。でもきみの作ったお酒も結構薬草というか香辛料の風味するよね」

「貴女の好みに合わせましたからね」

「なるほど」


軽く会話を交わしながら、互いの作った蜂蜜酒を飲む。


 結婚した夫婦は、蜂蜜酒を贈り合う。その渡す日はいつでも良いが、結婚して間もない頃が普通だ。

 そして手作りの蜂蜜酒を満月の夜に渡すことは、愛の告白を意味していた。だが、今夜は三日月。

 三日月夜に渡す意味は、初恋。


「……ん。なんか、ふわふわする」

「……そろそろ、寝ましょうか」

「ちょっと早いけど」

「良いではないですか」

「うん……」


 居間から、夫婦寝室へと移動した。

 入ってすぐに魔術師の男は薬術の魔女の頬に手を添え、その瑞々しい唇を食んだ。開いた隙間よりぬるりと舌を侵入させ、絡ませる。

 濃密な口付けを終え、唾液の糸が切れた。


「あはは、蜂蜜酒の匂いと味がするー」

「口に含みましたからね」

「なんか新鮮ー」

「……少々、効き過ぎたか」

「そんなことないよー」

「……」


酔って居るな、とは思いつつ魔術師の男は再度口付けをする。それもそのはずで、魔術師の男の差し出した蜂蜜酒には彼の魔力が入っていたのだ。なので、彼女は魔力で酔ってしまったのだろう。


 彼女を支えつつ寝台の方へ向かった。


 寝台に彼女を座らせ、その隣に腰掛ける。重みでギシリと軋んだ。


 再び口付けをしながら、普段より気持ちが昂っていると魔術師の男は気付く。


「……考えてることは一緒、みたいだね」

「まさか」

「わたしも入れたの。魔力」

「ふ、そうでしたか」


 互いの魔力に馴染むために、一般的には魔力を込めた魔力石を蜂蜜酒に入れて一月程寝かせる。

 だが、『相性結婚』で結ばれた二人には正直なところ不要なのだ。


 蜂蜜酒には高い強精・強壮作用がある、と昔から言われている。他、子沢山の蜜蜂にあやかったまじないもあった。そんな蜂蜜酒に魔力を入れると、魔力の作用により言い伝えが本物となる。

 要は相手の魔力が媚薬となるのだ。


「んー、ふわふわするー」


ふひひ、と笑いながら薬術の魔女が魔術師の男に抱き付く。


「いい匂いー」


ぎゅむ、と顔まで埋めて……静かになった。


「……」


ぺろっと薬術の魔女を引き剥がすと、


「……すぴー」

「寝よったか」


見事な寝顔を晒している。そんな気はしていた。

 薬術の魔女はなぜだか、彼の魔力を多めに摂取すると眠くなるらしいのだ。少し、多かったらしい。


「……まあ、良かろう」


 小さく息を吐き、薬術の魔女を寝台に寝かせる。そのまま彼も寝台に入り、彼女を抱きしめて横たわった。


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