90 ジュネーブ
ベルギ国首都「ブリュッセル」
ベルギ国の首都。名前の由来は「沼地の家」
「船はギャンブル狂いのおっさんと妖精達に任せてきたのじゃ。」
「そんな事をして大丈夫なのか?」
「計画にはなかったのじゃが、「ツール・ド・フラン」を追えば内陸の街も紹介できると気付いたのじゃ。」
「南フランスで合流する予定だな。」
「ベルギ国は隣のオラン国と仲が悪いのだったか?」
「表向きはそうなのじゃ。」
「表向き?」
「大国に挟まれた国が生き残っていくためには色々あるのじゃ。」
「大人たちは大変だな。」
「子供たちが到着するのじゃ。」
「ツール・ド・フラン」のチェックポイントにはたくさんの観客が詰めかけていた。
「少年の部のトップ争いはまたあの三人だな。」
「必死に自分が一番になろうと競い合っておるのじゃ。」
「頑張れー」「負けるな!」「その調子だー。」
「随分と応援に熱が入っているようだが、」
「大人はすぐに属性を付けたがるのじゃ。」
鼻高少年は「フラン国」出身。
前歯の少年は「スペイ国」と仲の良い「ポルトガ国」出身。
竿を差した少年は「神聖ドイ帝国」の影響が強い「ポーラン国」出身。
競い合ってる少年たちに観客たちは己の出自と重ね合わせて、まるで大国どうしの代理戦争の様な熱狂をみせていた。
ベルギ国はもともとフラン人と近い人々の住む場所だったが、フランとドイの国境争いにいつも巻き込まれていた。そこをスペイ国がかすめ取り、両国の緩衝地としたことで一時的には平和になっていた。
時代が進むと、大国に挟まれた立地は商売の場所として重要になってきた。力をつけた商人たちがスペイ国から独立しオラン国を作ると、ベルギ国は「オラン国対スペイ国」最前線になってしまった。
独立戦争はオランが勝利したのだが、ベルギの人々はオラン国に取り込まれることをよしとせず自分たちの国「ベルギ国」を作った。
「今回はポーラン国の少年が勝ったのじゃ。」
「神聖ドイ帝国が勝ったという事か?」
「子供の力比べに大人の都合は関係ないのじゃ。」
少年たちは口汚く罵り合いながら、お互いの健闘を讃えていた。
ルクセンブル公国「ルクセンブル」
「ベルギ国」「フラン国」「神聖ドイ帝国」に囲まれた公国。金融業、製造業、運送業などで栄えている。
「この国はポルトガ人が多いのじゃ。」
「ほぅ、ヨーロピアの西に果てからこの内陸国に?」
いかにもポルトガの女将さんという感じの女性がやってきた。
「あんた達もポルトガから来たのかい?」
「いかにも、ポルトガの方から来たのじゃ。「ツール・ド・フラン」の少年の部を見に来たのじゃ。」
「そのためにわざわざ来たのかい!?筋金入りの追っかけだね。」
「それほどでもないさ。」
「あたし達もあの前歯の少年を応援してるよ。遠い異国の地まできて故郷の少年が活躍してくれるのは嬉しいものさ。」
「ところで、あんた達は何故こんなポルトガから遠い国にすんでいるんだ?」
「大戦の後、ポルトガ国は未曽有うの大不況に見舞われたのさ、その時に、鉱山が発見されて製鉄業で景気の良かったこの国にね、、」
「のじゃ!!ストップなのじゃ!未来の話はNGなのじゃ!!」
ルクセンブルのチェックポイント争いは、前歯の少年が勝利した。
スイース国「ジュネーブ」
永世中立を謳うスイース国の国際都市。スイース国の主要産業は傭兵業である。
「フラン中を巡る「ツール・ド・フラン」なのに外国ばかりなのじゃ。」
「なにやら政治的意図を感じるな。」
「ちょっと早く着き過ぎたのじゃ。」
「なぁアレを見に行かないか?」
「アレとはなんじゃ?」
「国境さ。」
スイース国とフラン国の国境と思わしき場所は一面のブドウ畑だった。
「スイース国民は大変「ワイン」を好みます。スイースで生産されるワインの98%は国内で消費されるのです。」
「そ、そなたは!?」
「そうです。私がワイン博士です。」
「「ワイン」に詳しいなら、ブドウを見て国境がどこかわかるんじゃないか?」
「このスイースのジュネーブと、フランのサヴォワで生産されているブドウは似通ってまして、品種だけで判断するのは困難なのです。市場価格は断然スイース産の方が高いのですが。。」
そこに、いかにも農民らしい恰好をした男がやってきた。
「一緒だべ。」
「ん?お前は?」
「おらは、ここのブドウ畑の持ち主のスイース農民だ。」
「なるほど、この立派なブドウ畑を作った尊敬すべき農夫の方でしたか。それで、一緒とはどういうことですか?異なる国、異なる産地の「ブドウ」が似てはいても一緒という事は無いのです。」
「おらと、隣の畑の農民は幼馴染なんで、協力してブドウを育てとる。同じ種で同じように育てたからのだから全く一緒のモンだ。」
「つまり「ワイン」は国境をも超えるという事ですな。素晴らしいです。」
「素晴らしいものか。全く同じものが、少しだけ場所が違うだけで恐ろしいほど値段が変わるんだべ。都会の奴らは馬鹿ばかりよ。おらは儲かってるからいいけどな、隣の奴の気持ちを考えると喜んでばかりもいられんべ。」
農夫は何かしらの怒りを抱えている様子だった。
「妾達は国境を見に来たのじゃ。農夫よ案内して欲しいのじゃ。」
「あそこに見える垣根が国境だべ。」
そこには、さほど高くないけど手入れされた立派な生垣があった。
「ほぅ。さすがはヨーロピアだ。立派な国境の壁だな。」
「アフリカでは看板だけだったのじゃ。アメリカでは何もなかったのじゃ。」
「やはり、先進国の国境ともなると国も力をいれるのだな。」
「馬鹿を言っちゃいけねぇ!!国が何をしてくれるというべさ!!」
「のじゃ!いきなり怒りだしたのじゃ!」
「農夫特有のアレかもしれん。」
「アレはやっかいなのじゃ。」
「あの生垣はあまりにブドウ泥棒が多いから、おら達が自分で作ったんだべ!!」
「そ、それは、すまん事を言ったのじゃ。」
「あまりに立派な生垣だったのでついな。」
「おら達は協力してブドウの世話をしとるんで、邪魔で仕方ないんだべ!だんどもフラン人の野菜泥棒を防ぐにはアレしかないと思って作ったんだべ!」
「心中お察しするのじゃ。」
「それで、ブドウ泥棒は減ったのか?」
「いんや。。増えた。。。」
「さもありなん。」
「のじゃ?壁を作ったのに泥棒が増えるのじゃ?どういう理屈なのじゃ?」
「人の欲望には限りがないのさ。。」
「、、、」
「よくわからないのじゃ。。」
ブドウ畑の横にある大きな道を、いろんな国の少年たちが競い合いながら自転車で通り抜けていく。
「おらの息子と、奴の息子。いまは仲がいいけども、いつまでも笑いあっていられないかもしれないべ。」
「その為のアレなのじゃ。」
遠ざかる少年たちの背中を指さす。
「あんな自転車が何だっていうんだ?」
「アレはただの自転車じゃないのじゃ。人々に笑顔を運ぶ平和の象徴なのじゃ。」
「、、、」
農夫は遠ざかる少年たちを見ながら深く考えた。そして、
「餓鬼どもの未来の為に、くだらない壁をぶっ壊すべ!手伝ってくれるべか?」
「もちろんだ!」「まかせるのじゃ!」
スイースのブドウ農夫が始めた運動は、スイース国とイタリ国の間にあるアルプス山脈を横断するトンネルの封鎖を破壊した。
この出来事は両国に一時的な緊張を生んだが、すぐに和解し、その年の「ツール・ド・フラン」に、急遽、イタリ国内を通るルートが追加された。




