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85 ビーゴ



「ふーふー。おいら、、もう、、むりっす。。。」

「無理と言うから無理っす。やり遂げれば無理じゃないっす。」

「あ、足が、、おいらの、、足が、もう、、、」

「足が取れても大丈夫っす。自分のチェリーも生えてきたっす。」


 リスボンから乗船してきた前歯の少年は、自転車レースの最高峰「ツール・ド・フラン」の少年の部に参加して、プロ二輪レーサーになるため、ギャンブル狂いのおっさんが作った船内自転車練習機で特訓をしていた。


「回転が、」

「ぴー」

「ぴーちゃんは「自転車を漕ぐエネルギーでプロペラに回して船の推進力に変えている。」と言ってる。」

「がーははは。ぴーちゃんは賢いのー。がはは。」


「いつもの船内の景色なのじゃ。」

「、、、」


「のじゃ?元気がないのじゃ。どうしたのじゃ?」

「俺様のドラコが、、、」


 「ドラコ」とは、マダガスカル島で手に入れた巨大植物の種だが、俺様はドラゴンの卵と勘違いし、それはそれは大事に懐であたためて、殻を破って産まれる時を待っていたのだが、、、


 俺様が懐から取り出したドラコは、干からびてミイラのようになっていた。


「腐っておるのじゃ。遅すぎたのじゃ。」

「セラーヴィ。水分が抜けてますね。もう絞っても油を採れません。」


「医者に診せねば、、」


「私はヨーグルトが好きな船医ですが、これは医者の領分じゃありませんよ。」


「き、貴様!ドラコが死んでもよいというのか!?」


「もう死んでるっす」コソコソ

「し~。声が大きいのじゃ。聞こえるのじゃ。」


 船内に嫌な沈黙が漂った。



「ぜー。ぜー。おいらは、農家の三男だけど、なんとかなるかもしれないぜ。」


「、、早く言え。」

「言うのじゃ。」


「種は無事だと思うから、鉢植えに入れて水をやっときゃ芽がでるさ。」


「のじゃ!それは朗報なのじゃ。さっそく用意するのじゃ。」

「だが、船内にドラコに相応しい鉢植えが無いぞ。」


「がーははっはは。ちょうど都合よく名門貴族の関係者が治める港についたのだ。私が名門貴族に相応しい鉢植えを用意してくれよう。がーははっはは。」




 スペイ国ガルシア地方沿岸都市「ビーゴ」

 ヨーロピアの西端、イベリア半島北西部のリアス式海岸「リア・デ・ビーゴ」に沿って広がる沿岸都市。古代ローマ時代から人の住む集落があった。ガルシア州最大の都市であり各種産業が発展している。名前の由来はラテン語で「村」。



「がーはっはっは。ようやく我が栄えある名門貴族の関係者が治める名誉ある領地についたのだ。」

「やっと、解放できるのじゃ。妾の船の船賃は安くないのじゃ。」


「もちろん、わかっておるぞ。おい、副官!あれを持ってこい。」


 副官が差し出した袋には、粉が入っていた。


「これは塩かの?ペロリ。苦いのじゃ。」


 謎の粉の苦さにうんざりしていると。


「うーーー!!!うーーー!!!」


「のじゃ!なぜか猿ぐつわを嵌められた男がおるのじゃ。」

「「うーうー」言ってるな。」

「かわいそうなのじゃ。いま外してあげるのじゃ。」


 男が自由に話せるように猿ぐつわを外してあげた。


「私は「ニューリューベック」で誘拐された「再生ガラス工場長」ですが、、」


「何をいっておるのじゃ?」

「意味不明だな。」

「がーはははは。そういう時もあるだろう。」


「と、とにかく、その粉は「炭酸ソーダ」です。産地が限られていているため、新大陸にまわってこない、ガラスの作りにかかせないものです。」

「のじゃ!新大陸に産業を起こすのに必要なガラスの原料なのじゃ!」


「お前たちへのお礼にはそれが一番だと思ってな。がーはははは。」

『今後、一定量を「ニューリューベック」に届けるよう手配しておきました。』


「これさえあれば、私の工場でも再生ではないガラスの製造に着手できます。」


「何よりの贈り物なのじゃ。」

「名門貴族でなくとも友の良き未来は願い叶えるものなのだ。がーはははは。」



 波止場、それは旅立ちの場であり。別れの場でもある。


「妾は海へ」

「儂は陸へ」

「地形が妾達を分かつとも、友情は永遠なのじゃ。」

「さらばだ、友よ。がははは。。」

「また逢う日まで、なのじゃ。。」




 船は進み始めた。


「名門貴族はともかくとして、紙に書いて会話する有能副官は欲しい人材だったのじゃ。」

『小官はこのまま旅を続けさせてもらいます。』


「のじゃ!?そなたは波止場で名門貴族の横におったのじゃ。」

『あれは「ニューリューベック」から乗ってきたガラス工場の責任者ですね。』


「右隣ではなく左後ろなのじゃ。」

『それは「ナッソー」から乗ってきたカジノのオーナーですね。』


「まったく気付かなかったのじゃ。」

『名門貴族様も気付いてなかったですね。。。』



 そこに警報が響いた!!


「ごぶーーー!!」(前方に英軍艦。数多数!!)


「のじゃ!久々の海戦なのじゃ!?」

「へへっ、敵の狙いは「ビーゴ」港のようですぜ。」

「名門貴族め、知ってて妾達を逃がしたのじゃ。上陸後のエピソードが少ないと思ったのじゃ。」

「ドラコの鉢植えも手に入らなかったしな。」

『たぶん偶然だと思います。鉢植えは覚えてなかったと思います。』


 イギリ女王国艦隊は「ポルトガ国の商船」の旗を立ててる俺様の船の横を素通りする。


「油断しきっておるのじゃ。横っ腹に大砲をぶち込んでやるのじゃ。」

「へへっ名門貴族様のご厚意が無駄になってしまいやすぜ。」

「友の決死の覚悟は無下にできんな。」


「騎士っぽくてカッコいい展開っす。」

「おいらもカッコいい台詞を言いたいぜ。」


『たぶん今頃、「名門貴族の威光で蹴散らしてくれる」とか言って、まわりにぶん殴られてますよ。そろそろ街から降参の白旗が上がるんじゃないですかね。』


 すれ違いで起きた波が俺様の船を揺らす。

 ふだんは固く固定しているドラコがやせ細っていたため俺様の腹から転げ落ちた。


「な、ドラコが、、」


 ドラコは上番をコロコロと転がり、英艦隊のほうへと落ちていった。


「海水に浸かると発芽は困難っすね。」コソコソ

「これぞ本当のお陀仏っす。」ヒソヒソ

「し~。声が大きいのじゃ。聞こえるのじゃ。」



 すると、イギリ女王国艦から見事な男が、素晴らしきロープワークを駆使してドラコが海に落ちる前に掴み取った。


「なかなかの偉丈夫がでてきたっす。」

「これはさぞかし名のある吾人と見たのじゃ。」


「む、砲弾かと思ったが、なんだこれは?」


「女王陛下の軍人よ、ドラコを救ってくれて感謝する。」


「ドラコ?ドラコとはなんだ?」


「聞いて驚け、ドラコはドラゴンの卵だ!」


「なに!?ドラゴンの卵だと!!」


「そうだ!そして俺様の娘でもある!!返してくれ。」


 イギリ女王国軍人の見事な男はしげしげと卵を見た。

 そして、納得したように頷いた。


「たしかに、ドラゴンの卵のようだ。そして、ドラコはこの俺様「ドラゴン提督」にこそ相応しい!!」


「な、ドラゴン提督だと!?」

「「俺様」と言ったのじゃ。一人称が「俺様」だったのじゃ!!」

「すごいカッコいいっす。自分、憧れちゃうっす。」


『なんてことだ、「ドラゴン提督」が出てくるだなんて、、』

「む、副官しっているのか!?」


「妾も物語のプロットを考えているときに、各町のウィキペディアで見かけたのじゃ。世界中の海で略奪を繰り返す私掠船上がりのイギリ女王国軍人「世界で2番目に世界一周した男」なのじゃ。」

「なんてことだ、そんな2番目の男にドラコが攫われるなんて。」


「ふ、一周どころではないぞ!もう何週もしているのだ!これからも、何週も世界を一周するのだ!!」

「く、なんてことだ、このままではドラコが世界を何週もしてしまう。」



「そなたおかしな事をかんがえるでないのじゃ。相手はイギリ女王国海軍なのじゃ。」

「だが、このままではドラコが、、」


 俺様の顎にいいのを一発ぶちこんだ。


「この船には、赤髪の女海賊から預かった少年も乗っておるのじゃ。幸い、「ドラゴン提督」はドラコをどうにかする気は無いようなのじゃ。」

「だが、、、だが、しかし、、」


 俺様の腹に気合の入った一撃を叩き込んだ。


「今は、この海域を離脱する事のみを考えるのじゃ。」



「ほぅ、少しは頭を使える奴もいるようだな。しかし、逃がしはしないぞ!全艦砲撃準備!!目標、目の前のキャラベル船!!」

「ドラゴン提督閣下、お待ちください。相手はポルトガ国の商船です!国際問題になります!!」


 イギリ女王国海軍の船員がドラゴン提督を止めようとする。


「関係あるか!!旗などいくらでも欺ける。そもそも、死体は喋らんよ。」

「のじゃ!とんだ無法者なのじゃ!!」


「ドラコの父親は一人で十分だ!!砲撃準備いそげ!!」


 敵は混乱しながらも砲撃準備を始めた。


「全速離脱なのじゃ!!欺瞞開始!チャフばら撒けなのじゃ!!」


「どらこーーー!!どらこーー!!!」

「誰かその役立たずを船倉に叩き込むのじゃ!!ドリル回せ、気泡に乗って加速するのじゃ!!」


 軽快なキャラベルの船足と、煙や炎を使った欺瞞工作でなんとか離脱に成功した。



「どらこ、、、」

「このツケは必ず取り立てるのじゃ。」

「私がワイン博士ですが、ワイン瓶の底の厚さを教えてやるべきです。」

「こ、濾した後のコーヒー粉の苦さもです。」

「船員にケガ人はいないようですね。心に傷を負った人はいるようですが、」


「どらこ、、、」


「今頃、イギリ船員の腹の中っす。」コソコソ

「し~。声が大きいのじゃ。聞こえるのじゃ。」



 強敵との出会い、愛する者との別れ。船は海を進むのであった。





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