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79 ジャマイカ


「「スペイ国」に名門貴族を直接届ける事にしたのじゃ。」

「さすがに実家には断られないだろう。」

「してヨーロピアへ帰りの航路なのじゃが、、」


「ま、待ってください。」

「む、お前は!?」

「ぼ、僕はなぜか珈琲博士ですが、何か忘れてませんか?」


「何も忘れてないのじゃ。」

「ハンカチもあるぜ。」

「。」


「ち、中南米と言えば、「珈琲」の産地です。僕がこの船に乗ってるのはヨーロピアにしかない「ワイン」と違って「珈琲」なら世界中で好まれているため、何処でも蘊蓄を披露できるからだったのでは?」

「わ、私がワイン博士ですが、聞き捨てなりませんです。「ワイン」こそ世界中で愛されています。」

「もう、中南米は飽きたのじゃ。どこにいっても海賊と砂糖と海賊とラム酒なのじゃ。」

「金銀がでるとこは「スペイ国」に押さえられてるしな。」

「シチリアと違って歴史に重みがないっす。」

「酪農が育ってないのでヨーグルト工場も作れません。」


「じゃ、ジャマイカです。ぶ、「ブルーマウンテンコーヒー」の産地ジャマイカを目指すのです!!」

「勝手に宣言してもダメなのじゃ。目的地は妾が決めるのじゃ。」


「こ、ここに僕が海で見つけた「ボトルレター」があります。」

「「ワイン」などの空き瓶に手紙を入れて海に流し、不特定の誰かにメッセージを送る手法ですな。ワイン博士の私が見るに、その瓶はフラン国で詰められた「ワイン」に使われる瓶ですな。なかなかの品ですぞ、恐らくは値の張る高級「ワイン」の空き瓶と思われるです。」

「さすがの俺様は「ボトルレター」と聞いたらワクワクしてくるぜ。」

「読むのじゃ!」


『こんにちわ。私はジャマイカの珈琲畑の近くに住んでる孤児です。ジャマイカはとても良いところです。是非来てください。』


「ど、どうです?ジャマイカの孤児が呼んでますよ?」


「そなたの字なのじゃ。」

「エチオピア語は貴様しか読めんな。」

「この瓶は、私の隠しワインセラーから黙って持っていかれたヴィンテージワインの瓶ですね。」


「、、、」


「斬るか?」


「とはいえ、ジャマイカにお腹をすかせた孤児がいる可能性はあるのじゃ。」

「それは、お菓子を届けないとな。」

「玩具と毛布もなのじゃ。」


「進路変更西北西!最大船速!ジャマイカ島を目指すのじゃ!!」

「ごぶー!!」(あいあいさー)




 カリブ海イギリ女王国領ジャマイカ「ポートロイヤル」

 キューバ島の南にあるジャマイカ島の南西部。海賊が総督をしており「世界で最も豊かで最もひどい町」と言われている。



 いつもの交易所の支店に来たが「ブルーマウンテンコーヒー」は売ってなかった。


「さ、さすがは世界に名だたる「ブルーマウンテンコーヒー」ですね。か、限られた村で生産され、げ、厳密な審査の上で市場に流れるため、か、数に限りがあるのです。て、手に入れるには特殊な伝手が必要なのですね?」

「え、えぇ、ま、まぁ、そ、そうなんですが。。」

「そなたは普通に喋っていいのじゃ。」

「ありがとうございます。「ブルーマウンテンコーヒー」は少し特殊な品でして、普通では手に入らないのです。」

「そういうのいいから早く言え。」「言うのじゃ。」


「現在、ブルーマウンテン山脈一帯は逃亡奴隷達に不法に占拠されてまして、我々の交易所では「ブルーマウンテンコーヒー」が入荷できない状態になっています。」


 「スぺイ国」のカリブ海大拠点であるキューバ島を攻め落とそうとした「イギリ女王国」海軍が何かの間違えで占領したのがジャマイカ島で、その時に「スペイ国」の地主たちは奴隷を見捨てて逃げたため、主人の居なくなった奴隷が徒党を組んで内陸部を支配していた。

 「イギリ女王国」はこの島にお金をあまり使いたくなかったので、有力な海賊に統治の許可だけ売ったが、海賊は内陸部にあまり興味がなかったのでほったらかし状態になっている。


「のじゃ。ジャマイカは想像どおりの酷い状況なのじゃ。」

「一部の私掠船は逃亡奴隷たちと取引をしているようなので、そちらの伝手を使えばあるいは、、」

「海賊に借りは作りたくないのじゃ。」

「協力したいのは山々なのですが、なにぶん物がないので。。」

「少し、考えるのじゃ。」



 近くの海賊が好みそうな汚い酒場に移動した。


「せっかくジャマイカまで来たのに「ブルーマウンテンコーヒー」が手に入らないのじゃ。」

「少し余分に金を出してリスボンで買った方が早い気がするな。」


「妾が欲しいと思ったものが、欲しいと思った時に手に入らないのは気に食わないのじゃ。」

「そうやって、世界まで手に入れるのか?」

「時が来ればあるいは、なのじゃ。」

「ふ、その貪欲に身を焼かれ無ければよいな。」


 そこに、体の大きな逃亡奴隷っぽい男がやってきた。


「お前たち、「ブルーマウンテンコーヒー」を探しているのか?」

「この店は奴隷にも酒をだすのか?」

「くっ!!俺たちは奴隷と違う!「マルーン」だ!」

「ほぅ、どう違うんだ?俺様に言ってみろ。」


「俺たち「マルーン」は糞ったれ農場主の支配から自由を勝ち取った誇り高きモノの集まりだ。」

「勝ち取った?捨てられたの間違いだろ?」

「貴様!命がいらないらしいな。」


「お、喧嘩か!やっちまえー!」

「俺はでかい奴隷に賭けるぜ。」

「相手もなかなかやりそうだぞ!!」

「はいはーい。賭けはこっちで取りまとめますよー。」


 俺様と体の大きな「マルーン」の決闘が始まった。




「もう30分くらい続いてるのじゃ。」

「観客も冷めてきてますね。」

「始めはちゃんと見てたのじゃ。もう飽きたのじゃ。」

「自分は興味あるっす。カリブ特有の動きが勉強になるっす。」


「あいつがあんなに楽しそうなのは久々だよ。」

 いかにも「マルーン」の重要人物っぽい女がやってきた。


「そなたは?」

「あたしは「ブルーマウンテン・マルーン」のリーダーさ。」


「そんなお尋ね者が街中にきて大丈夫かや?」

「はん。この街にそんな小さなことを気にする奴なんていないさ。」


「おい!あそこにいるの「ブルーマウンテン・マルーン」のリーダーじゃないか!?」

「捕まえたら賞金がもらえるぜ。」

「俺の獲物だお前たちは手を出すなよ!」


「少しは気にする奴もいるようだね。」

「少しどころじゃない気がするのじゃ。」


 そこに俺様が賞金稼ぎどもをひっくり返しながら帰ってきた。


「なかなか誇り高きマルーンの戦士だったぞ。」

「ふん、客人、お前もな。」


「男の子はすぐに友達になるのじゃ。」

「あはは、女の子も親交を深めようじゃないか。」


「何が目的なのじゃ?」

「「ブルーマウンテンコーヒー」を探しているんだろ?用立ててやってもいいよ。」

「何が目的なのじゃ?」

「かわりに武器が欲しい。このジャマイカから私の仲間以外を追い出す力が欲しいのさ。」


「妾達は戦争を売り物にする「死の商人」とは違うのじゃ。」


「、、、」

「、、、」


「あんた達は他の奴らとは違うようだね。」


 「ブルーマウンテン・マルーン」の女リーダーは袋をこちらに放り投げた。


「それを持ってさっさと去りな。ここはもうすぐ戦場になるよ。」


 エチオピアのなぜか珈琲博士をしている青年が中身を確認する。


「こ、これは、「ブルーマウンテンコーヒー」です。そ、それも、丁重に処理された最上級の品です。ま、まさしく「ロイヤル・ブルーマウンテン・コーヒー」です!!」


 一級品を前にして感動のあまり惚けていた青年が、急に真剣な眼をした。


「こ、この「ロイヤル・ブルーマウンテン・コーヒー」を作るには大変な労力がかかったはずです。珈琲の栽培から収穫、加工までひとつひとつの作業を丁寧に愛情をもってこなさねば、これほどの逸品が出来上がる訳がないのです。その素晴らしき両手を血で汚すような事が無いことを願います。。」


 女リーダーは虚をつかれた顔をした。


「少し、、考えてみるよ、、、」


 マルーン達は静かに堂々と去っていった。



 この後、ジャマイカ島では逃亡奴隷たちと支配者たちの長い戦いが続けられる事となる。だが、ジャマイカが世界に誇る「ブルーマウンテンコーヒー」の生産だけは途切れることは無かった。

 その保たれた品質こそがジャマイカの人々の誇りとなっていくのだろう。





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