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78 トリニダード島


 ポーラン領トリニダード島「ポートオブスペイン」

 カリブ海のアンティル諸島の中でも南米大陸にほど近い場所にあるトリニダード島の中心都市。名前の由来は「スペインの港」。


 いつも通り、名門貴族の身柄を金に変える為に役所に来ていた。


「「ポーラン国」及びバルト同盟各国では、「スペイ国」との揉め事は勘弁なので、名門貴族を受け入れる事はできません。」

「予想通りなのじゃ。むしろ、受け入れられたらビックリなのじゃ。」

「わざわざ来なくてもよかったのでは?」

「他の皆に声を掛けているのじゃ。ここだけ無視したら拗ねられるのじゃ。」


「我々はそんな事で拗ねたりしませんよ?」

「みんな口では調子のいい事を言うのじゃ。外交の基本は細やかな気配りなのじゃ。」

「ポーラン国の役人の私がいないところで言うくらいの気配りが欲しかったですね。」

「ごもっともなのじゃ。」


「それで、どうしてこんなカリブ海に、ヨーロピアでもかなり田舎な「ポーラン国」の領地があるんだ?」

「田舎とは失礼な。新大陸から仕入れた最新のジャガイモをいっぱい育ててますよ。」

「ジャガイモは美味しいのじゃ。」

「まさしく神がポーランのためにお造りになった作物ですね。」

「アボーン。油で揚げても美味ですよ。」

「そ!それは、思いつきませんでした。本国に報告しないと。」



「へへっ、話がそれてやすぜ。海上交易に力をいれてなかった「ポーラン国」が何故この「トリニダード・トバゴ」を支配しているんで?」


 スペイ国の意向でコロン氏が新大陸を発見してから、新大陸の利権は「スぺイ国」「ポルトガ国」がほぼ独占していた。

 後発の国々は南北アメリカ大陸から少し離れたアンティル諸島に拠点を築き、自分たちの利益拡大の機会を虎視眈々と狙っていた。

 時代がすすみ各国が拠点の奪い合いを始めると、南米大陸に最も近いアンティル諸島の終点「トリニダード島」は各国が是非とも欲しい拠点となった。


「で、大国達がこの島の取り合いをして大変だったのです。」

「それは難儀なことなのじゃ。」

「各国がこの島をめぐる戦いに疲れ果てていたところに、たまたま新大陸に調査と言う名の観光に来ていた「ポーラン国」の船が通りかかったのです。」

「おちは見えたのじゃ。」

「はい。それで、各国から島の管理を押し付けられまして、その時の船長がこの島の島長になり、副船長だった私は長い間、故郷に帰れていないのです。」

「心中お察しする。」


「なので、この島は各国の船が到来する自由港のような扱いになっており、カリブ中の人や物、文化が集まり大変栄えさせてもらってます。もうすぐ「カーニバル」も開催されますよ。是非、見て行ってください。」



 街は近づいてくる「カーニバル」の気配に浮足立った空気を漂わせていた。


「みんな楽しそうなのじゃ。」

「現地人も陽気に笑っているな。」

「祭り前の期待が高まって来る感覚はよいものなのじゃ。」


「けっ、おら達には関係ねーけどな!」

「のじゃ?」


 いかにもお使いを頼まれて買い物に来た風の奴隷がいた。


「奴隷でも祭りは楽しいものなのじゃ。なぜその様な憎まれ口を叩くのじゃ?」

「おら達の農場主が奴隷が「カーニバル」へ参加するのを禁止したのさ!」

「それは酷い事なのじゃ!」


 奴隷の目には涙が溜まっていた。


「しんどくてツラい労働も「カーニバル」さえあればと耐えてきたのに、こんな仕置きはあんまりだ。あの、地獄の様なアフリカでさえ祭りはちゃんと楽しめたのに。。」

「心中お察しする。。」

「おらはいい。いくないけど我慢する。心の中に「カーニバル」があるから。けんど、祭りを楽しみにしてきた子供たちになんて言っていいかわからないべ。。」


「妾に任せるのじゃ!」

「ふ、俺様もいるぜ。」

「あ、あんたら、、」


「お祭りに無粋な身分関係を持ち込む愚かな農場主に天誅をくだすのじゃ!!」



 郊外のでっかいタバコ畑のなかにでっかい農場主の館があった。


「妾が来たのじゃ!農場主を出せなのじゃ!」

「俺様もいるぜ!農場主を出しやがれ!」


「な、なんだ!お前たちは!?」

「俺様は俺様だ。」

「妾もいるのじゃ。」


「その俺様がなんの用だ。金ならないぞ。いや、厳密にはいっぱいあるが、お前たちに渡す金は一銭足りともないぞ!」

「一銭といわず全部寄こしやがれ!」

「土地の権利書もなのじゃ!」


「む!強欲な物乞いめ!奴隷どもこの者たちを摘まみだせ!!」


 奴隷たちは戸惑ってばかりで動けなかった。


「いつもは従順な奴隷たちがどうしたことか?」

「虐げられた人々の痛みを知るのじゃな!」

「地獄で閻魔様にでも詫びていろ。」


「まて、話せばわかる。」

「問答無用なのじゃ!」

「諸悪の根源め!天誅!!」


 胴体と首が別れる前に奴隷たちに止められた。

 奴隷たちから農場主に事情の説明があった。


「すると何か?貴様らは祭りの参加を認めないから儂を滅そうとしたのか?」

「無論だ。」

「社会を善くするための奉仕活動なのじゃ。」

「なんと野蛮な、、」


「農場主よ。文化とはそれぞれの心に育つものなのじゃ。」

「む?」

「自分の狭い価値観で、他人の行動を粗野だと判断するのは文明的でない野蛮な行いなのじゃ。」

「おらはアフリカからきた奴隷だが、あんたらの行いは野蛮だったぜ。」


「野蛮人に野蛮と言われても、妾はちっとも悔しくないのじゃ!!」

「俺様も全然これっぽっちも悔しくないぜ!!」

 地団太を踏んだ。


「まぁ落ち着いて、私の農場で彼ら奴隷が育てた「タバコ」を吸ってみなさい。」


 農場主に差し出されたタバコを吸うと落ち着いた。


「なかなかの品だな。」

「めったに無い良いタバコなのじゃ。」


「この地に根を張ってから、そこまでのタバコを作るのに長い時間がかかりました。」



「大国間の戦争に巻き込まれ、支配者がコロコロ変わり、税の納め方も定まらない。奴隷はいう事を聞かない。逃げる、反乱する。原産のタバコをヨーロピアの人々の口に合うように改良し研究し改善する。全て、一筋縄でいかない大変な作業だった。」

「なかなか苦労があったようなのじゃ。」

「人に歴史ありだな。」


「この農場は私の全てだ!軽々しく奪えるなどとは思わぬことだ!」

「のじゃ。妾は農場など求めていないのじゃ。」

「ただ、奴隷を「カーニバル」に参加させてやれと言っている。」


「、、燃やすのだ。。」

「ん?なんだ?」


「こいつらは「カーニバル」の最後に「フィナーレ」だとかぬかしてタバコ畑に火をつけるのだ!」

「のじゃ!それはダメなのじゃ!!」

「なぁ、火を付けるのをやめられないのか?」

「「フィナーレ」のない「カーニバル」のなどありえんべ。」


「半分だけならどうじゃ?」

「タバコ畑が半分も燃えたら、どれだけ損失がでると思ってるんだ!」

「半分なんて全然足らん!全部燃やしてこその「フィナーレ」だべ。」


「先っちょだけならどうじゃ?」

「先っちょだけなら、あるいは。。」

「全部燃やすだ!先っちょだけなんてありえんべ!!」


「困ったのじゃ。このままだと「カーニバル」を楽しみにしている子供たちが悲しむのじゃ。」

「子供などいない。」

「のじゃ?」

「この農場にいるのは独身の男性の奴隷だけだ。子供は一人もいない。」

「おら達にも恋愛をする権利はあります。未来に子供が生まれるかもしれないだ。」


 結局、「カーニバル」参加の許可はでなかった。



「おら達の夏は終わった。。」

「力になれなくて済まん。。」


「まだ、諦めるのは早いのじゃ!」

「む、何か策があるのか?」


「「カーニバル」はみんなの心の中にあるのじゃ。場所は関係ないのじゃ。」

「つまり、どういうことだ?」

「この裏庭で世界中が羨む最高の「カーニバル」を開催するのじゃ!!」


「だども、こんなどこにでもある裏庭では、若い女子の来るような「カーニバル」はできないだ。」

「出来ないと言うから出来ないのじゃ。出来るまでやれば出来るのじゃ!!」

「だども、太鼓もないですぜ?」「笛もありやせん。」


「太鼓も笛も無いなんて、なんて酷い農場主なのじゃ!抗議しに行くのじゃ!!」


「それには及ばんよ!」

 そこには陰で様子を見ていた農場主がいた。


「ここで会ったが100年目なのじゃ!太鼓も笛も用意しない農場主め覚悟するのじゃ!」

「太鼓と笛は農場主が用意するのは万国共通の常識だぜ。」


「、、用意した。」

「ん?」「のじゃ?」


「何個も何個も太鼓も笛も用意した!」

「なんだあるのか。」

「太鼓も笛もあるのならよかったのじゃ。」


「毎年、奴隷どもが「フィナーレ」などとぬかして太鼓も笛も燃やすから、もうないのだ!!」

「、、、」

「、、、」


 結局、太鼓も笛も確保できなかった。



 そして、「カーニバル」当日が来た。

 奴隷たちは裏庭でいじけていた。


「おら達に「カーニバル」は訪れないだ。。」

「農場主が出かけたからタバコでも吸って落ち着くのじゃ。」

「嫁っこもこんな「カーニバル」もできない奴隷のとこには来てくれないだ。。」


「まだ諦めるのは早いのじゃ。」

「もうダメだ。。」


「これを叩くのじゃ!!」


 そこに置いてあった鍋をもちだした。


「そんな鍋なんて叩いても、おら達に流れる「カーニバル」の血流は燃えないだ。」


 バン!


「?」「!!」「!?」


 バン!バン!


「!!!」「こ、これは!」


 バン!バ、バン!!


「血潮が、血潮が疼いてきただ。」


 バッバッバーンバッバババッバン!

 バッバッバーンバッバババッバン!

 バババッババババーン!

「オーレェ!!」「オーレィ!!」


「ぴー」

「む、ぴーちゃんいけるか?」


「ピィーポーーピーピッピポッポ!」

 バッバッバーンバッバババッバン!


 美しいピーちゃんの素敵な鳴き声と軽快なリズムで雰囲気が明るくなってきた。


 バッバッバーンバッバババッバン!

 バッバッバーンバッバババッバン!


「おや、楽し気な事をしていますね。」

「僕たちも混ぜてください!!ピィーーーッ!!」

「家から鍋を持ってきたぜ!バンバンバン!」

「ラム酒もありますよ。」「タバコは畑から千切ってきな!」


「肉が焼けたぞーー!!」

 バババッババババーン!

「オーレィ!!」「オーレィ!!」「オーレィ!!」



 そこに、街の「カーニバル」を見に行った農場主が帰ってきた。


「儂の農場で何をやっているんだ!!」

 バババッババババーン!

「オーレィ!!」「オーレィ!!」「オーレィ!!」「オーレィ!!」


「ここは儂が大事に育てたタバコ畑だ!!今年は絶対に燃やさせないぞ!!」

「ピィーポーーピーピッピポッポ!」

 バッバッバーンバッバババッバン!


「そなた、気付いてないようじゃの。」

 バッバッバーンバッバババッバン!

 バッバッバーンバッバババッバン!


「む?何に気付いてないというのだ!!」

 バババッババババーン!

「オーレェ!!」「オーレィ!!」


「そなたの体が刻んでおるのじゃ!」

「サンバのリズムをな!!」

「オーレェ!!」

「オーレィ!!」「オーレェ!!」「オーレィ!!」


「ピィーポーーピーピッピポッポ!」


「馬鹿な、この音楽の成績がいつも「1」の私がサンバなど、、」

 バッバッバーンバッバババッバン!


「何処かの誰かが決めた成績などで人は図れないのじゃ。」

 バッバッバーンバッバババッバン!


「認めん!認めんぞーー!!」

 バッバッバーンバッバババッバン!


「身を任せるのじゃ!」

「サンバのリズムにな!!」

「オーレィ!!」

「オーレィ!!」「オーレェ!!」「オーレィ!!」「オーレィ!!」



 農場主がサンバのリズムに取り込まれてしばらくすると、今度は役人が軍隊を率いてやってきた。


「許可のない集会が行われてると聞きました!解散してください!!」

「ピィーポーーピーピッピポッポ!」

「何か来たのじゃ。」

「どうせすぐ取り込まれるぜ。」

 バッバッバーンバッバババッバン!


「ふ、ヨーロピアの北に位置するクールラント出身の私を舐めないでください。」

 バッバッバーンバッバババッバン!


「私たちは血までも凍り付いているのです!!」

 バッバッバーンバッバババッバン!


「南国の下品な音楽と踊りで私を取り込めると思わない事です!」

 バババッババババーン!

「オーレィ!!」「オーレィ!!」


「ピィーポーーピーピッピポッポ!」


「そなた、気付いてないようじゃの。」

 バッバッバーンバッバババッバン!


「何に気付いてないというのですか?」

 バッバッバーンバッバババッバン!


「そなたの血潮が叫んでおるのじゃ!」

 バッバッバーンバッバババッバン!


「サンバのリズムをな!!」

 バババッババババーン!

「オーレィ!!」「オーレィ!!」「オーレィ!!」「オーレィ!!」



 そして、次々とサンバのリズムに招かれて人々が集まってきた。男も女も老いも若きもなく、人種や立場も関係なく踊り楽しんだ。みんなが笑い、酒を飲み、踊り、笑顔になって喜び合った。

 この奴隷たちが裏庭で始めた「カーニバル」は大いに盛り上がり、この島の名物として世界に名を馳せて行く事になる。

 

 盛り上がり過ぎて「フィナーレ」ではタバコ畑だけでなく農場主の館まで燃やした。

 「オーレィ!!」「オーレィ!!」「オーレィ!!」




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