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74 バハマ


 西インド諸島イギリ女王国領「ナッソー」

 サンゴでできたバハマ諸島ニュー・プロビデンス島全域を占める港町。海水浴場が人気。最大標高が5mしかない。



「イギリ女王国にも名門貴族の換金を断られたのじゃ。」

「どこも要らないんじゃないか?」

「せっかく拾ったのに捨てたらもったいないのじゃ。」


「ところで、その名門貴族はどこに行ったんだ?」

「観光に行くと言っておったのじゃ。」

「おいおい。人質を自由にして大丈夫なのか?」

「監視にギャンブル狂いのおっさんを付けたから安心なのじゃ。」


「この島の名物はカジノだぞ。。」

「しまったのじゃ。船の予算の危機なのじゃ。」


 二人の姿を探したら、予想通りカジノにいた。


「そろそろ更生したかと信じた妾が愚かだったのじゃ。」

「賭博中毒は一生癒えぬ病だ。ゆっくりと抑えていこう。」

「誤解だ。」


 ギャンブル狂いだと勘違いされている無口な船大工は、自分の悪名を消すために必死になって止めたのだが、栄えある名門貴族の威光に屈してカジノに来てしまっていた。


「がはは。遅かったではないか。栄えある名門貴族の威光で資金を増やしておいたぞ。」

「のじゃ!妾のほうが上手く増やせるのじゃ!」

「俺様ほどではないがな。」


「ほぅ。名門貴族でもない癖にほざきおる。どれ、この名門貴族出身の私に腕前を見せてみろ。」

「あっちにポーカーがあるぜ。」

「のじゃ!あれはポーカー違うのじゃ!テキサスホールデムなのじゃ!!」

「一緒だろ?」


「全然ちがうのじゃ!!テキサスホールデムはオープンされた共有の2枚のカードと、各自に配られた伏せカードを使って役を作るのじゃ!心理戦が重要な極めて戦略性の高いゲームなのじゃ!」

「ポーカーじゃんw」

「のじゃーー!!怒!!」


 トロピカルフルーツを食べて落ち着いた。


「ルーレットにするのじゃ。もちゃもちゃ。」

「運が試されるな。むしゃむしゃ。」


「お待ちくださいです。」

「のじゃ!おぬしは!?」

「そうです、私がワイン博士です。」


「何か用か?」

「私としたことが「ワイン」を飲み過ぎたのでしょうか。どうにも、このルーレット台が傾いているように見えるのです。おや、ワイングラスを置いてみても、やはり傾いていますな。ルーレット台も「ワイン」を飲み過ぎましたかな。」


「のじゃ?机は「ワイン」を飲まないのじゃ。」

「この島にはあまり腕のいい大工がいなかったようだな。」


 なぜかルーレット台が交換された。


「今度こそ勝負するのじゃ。」

「俺様の腕前をみせてやぜ。」


「ちょっと待ってください。」

「む、貴様は!?」


「私はギリシアから船に乗ってる最近出番のない医者ですが、どうも私の持ってるコンパスがおかしな方向を指しているのです。北はあっちなのに、なぜかルーレットの玉の方を指すのです。」


「のじゃ?磁気でもでておるのかの?」

「血行を良くして肩こりがよくなるぜ。」


 なぜか球が鉄製から象牙に変わった。


「さっきから外野がうるさいのじゃ。」

「さっさと勝負しようぜ。」


「アッツオンニミッツ」

「なんじゃ!?」

「どうもオイルの匂いがします。滑りのある鉱石系のワックスでしょうか?」


「それがどうしたのじゃ?」

「連れがうるさくてすまんな。」


 なぜかディラーが変わった。


「まるで、闇のゲームで対戦相手の魂を奪い、コインにしてコレクションしてそうなディラーが出てきたのじゃ。」

「強敵の予感が漂っているな。」


「ここはシラクサ一家の若衆である、自分が相手をするっす。」


「あ、フラグが立ったのじゃ。」

「これは負けた時の罰ゲームを身をもって説明するための進行だな。」


「自分は玉入れの必勝の法を知ってるっす。絶対に勝てるっす。」


「どんどんフラグを重ねるてくるのじゃ。」

「まぁ一応聞いてみようか。」


「負けたら賭けた金額の倍額を賭けるっす。ずっと続ければいつか勝てるっす。」


「おぬしは2の37乗がいくつかしっておるか?」

「え!?知らないっす100くらいっすか?」

「137438953472なのじゃ。」

「すごいっすね。それがどうしたんすか?」

「1ドル勝つために必要な金額なのじゃ。」

「またまたーっす。そんなにかからないっすよ。」


「まて、その計算はおかしい。」

「そうなのじゃ。この計算では「0」に球が入った時のことを考慮してないのじゃ。」

「いや、そうではなく、、」

「つまり、1ドル稼ぐには137438953472ドル以上のお金が必要になるのじゃ。」

「ひえー。自分の給金は新型NISAに突っ込むっす。」

「それが安心なのじゃ。」

「政府が主導してるから絶対に損しないな。」


「妾が計算に強いことが証明できたところで、妾が勝負するのじゃ!」

「ふ、ここは譲ってやるぜ。」



 観衆たちは少し離れて勝負の行方を見守っていた。

 ひょんなことから始まったこのルーレット対決が、世界の行く末を変えるかもしれない。廻り巡るボールの入ったスポットが、人々の喜びや悲しみを飲み込み、そしてまた廻り巡ってゆく。そんな予感に未来の自分を重ねたりしていたのだ。


 カジノの支配人は静かに見守っていた。

 この海賊しかいない島で、高所得者向けの賭博場を開くのは冒険だった。出資者達の反応も悪く資金を集めるのに苦労した。

 だが、確信を持っていた。この美しい海とサンゴ礁に囲まれた島が、必ず世界有数のリゾート地になると。自分はその礎だ。世界一の観光地は自分の一歩から生まれるのだ。

 そのために、誠実で堅実な経営を心掛けてきた。疑わしき要素は全て排除した。正しく戦い、正しく勝利するのだ。己の野望と未来の為に、この勝負は負けられない。


 ディラーは象牙の玉の精巧さを確かめながら見守った。

 生まれてこの方、自分は常に闇のゲームの主催者のように扱われてきた。人の魂を吸い取ってコインにするなんて出来るわけないのに。

 いつも意味不明な勝負を挑まれた。全くギャンブルの知識なんて無かったが、なぜか毎回勝利した。敗者たちが涙を流しながら命乞いをするのを、冷めた気持ちで見つめていた。

 ある日、若き日の支配人が訪ねてきた。新大陸に世界中の人々を熱狂させるカジノを作る夢を語られた。ギャンブルなんて興味がなかったが、その燃える様な熱い瞳に魅せられた。

 あれから月日が流れた。魂を賭けた勝負を主催する謎の男に見えるように努力した。いろんなギャンブルのルールを覚えた。その必勝法も頭に叩き込んだ。インドにいって修行もした。

 全ての出来事が今日この日の為にあったのかもしれない。

 ふと、自分が球を投げないと勝負が始まらない事に気づいた。

 この球を投げなければどうなるだろうか?そんな在りもしない未来を想像して少し笑った。

 北緯25度の太陽が適度な暑さを運んでくる。優秀なディラーは汗をかいてはいけない。零れ落ちる雫が生まれる前に、さぁ勝負の時だ。


 鐘が一つなる。


「妾しか参加しないようじゃの。」

「奇しくもタイマンになったようだな。」


 この場では誰も動かない。見守っている。


「妾の計算によると、球が投げられてからベットしたほうが勝率があがるのじゃ。」

「ほぅ、博識だな。」


「時に、支配人や」

「はい。なんでしょうか?」


「コイン以外も賭けていいかの?」

「他の参加者はいらっしゃらないようなので、この場で清算できるものであれば宜しいでしょう。」


 口の端っこで少しだけ笑う


「それでは、「シチリア一家の若衆」の魂も賭けるのじゃ!」

「自分っすか!?」

「男を賭けるのじゃ。」

「判りましたっす。自分、男を賭けるっす。」


「この場で清算できるものでお願いします。」



 ディラーがホイールを回転させる。そして、運命の球が逆回転に投入された。


 球と回転盤の動きを凝視する。


「なかなかの腕なのじゃ。」

「判るのか?」

「妾の勘が囁いておるのじゃ。」

「ふ、センスに期待するぜ。」


 球がテーブルを2回転したが、まだベットしない。

 支配人が堪り兼ねて声をかける。


「お賭けにならないのですか?」

「のじゃ。時に、支配人よ」

「はい。なんでしょうか?」


「掛け金を追加してもよいかの?」

「この場で清算できるものであれば構いません。」


 罠にかかった獲物を見るようにニヤリと笑う。


「妾は、、妾の船に乗っておる船員全員の魂を賭けるのじゃ!!」

「なんと、俺様の船の、、」


「清算できるものでお願いします。」



「妾の船に「人間」は何人のっておったかの?」

「さぁ?勝手に乗ったり降りたりしてるしな。7人位じゃないか?」


「「7」は良い数字なのじゃ。古くから幸運を呼ぶ数字と考えられておるのじゃ。」

「ラッキーセブンと言うしな。」


「この島に来てから、妾は現地の人を見かけていないのじゃ。」

「カリブ海域に来てからあってないな。」


「つまり数字でいえば「0」なのじゃ。」

「なるほどな。」


「そして妾は「1」が好きなのじゃ。」

「俺様も好きだぜ。」


「そろそろベットを締め切りますが?」


「痴れ者め、焦って尻尾をだしよったのじゃ。」

「敗者は待つことを知らぬと言うな。」


「「7」と「0」と「1」を足した「8」こそが、この場に相応しいのじゃ。選ばれし数字なのじゃ。」

「2の3乗か。悪くない。」


 「8」の数字の上にコインをカッコ良く滑らせた。


「では、俺様も。」


 俺様が「8」にコインを追加する。


「自分も男を賭けるっす。」


 シラクサ一家の若衆が「男」と書いた紙を置いた。


「俺もだ。」


 ギャンブル狂いのおっさんもコインを置いた。


「栄えある名門貴族に相応しい勝負を期待する。」


 イタリ国名門貴族出身の提督も続いた。


 ディラーが辺りを見まわす。


「出揃いましたでしょうか?」

「ちょっと待った!!」

「お、おぬしは、、」

「そうです、私がワイン博士です。」


 なんとそこには船で待っているはずのワイン博士がいたのです。


 優雅にテーブルに近づいて、一本の「ワイン」を「8」の上に置いた。


「カジノで有名な「モナ公国」に隣接するリグリ―ア州でつくられたこの「ワイン」は、地中海沿岸の海洋性気候の豊かな農場で育てられたブドウを使用しており、かの大公爵も愛したのです。」


「ぼ、僕がなぜか珈琲博士ですが、かの有名な映画「007カジノロワイヤル」においてイギリ女王国のスパイであるジェームスボンドが飲んでいた珈琲と同じブレンドを用意しました。」


 淹れたての湯気があがるカップに入った「珈琲」が置かれた。


「私は「ヨーグルト」を賭けさせてもらいます。スプーンはサービスですよ。」


 容器に入ったスプーン付きの「ヨーグルト」も置かれた。


 そこに、見目麗しい一人の女性がやってきた。


「みなさま、少々、失礼いたします。」

「ぴー」

「ぴーちゃんは「この女性と一晩過ごす権利を賭ける」と言っている。」


 格別の報酬の登場に観客が大いに盛り上がった。


 すると、支配人が震えながら言った。


「その女は、、、私の、、私の妻です!!!」



 会場に嫌な空気の沈黙が流れた。


「清算できないものは無効です。」


 妻を奪われたくない男が必死に抗う。


「支配人よ。そなたの器量が試されているのじゃ。」

「支配人としてルールは厳守してもらいます。」


「支配人としてではなく、「男」としての器量が試されておるのじゃ。」

「自分も「男」を賭けたっす。」


 支配人の頭に今までの事が思い出された。

 貧しい村をでて、スラムの路上でサイコロを振りながらこの地位まで登り上げた。

 いつも傍には支えてくれる妻がいた。

 「6」の目が3回も連続で出て泣いていた時に、慰めてくれたのは誰だったか?「1」の目が3回連続で出た時に、一緒に喜んでくれたのは誰だったか?

 ただの勝負が、絶対に負けられない勝負に変わった。


「わかりました。私も「男」を賭けましょう。」


 支配人が紙に「男」と書いて「8」の上に乗せた。



「あ、あのー。」


 小間使いの少年が場違いな声をあげた。


「小僧はだまっておるのじゃ!」

「器を知れ!」


「いえ、あのその、、」


 しつこい小間使いの少年だ。


「お呼びでないのじゃ。」

「静かになさい!この店の支配人である私が「男」を賭けているのですよ?」


「でも、でも、、、」


「斬るか?」

「小僧の教育もできないカジノですね。」

「皆さま面目の次第もありません。この償いはいずれ、、」



「と、とっくの前に、球は止まっています!!!」


 そこには「8」のマスに入った球があった。


「のじゃ!?」

「これは、、、」

「やっかいな事になったな。。」


「このままでは「男」と「男」の熱い戦いが無効になってしまうっす。」

「くっ、、私の「男」もここまでか。。」


「待つのじゃ!!」

「待たん!」


「「ノーモアベット」の鐘は鳴っていないのじゃ!!有効なのじゃ!!」

「おぉー。」「然り。」「パチパチ」


「それなら私の「男」が立ちます。ありがとうございます。」

「「男」の勝負に涙は野暮なのじゃ。」


「いい話だ。」「パチパチパチ」「素晴らしい。」




 そして、「有効」ならと周りの観客たちが次々と「8」の上に掛け金を置いて、カジノは破綻した。




港で出港準備をしているとカジノの支配人がやってきた。


「何をしに来たのじゃ?」

「逆恨みか?」


「皆さんの未来に賭けてみたくなりました。まだ見ぬ海を見るために私も船に乗せてくれませんか?」

「カジノはいいのか?」

「いまごろ借金取りが群がってますよ。」

「嫁はいいのか?」

「質屋に置いてきました。」

「ふ、覚悟は出来ているようだな。」

「任せてください。海の果てまで借金取りから逃げ切ってみせますよ。」



 こうして、新たな仲間を加え航海は続いていくのであった。




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