72 ジャクソンビル
「この先はスペイ国の領域なのじゃが、、」
「ふむ。」
「どの国の旗を掲示するか迷うのじゃ。」
他の船からはどの国に所属しているかを掲示している旗で判断される。
俺様達は厳密にはどの国にも所属していないが、今回の北大西洋航路調査の道程では「新生ハンザ同盟」の旗を掲示していた。
普段は「ポルトガ国」の旗を掲示しており、ポルトガ国はスペイ国と関係が近いためこちらの旗のほうがトラブルを回避できると思えた。
「両方掲示したらよいのでは?」
「「オラン国」と「スペイ国」の関係はかなり悪化していると聞くのじゃ。「オラン国」と仲のいい「新生ハンザ同盟」の旗を立てるといらぬトラブルに巻き込まれる気がするのじゃ。」
「ふむ、ではポルトガ国の旗だけを掲示するか?」
「たぶんなのじゃが、カリブ海メキシコ湾で海賊が嘘で掲示するのが「ポルトガ国」か「スペイ国」の旗なのじゃ。今回は「ポルトガ国」と全く関係のない用事で来ておるから、疑われた時に言い逃れできないのじゃ。」
「いつもの孤児院の孤児たちにお土産を買いに来たでよいだろ。」
「地中海ならそれで通るのじゃが、ここらのスペイ国の軍船は少し頭がおかしいと噂なのじゃ。」
「自分は「シチリア」の旗を推すっす。」
「「シラクサ一家」の状況次第では、そなたは「イタリア」都市国家群から指名手配されとるかも知れんとわかっておるのじゃ?」
「自分には2つのチェリーが欠けてる事以外に何も恥じる事は無いっす。」
「アボン、「フラン国」の旗はどうですか?僕は国からの依頼で来てますし、ワイン博士はフランの有名人ですよ?」
「そうです、私がワイン博士です。「ワイン」にとって大事なのは国よりも産地。フランとドイに挟まれたライン川流域の「ワイン」は両国でとても似ているのです。「国」など考慮するのに値しませんです。」
「考慮に値するのじゃ。拿捕されるかもしれないのじゃ。」
「また貴重な秘蔵のヴィンテージワインが取り上げられるのは由々しき事態です。隠しワイン棚を2重にせねばなりませんです。」
「俺はマヨルカだ。」
「ギャンブル狂いのおっさんは「スペイ国」出身なのじゃが、ちゃんと説明できるか怪しいのじゃ。」
「私の「ギリシア」はどうですか?」
「こんなところに「ギリシア」の船がいたらおかしいのじゃ。あの国には櫂船しかないのじゃ。」
「流石に軍は帆船ですよ。」
「ぼ、僕の「エチオピ」は良い国ですよ。」
「皆で出身国を発表しあう時間ではないのじゃ!」
「全部だ!」
「のじゃ!?」
「全て俺様のものだ!!」
「確かに!妾好みの提案なのじゃ。」
ということで、持っている旗をすべて掲げる事にした。
北米大陸スペイ領「ジャクソンビル」
フロリダ半島の付け根に位置する。アメリカ大陸最初期の植民がフランスによって行われが、翌年スペインに強奪された。名前の由来はイギリス人である。
~スペイ国北米守備隊駐屯船団~
「提督!怪しい船が来ました。」
「この栄えある名門貴族出身の私が赴任しているジャクソンビルに来るとは愚かな怪しい船だ。」
「さすがは名門貴族のコネで今の地位についた栄えある提督です。」
「コネではない!栄えある名門貴族の威光が輝いたのだ!!」
「眩しすぎて小官には直視できません。転属を希望します。」
「却下だ!怪しい船の所属を言え!」
「は、怪しい船は「商船」「公用船」「軍船」の旗を揚げています。」
「は?」
「国籍は「ポルトガ国」「スペイ国」「フラン国」「モナ大公国」「イタリ国」「イギリ女王国」「オラン国」「神聖ドイ帝国」「デンマ―国」「ポーラン国」「スェーデ国」「エストニ国」「大ロシヤ大帝国」「ノルウエ国」「ベルギ国」「ギリシア国」「トルク国」「回教帝国」「エチオピ帝国」「ケニヤ国」「オーマ国」「イエメ国」」
「はぁ!?」
「さらに、「ジェノバ」「フィレンツェ」「新生ハンザ同盟」「シチリア」「ロード騎士団」「ヴェネツィア」の旗を揚げてます。」
「ば、馬鹿なのか?」
「はい。掲示スペースが足らなくて船員が手に持ってます。」
「そんな事は聞いてない!」
「あ、手旗信号用の旗も全部だしてきました!!すごい!全部、振ってます!小官は全振り時の信号を存じあげておりません。提督はご存じですか?」
「知るかそんなもの!!」
「こちらも全部振りましょうか?」
「拿捕しろ!!」
「はっ?」
「この名門貴族出身の私を舐めた事を後悔させてやる!!」
~フロリダ沖~
「すごく怒って乗り込んできたのじゃ。」
「怒ってるな。」
「当然だ!スペイ国が誇る名門貴族の私が赴任している海域で大変な事をしてくれたな!!」
「名門貴族様に旗を振るとは何事だ!!」
「妾達は少々特殊な立ち位置なのじゃ。説明が難しいのでもっと難しくしてみたのじゃ。」
「簡単に言うと、どこにも所属していない。」
「ほぅ。どこにも所属していないのか。間違いないか?」
「所属していない癖に名門貴族様の赴任している海域に来るとは何事だ!!」
「国には所属していないのじゃが、いろんな国の人間が船にのっておるのじゃ。」
「お偉いさんもいるぜ。」
「口先でこの栄えある名門貴族出身の私を騙せると思うなよ。」
「名門貴族様に口先で騙そうと思うとは何事か!!」
「貴様は少し黙れ!」
ギャンブル狂いのおっさんが前にでた。
「俺はマヨルカだ。」
「へへっ、彼はマヨルカにその人ありといわれたスペイ国の船大工ですぜ。あの無敵艦隊の改修も行ったんでさ。」
「む、無敵艦隊か。」
名門貴族出身の提督の副官がすごい勢いで紙に何か書きだした。
『黙れと言われたので、文章で失礼。名門貴族様はコネで海軍の地位を買ったので海軍の主流から外れたこんな僻地に赴任させられていらっしゃるのだ。いまの叩き上げの無敵艦隊提督なぞ名門貴族家の威光で遠い将来に左遷されたらいいなと思っていらっしゃるのだ。』
「しまったのじゃ。政敵だったのじゃ。」
「さすがにスペイ国内の人事の事情はわからんな。」
「と、とにかく、このカッコイイ「ドリル」のついた船は名門貴族出身の私にこそ相応しいのだ!!」
俺様の船には北極海の流氷を砕けるカッコいい「ドリル」がついていた。
「のじゃ!ドリルがお望みだったのじゃ!」
「ドリルを奪われる訳にはいかないぜ。」
「名門貴族出身の提督殿よ。勘弁して欲しいのじゃ。」
「ダメだ!螺旋の力は私のものだ。」
「お金なら払うのじゃ。美味しいワインもあるのじゃ。」
「そうです、私がワイン博士ですが思うに、「ワイン」は安い物しか積んでないので名門貴族に相応しくないのです。「珈琲」などいかがでしょう。」
「こ、「珈琲」はカリブ海でいくらでもとれるので、わ、「ワイン」のほうがここでは貴重で名門貴族です。」
「自分の大胸筋の海に浮かぶ小さな2つのチェリーさえあれば、、、」
「うるさい!うるさい!全て寄こすのだ!!名門貴族の糧にしてやる!」
「後生なのじゃ。この船には子供たちに未来が掛かっておるのじゃ。」
「子供の未来なんぞ知るものか!名門貴族出身の私さえよければいいのだ!!」
「斬るか?」
「もう殴ったのじゃ。」
そこには顔面にいいのを貰って倒れている名門貴族出身の提督がいた。
『スペイ国から北米方向の海にくる他国の船を妨害しろとの命をうけている名門貴族様を殴るなんて、タダでは済まないぞ!』
名門貴族出身提督の副官が必死にペンを動かした。
「やっべ、逃げるぜ。」
「静かに縄を切り、全速で離脱するのじゃ!」
「ごぶごぶー!」
係留していたロープを切り裂き、スペイ国の船が混乱している間に逃げ出せた。
「名門貴族出身の提督が人質のようになったので、大砲を撃たれずにすんだのじゃ。」
『名門貴族の威光が届いてよかったですね。小官も海の藻屑になりたくなかったので助かりました。』
「とりあえず、どこか適当な港まで行って降ろすのじゃ。」
妙な乗客を乗せて、俺様の船はカリブ海へと進むのであった。




