70 オールドアムステルダム
オラン国貿易都市「アムステルダム」
北海に流れ込むアムステル川の河口に位置する、世界屈指の貿易都市である。
新大陸のオラン国開拓拠点「ニューアムステルダム」で問題が起きたため、オラン国の関係者をあつめて会議が行われていた。
新大陸から逃げてきた強欲なオランダ人商人は国に支援を要請するため、あれこれと訴えていた。
そこに「ハンザの女王」がやってきた。
「何をしに来た女狐め。」
「おーほほほ。ご機嫌よろしくなさそうですわ。」
「お前が、私からモーリシャスの土地を取り上げたせいで大損したんだぞ!お前の顔など見たくもない。」
「適正価格での正当な取引だったのに心外ですわ。それに、そのモーリシャスの土地を売ったお金を新大陸に投資して、とても利益を出したと聞いてますわよ。」
「さすがに耳は早いようだな。だが、その利益が奪われようとしているのだ。お前の関係者が関与しているのはわかっているんだぞ。今回は国益がかかった問題だ。前回の様に舐めた真似はさせないからな!」
「国益ですか?「マンハッタン島」を現地人の方からたったの25ドルでお買い上げになったと聞いてますが、この詐欺行為は国が主導しておこなったものですの?」
様子を見ていた国の役人が口を挟む。
「我らオラン国はいまのところ個人どうしの売買契約に口を挟むつもりは無い。」
「あら、梯子を外されたのかしら?」
「個人どうし土地の売買に口を挟まないと言ってるだけだ!、だいたい、お前こそ今回の件で口を挟める立場にないだろうが!!」
「おほほ、私たち「新生ハンザ同盟」に所属している方々の利益が守られない可能性がありましたので、個人と組織の利益を守るために、こちらに参りましたのよ。」
「お前の仲間が「ニューアムステルダム」から我らを追い出したのだ!「新生ハンザ同盟」は「オラン国」と対立するつもりか!?こちらにも考えがあるぞ!!」
「その方たちは「新生ハンザ同盟」に所属しておりませんのよ?」
「そのような見え透いた事をいうな、では誰の利益の為にここに来たというのだ!」
「もちろん、「マンハッタン島」で昔から暮らしていたのに、不当に土地をだまし取られた「現地人」の「新生ハンザ同盟」に所属している方々ですわ。」
「馬鹿な!現地人が「新生ハンザ同盟」に所属しているだと!?」
「こちらに書類もございますわよ。確認してくださいまし。」
オラン国の役人が確認し問題がないと判断された。
「と、土地の売買に関してお前に詐欺師よばわりされる謂れはないぞ。お前だって詐欺まがいの事をしているではないか。」
「はて、なんのことでしょう?おほほ」
「お前が私からだまし取ったモーリシャスの土地はものすごく価値があがっているじゃないか!?」
「原材料を安く仕入れて、加工し高く売るのは商売の基本ですわよ。」
「商品の話ではなく、土地の話をしているのだ。」
「土地も同じですわ。道をつくり、水をひいて、土地の価値を高めているだけですわ。たった25ドルで騙して買った土地を、高い値段で転売するのと一緒にしないでくださいまし。」
「騙して買ったなどと人聞きの悪いことを言うな。相手がその金額で納得したのだから適正価格だ。」
「他の皆様も同じ考えですの?」
「マンハッタン島未開の地であったため、正当な土地の価格を鑑定するのは困難です。正式な契約が結ばれた以上、その価格で適正と言わざるを得ません。」
「「マンハッタン島」の適正価格は25ドル相当であったということでよろしいかしら?」
商人は場の空気を訝しく思ったが、役人が追従した。
「はい。「マンハッタン島」の適正価格は25ドル相当です。」
「まぁお安いことですわ!わたくしが買い上げてあげてもよろしくてよ。おほほ」
「誰が手放すものか、「マンハッタン島」は今後の「オラン国新大陸領」にとって重要な拠点になって行くのだ。土地の価値は投資によって上がるのだろ?」
「わたくし達「新生ハンザ同盟」が「マンハッタン島」を管理すれば、オラン国はもちろん、新大陸現地人の方も、他のヨーロピアの方も、もしかしたらアラブの方々も、古十字教も新十字教も回教ですら、自由に取引のできる素敵な市場になりますわよ?」
「お前が儲かりたいだけだろうが!「マンハッタン島」はオラン国の保護のもとで新大陸とヨーロピアを結ぶ重要交易拠点として発展していくのだ!お前が入り込む余地など、どこにもない!!」
少し空気を変えるため、話題を変える。
「ところで、貴国はスペイ国との関係がとても芳しくないようですわね。」
「それこそ、お前に関係のないことだ。」
「南大西洋航路から締め出されて、北大西洋航路も使えなくなったら、どちらから新大陸に訪れるつもりですの?」
「な!?我らを北大西洋航路から追い出すつもりか!!」
「まさかですわ。「新生ハンザ同盟」は個人と組織の利益を守るための存在ですわ。国を相手どる武力など持っていないのですわよ。ただ、少し気になる噂を耳に挟んだだけですわ。」
「う、噂とは?」
「スペイ国の「無敵艦隊」がメキシコ湾に集結しているようですわ。かの国にとっても新大陸の安寧は大事なことですものね。ちょうど良い機会なので自分と仲良くできない人には新大陸から出て行ってもらおうと考えたのかしら。」
「す、スペイ国が、、」
スペイ国はカリブ海に蔓延する海賊討伐の為に海軍を集結していて、北米での出来事に口も手も出す気はなかったのだが、強欲なオランダ人商人には知る由もなかった。
「イギリ女王国も「ニューアムステルダム」に大変興味をお持ちのようですの、「ポーツマス」に大量の船が集まっているようですわ。」
「い、イギリ女王国も、、」
イギリ女王国は自国内の宗教的確執を解決する為に、狂信者をポイするためにハンザの女王が提案した移民船団の計画を進めていたのだが、強欲なオランダ人商人には知る由もなかった。
ちなみに、船が集まっているのは英「ポーツマス」だが、米「ポーツマス」と誤解してもらったほうがハンザの女王には都合が良い。もちろん強欲なオランダ人商人には知る由もなかった。
「大ロシヤ大帝国の世界最強「バルチック艦隊」も北米で活動中ですわ。」
「だ、大ロシヤ大帝国まで、、」
「バルチック艦隊」は「新生ハンザ同盟」の商船の護衛の為と、ハンザの女王が大ロシヤ大帝国の力を削ぐために提案した無茶な「北西航路」の探索と、無茶な「ハドソン湾」の調査で酷使されていたのだが、強欲なオランダ人商人には知る由もなかった。
「わたくしには知る由も無いことですが、とても素敵な位置にある程度開発のすすんだ街が、現地人の襲撃程度で奪えると知ったら、皆さんどうお考えになるかしら?」
「だからこそ!オラン国も艦隊を派遣して利益を守るべきなのだ!!」
「まぁ!皆さんで平和に利益を分かち合おうとしてる場所に、オラン国が戦争の火種を持ち込みますの?」
「どの口がいうか!!」
強欲なオランダ人商人は劣勢なのは判っていたが頑張る。
「オラン国は商売が盛んな国だ、その理由は商人の資産を国が保護してくれるからだ。この前提が崩れたら、オラン国はオラン国でいられなくなる。」
「ええ存じ上げておりますわ。」
「私が「マンハッタン島」に持っている土地は私が正当な取引で得た、我が商会の財産だ。オラン国が国是の為に全力で守らないといけないものだ。」
「正当かどうかの判断が必要と考えますわ。」
「ふん!差し迫った状況でそんな悠長な事を言ってる場合か!契約書だってあるんだぞ!」
「契約書があればよろしいのでして?」
ハンザの女王の問いかけに役人が答える。
「「契約書」がある以上、現状では正当な取引と判断せざるを得ません。」
「ははは、誰も私から「マンハッタン島」を取り上げることなど出来ないのだ!!」
会議室に強欲な商人の笑い声が響く。
「こちらの契約書をご覧くださいませ。」
ハンザの女王は新大陸からの手紙で届いた契約書をさしだした。
そこには強欲なオランダ人商人の字で『「マンハッタン島」から無法な襲撃者を追い出したら、25ドル相当のものを払う』と書いてあった。
「ま、まて!こんなものは無効だ!」
「オラン国としては有効と判断します。」
この回答で商人は役人が買収されている事にいまさら気づいた。
「おーほほほ。わたくしの解釈では「25ドル相当のもの」とは先ほど確認したとおり「マンハッタン島」の事ですわ。」
「オラン国はその解釈に同意します。」
「だが、無法な襲撃者は未だに「マンハッタン島」を占拠しているぞ!」
「わたくしの解釈では「無法な襲撃者」とは、「新生ハンザ同盟」に所属している人々から、たった25ドルで住まう土地をとりあげ、勝手に占領していた貴方の事ですわ。」
「それは、オラン国に依頼されて、、」
「そんな事実はありません!」
「おーほほほ。この契約書にあるとおり、無法な襲撃者である強欲なオランダ人商人を「マンハッタン島」から追い出したのですから、強欲なオランダ人商人は「マンハッタン島」を譲ってくださいませ。」
「新生ハンザ同盟」は遥か未来に「摩天楼」と呼ばれ、世界屈指の大貿易都市に成長していく街を手に入れたのであった。
「のじゃ?町の名前が「ニューアムステルダム」から「ニューリューベック」に変わったのじゃ。」




