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64 フェロー諸島

 北大西洋航路の調査を依頼されたのは俺様達だけではない。各国が独自に用意した探検隊や、それを目当てに集まる商人。奴隷、娼婦、料理を出す屋台に、鍛冶屋に医者に教会にとりあえずいろんな人達がフェロー諸島に集まっていた。


「とても賑わっておるのじゃ。」

「いろんな人がいるな。」

「浮浪児はおらぬようじゃの。」

「そのうち湧いてくるぞ。」


「いくらなんでも、人が増えすぎです。」


 そこには、いかにも訳知り顔をした、事情に詳しい船乗りがいた。


「新たな儲け話の匂いを嗅ぎ付けて、人が集まるのは当然なのじゃ。」

「いくらなんても、集まり過ぎです。」

「リスボンも新大陸が見つかってから人が増えてるぜ。」

「とても好景気だったのじゃ。」


「航路が発見され、確かな利益が約束されたポルトガ国とはいくらなんでも違います。」

「人より早く動かなければ、大きな利益は得られぬのじゃ。」

「兵は拙速を尊ぶのさ。」


「いくらなんでも、ここに人々が足止めされているのには理由があるのです。」

「妾を納得させられる理由とやらを聞いてやるのじゃ。」

「つまらない話だったら承知しないぞ。」


「海に悪魔のクジラが出たのです。」


「のじゃ!?」

「むっ!?」



 このフェロー諸島では昔からクジラを捕っていた。

 鯨はとても大きくて、とても賢い生物だ。一度でも猟に失敗した鯨は人間が危険な存在だと覚える。まずは恐怖。そして、十分に成長した鯨はデカい。デカいは強い。恐怖が怒りに変わった時、鯨は人間を襲いだす。人間を打ち倒すだけの体と知識を手に入れた鯨を「悪魔のクジラ」と呼ぶ。


「今回、顕現した悪魔はいくらなんでも危険すぎるのです。」


 悪魔のクジラは積極的に船を襲った。ちょうど、北大西洋航路探索の為にこの海域に船が集中したため被害が増えた。経験をつんだクジラはさらに賢くデカくなっていた。そして、意欲的に人間を襲うようになった。


「いくらなんでも、このままでは金の種になる事業が潰れてしまうと、島主様が懸賞金をだしたのですが、いくらなんでも遅すぎました。もはや、クジラの寿命が尽きるまで30年だか40年だか待つしかないのです。」


「いくらなんでも、そんなに待てないのじゃ。」

「いくらなんでも、長すぎるな。」


「真剣な話をしてる時に「いくらなんでも」なんて言うなんて、いくらなんでも失礼では!?」


「ごめんなさいなのじゃ。。」

「すまん。。」




 ~船~


「ということで、クジラを捕ることになったのじゃ。」

「セクール、クジラ油は燃料としてとても重要です。」


「しかし、クジラなんて狩れるのか?」

「大丈夫なのじゃ。銛を買ってきたのじゃ。」


「ほぅなかなか立派な銛だ。俺様が投げよう。」

「自分も投げてみたいっす」


「用意万端なのじゃ。悪魔のクジラを退治するのじゃ!!」

「ごぶーー!」



「ぴー!!」

「ぴーちゃんは「北にクジラを見つけた!」と言っている。」


「のじゃ!なかなかデカいのじゃ。」

「立派なクジラだな。」

「自分が!自分が銛を投げるっす」

「俺様が銛を投げるぜ。」


「とりあえず投銛が届くところまで近づくのじゃ!!」

「ごぶー!!」



「潜ったのじゃ。。」

「潜ったな。」

「自分の銛も海の底までは届かないっす。」

「困ったのじゃ。」

「困ったな。」

「自分、泳ぐっすか?」



 その時、船全体に大きな衝撃と、大きな揺れが襲った。


「なんなのじゃ!!」

「クジラに体当たりされたな。」

「ごぶ!」(被害状況確認中。浸水無し)


「下から来るとは猪口才なやつなのじゃ。」

「手も足も出ないぜ。」

「私がワイン博士ですが、「ワイン」の保管に大きな揺れは禁物です。このままでは私の「ワイン」の質が悪くなってしまいます。」

「ぼ、僕はなぜか珈琲博士ですが、珈琲のドリップも平らな場所で行いたいです。濃さが均等でなくなります。」

「5回だ。」

「あと、5回体当たりを受けたら船がまずいのじゃ。」


 その時、また大きな揺れと衝撃が船を襲った。


「4回だ。」

「ぬぬぬ。ジリ貧なのじゃ。」

「ダメもとで銛を投げてみるか?」

「自分は何時でも泳げるっす。」


 また、船を衝撃と揺れが襲う。


「3回だ。」

「妾達の愉快で楽しい航海もここまでなのじゃ。」

「こんな時の為にとっていた秘蔵の「ワイン」を開けますです。」

「シチリアの親分に自分は勇敢に戦ったと伝えてほしいっす。」


「とりあえず、逃げるのじゃ。」

「ごぶー!!」(全速離脱了解!!)



 悪魔のクジラは執拗に追ってきた。

 風向きがよく船の方が早かったので少しづつ距離が開く。


「風に助けられるとはな。。」

「まだ、わからないのじゃ。風前の灯なのじゃ。」

「自分はとりあえず銛を投げてみるっす。」


 銛は狙いたがわずあたったが、悪魔のクジラの堅い皮膚を貫くことは出来なかった。


「やっぱり、土産物屋で買った銛じゃ強度がたらなかったのじゃ。」

「刃引きもしてたしな。」

「投げ心地はなかなかよかったっすよ。」



 万事休すかと思われたが、


「風に命を預けるなど、妾の流儀ではないのじゃ。」


「何か策があるのか?」


「貫くのじゃ。」

「貫く?」


「悪魔のクジラの脳天を妾のドリルで貫くのじゃ!!」


 なんとこの船には厚く堅い北極海の流氷を砕くためのドリルが衝角に搭載されていた。



「悪くない。しかし、当たるのか?」

「当たらなければ、当たってもらうまでなのじゃ。」

「何をいっているんだ?」


「悪魔のクジラは執拗にこの船を追っているのじゃ。」

「追ってるな。」

「やつの眼前にドリルを持っていくだけで、勝手に当たってくれるのじゃ。」

「なるほどな。」

「ドリルの先端は添えるだけなのじゃ!!」

「まるで、工場の安全標語みたいだぜ!」


「ちょうどいいタイミングを図るのじゃ!」

「今です!!」

「のじゃ!!驚速反転なのじゃ!!櫓も使うのじゃ!!」


 船が大きな横向きの遠心力をうみながら180度回転する。


「手の空いた者は手導回転装置をまわすのじゃ!!」


「うおおおおおぉぉおおおお!!」

「わおおおおおぉおおーー!!

「ごぶーーーー!!!」


 みんなで一生懸命ハンドルを回した。



 そして、運命の時、俺様の船の衝角に装着されたドリルが、悪魔のクジラの堅くて強い脳天を螺旋の力で貫いた。



 クジラの脳漿が広く漂う海に朝日が昇る。


「この海も静かになるのじゃ。」

「少し、寂しいな。」

「人間が生きていくことは奪う事なのじゃ。」

「救われない。だが、」

「前を向いて進むのじゃ!」

「悪魔のクジラに恥じないように!」


 肉はみんなで美味しく頂いた。







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