55 セバストポリ
ウクライ国「セバストポリ」
黒海に面したクリミア半島の南。半島が長きにわたるモンゴル人の支配から解放された後に作られた港町。
「ワルシャワ合意において、この国は大ロシヤ大帝国が保護すると決まっていたではないか。合意を守らないのであればこちらにも考えがあるぞ。」
「よろしいですか。私たち新生ハンザ同盟は国ではなく個人と組織の利益を守る集団です。私は神聖ドイ帝国の代理人ではございませんのよ?」
「お前が裏で糸を引いているのはわかっているんだ。いいか。ただの漁村だったこの街を、大ロシヤ大帝国が一から港に作り上げたのだ。あの道も、この建物も、教会も全部が全部ロシヤ人が作ったものだ。いいか、この街にいるウクライ人はウクライ政府に頼まれて、渋々雇ってる体にしているだけのごく潰し共だ。そいつらの家も食べ物も着るものも全部ロシヤ人が用意している。今もだ。ほとんど仕事をしないそいつらの為に年間いくらの金を使っていると思っているんだ。」
「その件はウクライ政府とお話しくださいませ。私たち新生ハンザ同盟はあくまで、第三者として、大ロシヤ大帝国の方々の利益を守るのためこちらにきましたのよ。」
「我々が作り上げたこの街を出て行けと言われて、どんな利益があるというのだ。どうせ、あの新大陸の怪しい投資話や、バルト海の合同警備艦隊のようにお前たちだけが儲かる仕組みになっているんだろ。」
「とても心外ですわ。それらの話は大ロシヤ大帝国の方々に大きな利益になってましてよ。そもそもこの街に十分な投資ができたのも、私たちが持ちかけた儲け話で十分な利益が出たからではありませんか。」
「その利益を取り上げようとしてる輩がどの口で言うか!」
「この提案は大ロシヤ大帝国の方々の為になることなのですよ。このままでは、ただで取り上げられる資産を我々「新生ハンザ同盟」が買い上げて差し上げますと言っているのですから。」
「取り上げられるものか。我ら大ロシヤ大帝国を甘く見ない方がいい。広大な大ロシヤ大帝国中から集まる精鋭たちが我らの財を必ず守るのだ。」
「それはいつですの?」
「すぐにだ!」
「私がここに来る前にお友達にお願いしてきましたのよ。「私が話をする間」だけ、待ってくださいと。私のお友達は文字通り「すぐに」動けますわよ?そちらの「すぐに」はいつですの?」
「なっ!?」
「私の知る限りでは大ロシヤ大帝国が世界に誇る最強のバルチック艦隊は新大陸で私たち「新生ハンザ同盟」の商船を護衛してますわ。彼らが私たちの護衛を離れ何か月もかけてここに向ったら私たちも困ってしまいますわ。」
「く!?」
「私たちの護衛をバルチック艦隊が放り出したと知れば、バルト海を「サンクトペテルブルク」をバルチック艦隊のかわりに守ってる、バルト海沿岸諸国からなるバルト海合同護衛艦隊はどう思うかしら?」
「脅迫ではないか!」
「新大陸への護衛依頼は大ロシヤ大帝国が自発的に他の国々を押しのけて立候補しましたわよね?」
「貴様がありもしない利益をチラつかせたのだろ。バルド海、北海での航行を想定して作られたバルチック艦隊の船は大西洋横断で大変な被害をだしていると聞いているぞ。貴様に示された利益などとうに消えたわ。
「軍の内情に関しては存じ上げませんが、護衛のお仕事を十全にこなしていただけないのは困ったことですわ。」
「、、、」
「陸軍兵力の要である、土地持ち貴族様方はどう思うのかしら。」
「この大ロシヤ大帝国で作られる作物の大積み出し港であるこの「セバストポリ」を失えば彼らにとって大きな痛手になるはずだ。」
「宮廷貴族である貴方がご存じないとは思いませんが、小作人から作物を受けとっているのは「新生ハンザ同盟」の商人なのですわ。この街まで作物を運んでいるのも「新生ハンザ同盟」の商人です。この街から作物を船に積んで外国に売るのも「新生ハンザ同盟」の商人です。この街での帳簿上での取引だけをあなた方大ロシヤ大帝国貴族の商店が行っているのですわ。今回の件、あなた方だけが少し損をするだけですの。大ロシヤ大帝国のほとんどの方にとっては今までと何ら変わらないのですわ。」
「な、それではまるで「新生ハンザ同盟」に胃袋と財布を掴まれているようなものではないか。」
「大丈夫ですわ。「神聖ドイ帝国」も同じですの。」
「大丈夫なものか!!世界を支配するつもりか!?」
「私たち「新生ハンザ同盟」は個人と組織の利益を守るだけですわ。」
「このような悪辣な方法で民は黙っていないぞ。もちろん神もだ。」
「もちろんですわ。わたくし用意してきましたの。すぐにでも大ロシヤ大帝国のみなさんが一生懸命はたらいて作った利益を一部の貴族が不当に収奪していた事実を大ロシヤ大帝国のみなさんにお伝えすることができますのよ。その悪辣さにきっと神もお嘆きになるでしょう。」
何人目かの大ロシヤ大帝国の貴族の面会を終えて、ハンザの女王は考える。
今回の騒動はウクライ政府の暴走だ。誰も得をしない。得をさせない。せっかく作ってきた大ロシヤ大帝国と神聖ドイ帝国の関係が、誰かのくだらない欲望で潰されるところだった。なんとか自分が損をして大ロシヤ大帝国の利益を確保することができそうだ。必ず報いを受けさせる。
ロシヤは常に飢えている。寒く貧しい北の大地に閉じ込められている。ロシヤは常に「出たい」と思っている。ロシヤには「出れる」はダメ。「出れない」もダメ。「出れるかも」でいてもらう。ロシヤが出ていった後のロシヤにはロシヤがうまれる。永遠に繰り返す。付き合ってられない。今のロシヤに「出れるかも」けど「出ない」でいてもらう。
その為には与え過ぎない。奪い過ぎない。天秤の錘を少しづつ乗せていく。今のロシヤの天秤は両方の皿から零れ落ちるほど「出たい」が乗っている。それでも積み重ね続ける。丁寧に、慎重に、零れ落ちないように。
世界も一緒だ。いつ崩れてもおかしくない。人類がまだ存続できていることが不思議だ。誰かが間違えればすぐにでも崩壊しておかしくない。きっと、世界中に人類が壊れてしまわないように、支えている人がいるのだろう。自分のように。
ポルトガ国はもうダメだ。止められないし止めない。次の世界の形を考える。アラブの蓋は外された。新世界の扉も開いた。複雑すぎてもう読めない。読むのを諦めるわけにはいかない。アフリカには地獄のままでいてもらう。ヨーロピアの野心には捌け口が必要だ。
懐かしい顔が会いに来た
「妾が来たのじゃ。」
「俺様もいるぜ。」
「おーほほほ。「新生ハンザ同盟」のハンザの女王ですわ。」
「知ってるぜ。」「知ってるのじゃ。」
「実はカクカウシカジカでな、カクカウシカジカなのじゃ。」
「これはドラコだ。」
「。」
「もう少し詳しくお願いしますわ。」
「カクカウシカジカなのじゃ。」
「竜の卵だ。」
「それはすごいですわね。おほほ。」
「そうなのじゃ。すごいのじゃ。」
「それほどでもないがな。」
「ちょうど仕事がありまして、オランダの「アムステルダム」まで船をまわしてくださいませ。」
「また変なトラブルに巻き込まれたのじゃ。」
「腕が鳴るぜ。」




