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老婆が指さした庵の斜め上空・・それは、いったい何を意味するのか? 口橋と鴫田は、しばし考え込んだ。だが、空の彼方へミイラが消えるなどということは、地球上の三次元世界の科学で起こる訳がなかった。
「お婆さん、どういうことです?」
口橋は、しばらく考え込んだあと、訝しげに訊ねた。
「その、お婆さん・・という呼び方は、やめて下しぇ~~まし」
「はあ…では、どのように?」
「ご祈祷師様・・で、よろしゅうごぜぇ~ましゅだ」
口橋は自分でご祈祷師様とよく言うな…とは思ったが口にはしなかった。
「・・では、ご祈祷師様、上空とはどういうことでしょう?」
「フッフッフッ…怪しいことをお訊きになるお方でしゅのぉ~。遥か彼方の方向でごぜぇ~ましゅだぁ~」
刑事としては、そんな瞞しを信用することなどとても出来ない。口橋は鴫田に視線を送ったが、鴫田も返す言葉がなく、二人とも押し黙ってしまった。
老婆の話を信用すれば、五体のミイラは忽然と霊安室から消滅したことになる。これは地球科学を否定した超常現象で、捜査を否定する以外の何物でもなかった。口橋は、やはりこの庵へ来るべきじゃなかった…と後悔した。
「いや! ご祈祷師様が仰せになった内容は、よく分かりました。では、これで…」
「そうでごじぇ~~ますかもし…」
「口さんっ!」
「鴫田、いいんだっ! おいっ、行くぞっ!!」
口橋は鴫田を促し、庵の外へ出た。




