表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

サンタクロースのプレゼント

作者: ウォーカー

 12月24日、クリスマスイブ。

クリスマス本番を明日に控え、世界はお祭りの様相。

ここ、商店街の外れにある公園では、

吐息も白くなるような寒空の下、

小学生くらいの子供たちが元気に遊び回っている。

すると、その中の一人、

十歳くらいの男の子が時計を見上げて言った。

「いけね、もうこんな時間だ。僕、帰らないと。

 今日はパパとママと家で夕飯を食べる約束なんだ。

 サンタさんが来る準備もしないと。」

すると、他の子供たちからは、意地悪な言葉が返ってきた。

「何だお前。

 四年にもなって、まだパパとかママとか言ってんのか?」

「お前の親って、やたらとお前を子供扱いするよな。

 まだ風呂も一緒に入ってるんだって?」

「う、うるさいな。

 僕だってもう子供扱いは止めてくれって、親には言ってるよ。」

「まあまあ。

 日が暮れて寒くなってきたし、今日はこれで解散にしようよ。」

「しかたがないな。」

「今日はクリスマスイブ。

 サンタさんからプレゼントを貰うためには、いい子にしてないとね。」

散り散りになって公園を出ていく子供たち。

すると、最初に帰ろうと口にしたその男の子が、誰とは無しに尋ねた。

「ところで、サンタクロースの正体って、誰なんだろうね?」

すると子供たちは振り返って、真顔でこう答えるのだった。

「さあ?俺は知らないけど。」

「サンタクロースの正体なんて、誰も調べたことがないんじゃない?」


 公園から歩いて十五分ほど。

その男の子は、自宅の前まで帰ってきた。

冬の日暮れは早く、周囲はもう薄暗くなっていた。

薄暗くなった自宅に、クリスマスの装飾の明かりが灯っている。

大きなクリスマスツリーに、色とりどりのクリスマスの装飾品。

赤に緑にと明かりを瞬かせるかわいらしい光景に、

しかし、その男の子は気恥ずかしそうに顔をしかめた。

「これじゃまるで幼稚園みたいだよ。

 僕ももう四年生なんだから、子供扱いは止めて欲しいって言ってるのに。」

その男の子は人目を避けるようにして玄関の扉をくぐった。


 その男の子が自宅の中に入ると、両親に満面の笑みで迎えられた。

「おかえり。寒かっただろう?

 さあ早く着替えて、夕食にしよう。」

「おかえりなさい。今日はごちそうよ。」

その男の子の両親の年齢は、中高年といったところ。

夫婦二人とも上品で大人しそうな風体で、

白髪が混じり始めた頭には、赤と白のサンタクロースの帽子を被っていた。

そんな両親の浮かれた姿を見て、その男の子は溜息一つ、

表のクリスマスツリーを見た時と同じしかめっ面で応えた。

「パパもママも、いい加減にしてよ。

 僕を子供扱いしないでって、いつも言ってるじゃないか。」

しかし、その男の子の両親はめげない。

笑顔のままで涼しそうに応えるのだった。

「そんなことを言うものではないよ。

 お前は、私たちが待ち望んだかわいい子供なんだから。」

「そうですよ。

 親にとって子供は幾つになっても子供なんですから。」

友達たちにからかわれるまでもなく、

その男の子の両親が子煩悩であるのは、その男の子も認めざるを得ない。

我が子を幼子のように扱うのはいつものこと。

家族三人で一緒に風呂に入り、一緒の布団で寝ていたのは、つい最近のこと。

もう小学四年生になったのだからとその男の子が懇願した結果、

家族三人で風呂に入るのは、誕生日やクリスマスの時だけ。

両親とは別に、やっと子供部屋を用意してもらったものだった。

そんなことを思い出している間にも、

その男の子は両親に抱き抱えられるようにして食卓へと運ばれていく。

食卓にはチキンや温かいシチューなど、クリスマスの御馳走が並べられていた。

そうして、その男の子は、

両親が用意してくれた御馳走を家族三人で食べて、一緒にお風呂に入って、

クリスマスイブの夜を家族団欒で過ごしたのだった。


 夕食も入浴も終えて、後は寝るだけ。

就寝の準備を整えて自室に戻ろうとするその男の子を、両親が呼び止めた。

「待ちなさい。

 サンタさんに叶えてもらいたい願い事は、もう決めたのかい?」

「願い事って?」

「毎年言ってるだろう。

 サンタさんは、クリスマスに願い事を叶えてくれるんだ。」

「いつでも誰でも叶えてもらえるわけじゃないけれど、

 お前も何か願い事を頼んでおきなさいな。」

そんな両親に、その男の子は軽く首を傾げた。

「いつも思うんだけど、

 サンタさんは願い事を叶えてくれるんじゃなくて、

 プレゼントをくれるんでしょ?

 そんなことを言ってるのは、パパとママだけだよ。」

その男の子の指摘に、両親は顔を見合わせて、

思い出したかのように微笑んで返した。

「ああ、そうだったね。でも、念のためだよ。」

「そうそう。

 そういうこともあるかもしれませんから。

 子供はパパとママの言う事を聞くものですよ。」

「そうかなぁ?まあいいや。

 今年のクリスマスはサンタさんに新しいおもちゃを頼むことにするよ。」

「そうか。

 それじゃあ、今日は夜更かしせずに早く寝るんだよ。」

「ちゃんと眠っていないと、サンタさんは来てくれませんからね。」

「はーい。おやすみなさい、パパ、ママ。」

「おやすみ。」

「おやすみなさい。」

両親におやすみの挨拶をして、その男の子は自室に入った。


 美味しい御馳走を食べて、温かい風呂に入り、ふかふかのベッドの中へ。

しかし、その男の子は目を閉じることなく、じっと息を潜めていた。

誰にも聞こえないよう、小声でそっとささやく。

「パパとママにはああ言ったけど、

 今夜は早く寝るわけにはいかないんだよな。

 今年こそ、サンタの正体を暴いてやるぞ。」

クリスマスイブの夜。

その男の子は、枕元に現れるサンタクロースの正体を暴こうと、

寝ずの番をしていたのだった。

サンタクロースの正体など、どうせ両親に決まっている。

いくらクリスマスイブの夜とはいえ、

他人が家の中に入ってくるわけがないのだから。

サンタクロースのつもりで枕元に来るであろう両親を、逆に驚かせてやろう。

そうすれば、両親も少しは自分を認めて、子供扱いを止めてくれるはず。

そんな子供じみた、いたずらのような行動が、

しかし、この世界の理すら暴くことになることを、

その時はまだ知る由もなかった。


 時間は過ぎて丑三つ時。

ベッドの中で寝た振りをするその男の子に近付く気配。

「引っかかったな!

 サンタクロースの正体見たり、パパとママ!」

ベッドから、がばっと起き上がって、大声で喚くその男の子。

しかし、薄暗い部屋の中に立っていたのは、父親でも母親でもなかった。

作り物ではない白髭に白髪の、見ず知らずの老爺が、

赤と白のサンタクロースの格好で枕元に立っていたのだった。

「え・・・?だ。誰?」

予想外の事態に唖然とするその男の子。

するとその騒ぎを聞きつけたのか、隣室から呼ぶ声。

「どうした?」

「何かあったの?大丈夫?」

目を覚ましたらしい両親の声が近付いてきて、

その男の子の部屋の扉が開けられた。

広くもないその男の子の部屋に、

その男の子と、サンタクロース姿の老爺と、両親が集まった。

ふと、その男の子はサンタクロース姿の老爺の顔を見る。

老爺は喜哀が混ざった表情をしていた。

なんだか、どこかで見たような顔をしているな。

その男の子がそう思った、その時。

サンタクロース姿の老爺が凍ったように動かなくなった。

部屋の中の風景がぐにゃりと歪んで、溶けた絵の具のように混ざり合っていく。

何事かと部屋の中を見渡し、窓の外を見る。

凍ったのは老爺だけではなかった。

月にかかる雲、明滅する街灯、走り回る野良猫、

窓の外の景色全てが凍ったように止まっていた。

凍っていないのは、その男の子と両親だけ。

何が起こっているのか、その男の子には、にわかにはわからない。

しかし、両親には何か心当たりがあるのか、

二人とも静かに微笑んで頷き合っていた。

いつもの穏やかな笑顔で、その男の子に向き直る。

「そうか、とうとうこの時がやってきてしまったか。

 必死に避けようとしてきたのに。」

「やっぱり、子供の成長は止められないものですよ。あなた。」

世界が歪んで溶けて、時は止まって。

そんな状況でも落ち着いている両親に、

その男の子は叫ぶように疑問を口にするしかできなかった。

「待ってよ。

 パパもママも、何を言っているの?

 何が起こっているの?

 僕にも分かるように教えてよ。」

すると両親は、やさしく諭すように応えるのだった。

「・・・そうだな。

 お前にも説明をしなければいけないな。

 よく聞きなさい。

 この世界は、現実の世界ではない。」

「わたしたち夫婦二人が見ている、夢の世界なのよ。」

そうしてその男の子の両親の口から、真相が明かされる。


私たち夫婦は、子宝に恵まれなかった。

二人とも歳を重ねてからの結婚で、

元より子宝に恵まれる機会が限られていた。

しかし、二人とも、体に異常は無いはずだったのだが、

どうしても子供ができない。

どんな治療を受けても子供が出来ず、

やがて二人は、子供を授かるには歳を重ね過ぎてしまった。

もうどうしても子宝を授かることはできないとわかった。

だから、私たちは、サンタクロースに願った。

私たち夫婦に子供をください、と。

クリスマスイブの夜。

メッセージカードにそんな願い事を書いて、靴下に入れておいた。

そして、夫婦二人で眠りについて、

朝、目覚めると、奇跡が起こった。

私たち夫婦二人とも、若返っていた。

まるで、結婚したその日に戻ったかのように。

そうして、二人の枕元には、

赤ん坊とメッセージカードが置かれていたんだ。


 そんな説明を聞いて、すぐに納得できる人がいるだろうか。

その男の子もすぐに納得できるわけもなく、

唖然として聞き返すしかできなかった。

「それで、枕元に置かれていたのが、僕ってこと?

 まさかそんなことがあるわけがないよ。」

「そう。でも事実なんだ。

 幼いお前の顔を見て、すぐに私たち二人の子供だってわかったものだよ。」

「なにせ面影がありましたからねぇ・・・。

 わたしたち二人の子供に違いないって、すぐにわかりましたとも。」

「それだけじゃない。

 若返ったのは、私たち二人だけじゃなかったんだ。」

「日付を確認して、ここは過去の世界なんだってわかったんですよね。」

「そう。

 慌ててサンタクロースからのメッセージカードを確認すると、

 中にはこう書かれていたんだ。

 お前たち夫婦に子供を授けるのは無理だが、

 せめて子供がいる夢を見させてあげることはできる。

 これからお前たち夫婦が見るのは、子供がいた場合の夢の世界。

 この夢の世界が現実の世界と違うのは、お前たち夫婦に子供がいることだけ。

 期限は、子供が大人になるまでの間。

 その間だけでも、子供との家族団欒を感じて欲しい、とね。」

「だから、ここが夢の世界だってわかっていたの。

 現実世界そっくりに見えても、現実世界ではない、夢の世界。

 それでも、お前と過ごした十年間は楽しかったですよ。

 子育てをするのは、わたしたち二人が長年夢見たことでしたから。」

「私たちは夢を覚まさないように必死だったんだ。

 サンタクロースからのメッセージカードで、

 この夢の世界には終りがあるとわかっていたから。」

「夢の世界の、終わり・・・?」

この世界は夢の世界で、自分は夢の中の存在。

しかもそれには終わりがある。

急にそんなことを言われたら、大人だって冷静ではいられないだろう。

残酷な話だが、それでもその男の子には知らせなければならない。

夢の世界ではあれど、子供を持つ親の責任として。

父親は重々しく頷いて口を開いた。

「そう。

 この世界は夢の世界、夢には終わりがある。

 サンタクロースからのメッセージカードによれば、

 この夢の世界は、私たちが子育てをする間だけ存在する。

 子供が成長して大人になれば、そこで終わり。」

「では、子供が大人になるのって、いつなんでしょうね。

 子供に子供が出来た時?

 いいえ。それでは、子供が子供を生むことになってしまう。」

「私たちは、子供が大人になる時とは、

 子供がサンタクロースの正体を知った時だと考えたんだ。

 なにせ、サンタクロースが叶えてくれた願い事だからね。

 子供は親が隠そうとすることに興味を持つもの。

 それを暴いた時、子供は大人になるのだろう。

 だから、私たちはお前に、

 サンタクロースの正体を調べさせまいとしていたんだ。」

「少しでも長く一緒にいたくって、

 いつまでも子供扱いしてしまって、ごめんなさいね。

 子供として扱っていれば、いつまでも子供でいてくれると思って。」

「しかし、今日。

 お前はこうして、サンタクロースの正体を知ってしまった。

 それはきっと、この夢の世界の終わりを意味するだろう。」

両親につられ、その男の子が見る先。

そこには、サンタクロースの格好をした老爺の姿。

先程まで凍ったように動かなかったサンタクロースは、

再生不良のビデオ映像のように崩れて分解されようとしていた。

「それじゃあ、これは本物のサンタクロース?

 でもこれは、パパでもママでもない。

 サンタクロースって、パパやママが化けているものじゃなかったの?

 このサンタクロースは誰なの?」

「それは私たちにもわからない。

 さっきも少し触れたが、私たちの世界では、

 サンタクロースは願い事を叶えてくれる存在だったんだ。

 そして、願い事とは何も、プレゼントだけとは限らない。」

「その昔は、両親が子供のために、

 サンタクロースの格好をしていたそうですよ。

 それがいつの間にか変わってしまったのだとか。」

「そうなんだ・・・。

 僕はどうしたらいいの?僕は消えてしまうの?」

夢の世界の存在は、夢が覚めれば消えてしまう。

その男の子は泣きそうな顔で両親に懇願する。

しかし、両親にもどうすることもできないことは、

その男の子にもわかっていることだった。

両親とも目元を拭って言う。

「すまない。

 私たちにできることは無いんだ。」

「できることなら、わたしが代わってあげたいんですけどね。」

項垂れるその男の子に、父親が顔を引き締め、真剣な表情になって言った。

「しかし、諦めてはいけないよ。

 私たちも知らない何かがあるかもしれない。

 さっきも少し言ったが、この夢の世界は、

 サンタクロースのメッセージカードによれば、

 お前が存在する以外は、現実の世界と変わらないはずなんだ。

 だから本来、サンタクロースはプレゼントをくれるのではなく、

 願い事を叶えてくれる存在のはずなんだ。」

「いつも誰でも叶うとは、限りませんでしたけれどね。

 私たちの願い事のように制限付きだったり、

 願い事が叶った代わりに災難が起こったり。

 そういえば、毎年クリスマスの頃には、災害が起こってましたかねぇ。

 あれも今にして思えば、誰かの願い事が叶った代償だったのかしら。」

「願い事が叶うかどうかは、願ってみないとわからない。

 でも、一つだけ確実なことがある。

 どんな願い事も、願わなければ叶うことはない、ということだ。

 この夢の世界が消えることは、もう止められない。

 願い事が叶うのか、どんな願い事なら叶うのか、私にはわからない。

 でも、願い事を願わなければ何も叶わないということだけはわかる。

 だから最後に、お前の願い事を言ってご覧。」

「どんなことでもいいんですよ。

 お前が思ったことを願えばいいんです。

 願い事を叶えてもらえるように、

 わたしたちも一緒にお祈りしますからね。」

サンタクロースが見せる夢の世界の中で、

さらにサンタクロースに願い事を叶えてもらう。

そんなことが可能だろうか。

こうしている間にも、夢の世界は歪んで混ざって消え去ろうとしている。

何を願えばいいのか、

考える時間はあまり残されてはいないようだった。


 その男の子が生活していた世界は、

子供がいない両親が、サンタクロースに頼んで見せてもらっていた、

夢の世界だった。

期限は、子供が大人になるまで。

そうとは知らず、

その男の子がサンタクロースの正体を暴いてしまったことで、

夢の世界の終わりが近付いていた。

サンタクロースの正体が何者だったのか、今はそれを考える余裕はない。

このままでは、この夢の世界もろとも自分も消えてしまう。

できることと言えば、サンタクロースに願い事をお願いするだけ。

サンタクロースに何を願えばいいだろう。

夢の世界を消さないでもらう?

いいや、それでは夢を見るために両親が眠り続けることになってしまう。

では、自分を現実世界に移動して存在できるようにしてもらう?

いいや、無理だろう。

そんなことができるのなら、こうして両親に夢の世界を見せたりはしない。

現実世界で直接子供を用意すればいいのだから。

それができないから、こうして夢の世界を見せたのだろう。

何か、何かいい願い事はないのか。

しばしの逡巡の後、その男の子は降参するように首を横に振った。

「・・・無理だよ。

 この夢の世界を続けるのも、僕が現実世界でパパとママと一緒にいるのも、

 どっちも叶えられない。

 最初から無理な願い事だったんだ。」

その男の子の答えは予想していたようで、応える両親は目に涙を浮かべていた。

「やはりそうか。

 私たち二人も、随分と考えたんだ。

 何かいい方法はないかって。

 しかしやはり、解決方法は見つからなかった。」

「わたしたちがお前と一緒にいる時間を伸ばすだけなら、

 方法はあるんですけどねぇ。

 でも、夢の世界をただ延ばしても、

 最期はわたしたちと一緒にお前もどうにかなってしまいますから。

 お前が生き延びてくれないと意味がありませんものね。」

「そうだよね、でも・・・」

「でも?」

両親とともに自分も現実世界に行く。

それはできなくとも、その男の子には秘策があるようだった。

こめかみに指を当てて、必死に考えている。

「思い出してみて、パパ、ママ。

 この夢の世界は、僕が存在する以外は現実世界と同じ。

 それなのに、この夢の世界では、サンタクロースの意味が変わっていた。

 ということは、願い事によってもまた、

 サンタクロースは変えられるんじゃないかな?」

「サンタクロースを、変える?」

「そう。

 この夢の世界から現実世界を変えられるとすれば、

 それはサンタクロースかもしれない。

 だから、サンタクロースを変える。

 夢の世界のサンタクロースを変えれば、

 現実世界のサンタクロースも変わるかもしれない。

 サンタクロースだって、子供の夢のような存在なのだから。

 そのために、サンタクロースを入れ替えて、僕がサンタクロースになる。

 もちろん、今までのサンタクロースと同じというわけにはいかないと思う。

 今の僕には、人の願い事を叶える力なんてないから。

 でも、せめてもの代償として、

 子供たちにプレゼントを配るくらいならできると思う。

 そうすれば、僕はパパとママといつも一緒にいられなくても、

 クリスマスくらいは逢えるようになるかもしれない。

 そのためだったら、

 僕はこの先ずっとプレゼントを配り続けることになってもいい。

 もう残された時間はなさそうだ。

 だからお願い、サンタクロース。僕をサンタクロースにさせて!」

自分が存在することで、サンタクロースの意味を変えられることがわかった。

それならば、自分が入れ替わってサンタクロースになる。

そうすれば現実世界でも何かが変わるかもしれない。

その男の子が出した答えは、両親の想像を超えていた。

想像もしない答えに、両親はオロオロするばかり。

それが即ち、その男の子が子供から大人になったという証拠だった。

いよいよ世界は歪み、混ざり、真っ黒な空間に溶け込んでいく。

混ざり合う夢の世界の終わりに、その男の子と両親は手を伸ばし、

家族三人で最後の包容を交わすのだった。



 12月25日、クリスマス。

朝、その夫婦が目を覚ますと、

二人は揃って小さなベッドに横になっていた。

そこは、子供部屋になるはずだった部屋。

とうとう子宝に恵まれず、使われることのなかった場所。

どうしたことか、その夫婦二人は、子供部屋のベッドで目覚めたのだった。

目覚めてすぐに、お互いに顔を見合わせる。

目の前の顔は、白髪だらけで皺が目立つ、いつもの顔。

しかしなんだかその顔は、とても久しぶりに見る気がした。

父親が起き上がって伸びを一つ、夫婦で語らい合う。

「おはよう。

 何だか、長い夢を見ていたようだよ。

 お前はどうだい?」

「奇遇ですね。

 わたしも、夢を見ていたみたいなんですよ。

 長い長い、十年間もの夢をね。」

「そうか。私も同じだよ。

 幸せな十年間だった。

 あの子はどうなっただろう。」

やっと手にした子供を失って、失意の父親。

しかし、母親は枕元を見て、口元をほころばせていた。

「・・・それは、これを見ればわかりそうですよ。」

父親も枕元を見やると、そこには膨らんだ靴下。

クリスマスイブの夜にその夫婦二人が用意しておいた靴下は、

中身がぱんぱんに膨らむほどプレゼントが詰められていて、

傍らには、こんなメッセージカードが添えられていた。


メリークリスマス。

サンタクロースより、パパとママへのプレゼント。



終わり。


 クリスマスなので、サンタクロースの話です。


毎年クリスマスに、

子供たちにプレゼントを配り続けるサンタクロース。

そんな過酷な役割を引き受けたのは何故だろう。

もしかしたら、何かの代償として続けているのかも。

そんな着想で、この話を作りました。


親は幾つになっても子供を子供扱いするものですが、

もしかしてそれは何かを隠すためかもしれません。

子供が決して知ってはならない何かを。


お読み頂きありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ