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私が男爵令嬢かを尋ねていらっしゃるのですか?いいえ、私は男爵であり凄腕諜報員で、今から貴方を破滅エンドへと導きますが、何か?

作者: 風音紫杏

 「ルシア王女!高慢ちきで自分本位なお前はもううんざりだ!ゆえに、本日をもって、お前との婚約を破棄する!」

 

 臨時の招集がかかったので、面倒だと思いながら王城へと出向いてみれば…


 まさかの王太子ことエリオ殿下による婚約者断罪シーンです。

 断罪するお相手は、隣国の第一王女、ルシア様のようで。


 私としては、正直、こういうの死ぬほどどうでもよろしいのですけど。


 さっさと帰りたいですね…と、思っていると、エリオ様が、なんか追加で発言されます。


 「そして男爵令嬢、ミレーユ・ツベルクとの婚約を発表する!」


 ……は?


 今、私と同姓同名と思しき人の名前が出たような…?

 うん、気のせい気のせい。


 だって私、男爵令嬢じゃありませんし。


 なんて思って、現実逃避していれば。エリオ様が胡散臭い笑顔で、こちらへ歩いてきました。


 何故か、片手を私に向かって差し出しています。


 色々と大きな勘違いをしていらっしゃるようですが、間違いなく、私のことを指しているようですね。

 面倒くさいことこの上ありませんが…しょうがありませんね。


 この阿保王子に、一部始終を説明してやるとしましょうか。


 そんな思考のもと、私は口を開くことにします。


 「こんにちは、王太子殿下。殿下におかれましては、ご機嫌麗しく。まあ、私の機嫌は最低最悪ですけど。」


 エリオ様は瞠目し、周りのざわつきが激しくなります。


 まあ、そりゃそうでしょうね。

 

 と思いつつ、言葉を続けます。

 

 「まず、私と殿下が婚約するというお言葉、初耳です。一方的に私を見初め、権力を振りかざして無理矢理婚約までこぎつけようとでも考えていらしたのですか?ああ、それよりも、既成事実をつくろうとされた方が先でしたね。あの時はお気の毒様でしたね。生憎あいにく、私は媚薬入りの食べ物を食す趣味はございませんし、それを見破れぬほど、耄碌もうろくしてはおりませんよ。貴方にそれを命じられた侍女から、指示書も受け取ってあります。」


 エリオ様の顔が一瞬で青くなります。

 あ、ちょっと溜飲が下がったかもしれません。

 まあ、こんなもの。まだまだ序の口ですけれど。


 「あと、訂正がございます。私は男爵令嬢ではなく、男爵です。」


 会場にいた人の、半分が漫画に出てきそうなテン目になりました。漫画みたいでちょっと面白いですわ。

 

 しかし、ここまで無知な方々がいらっしゃったとは…この国、大分危ないですね。


 そろそろ本国(・・)へ帰りましょうか…


 まあ、この一連の説明を終えてからですけれども。


 「私の本職は諜報員です。本来の身分としては、アリドル王国の公爵令嬢ですね。ですが、諜報員として働くことが中々興味深く、色々な国で仕事をしていたのですよ。ですが数ヶ月前、この国の両陛下より、仕事の依頼を受け、それを終わらせたところ、両陛下は非常に喜ばれまして。」


 貴族令嬢のお手本のような。作り笑顔を浮かべ、私は告げる。


 「私は、男爵という爵位を賜ったのですよ。」


 その瞬間、広間は。


 水を打ったような静けさ、という言葉が、よく似合う空間と化しました。


 そんな中でも。


 私は、にこやかにしゃべり続けます。


 「ですが、この国にも失望させられましたし、そろそろ爵位を返上してお暇致しますね。ああ、そうだ。貴方が話そうとされていた、ルシア様が私を虐めたとかいう与太話の対策として、ルシア様のアリバイはキッチリと作ってありますし、次の縁談も諜報員としての伝手を駆使してご用意しておりますので、ルシア様。その点に関してはご安心ください。」


 ここらで、エリオ様がフラフラし出しました。ルシア様は、花が開いたような笑みを浮かべています。


 ところで、そこの王太子専属の護衛さん?

 貴方の主が倒れる前に、支えることを忘れないほうがよろしくてよ。

 腐っても王太子殿下ですからね、今のところは。


 まあ、全部どうでもよろしいのですけど。


 「ああ、ちなみに、伝手を使って貴方の今回の醜聞は広めることにいたします。楽しみにしていらしてね?では、さようなら。」


 こうして、婚約者断罪パーティーは、両陛下が介入する前に事なきを得ました。


 少し調べたところ、エリオ様は醜聞が広まるまえに廃摘され、公爵令息として優秀だった従兄弟が、新たな王太子となったのだとか。ちなみにその方は、私がルシア様に紹介した縁談の相手です。結局、隣国との関係が壊れることもなく、めでたしめでたしですね。


 …まあ、実はこれ、この国の将来を危惧された情深いアリドル王国の国王陛下から下された命令を実行しただけなんですけれど。


 これくらいならば、手を染めて誘導するほどでもありませんでしたので、シナリオを作ってその通りになるよう、少々弄らせて頂きました。


 一流の諜報員ならば、これくらいのシナリオ、完遂させて当り前ですから、自慢するほどでもありませんが。


 ただ…誤算としては、両陛下の動きが少々素早かったことですね。

 エリオ様の醜聞があまり広がらないうちから、さっさと廃摘して国外追放にしていましたから。


 まったく、ルシア王女くらい素晴らしい婚約者がいると、自分に自信が持てなくたり、自分を立ててくれる下位貴族の御令嬢を婚約者にしようとする馬鹿が増えているということですが…


 下位貴族の御令嬢が、いくら馬鹿な王子であろうと、王太子に媚びを売るのは、家のための当然の行為です。


 それを自身に好意があると取るなど、当事者からすれば迷惑千万。


 しかし、拒否することなど不可能ですから、彼を好いているように演じていたのでしょう。


 脳内花畑にも程があります。


 男爵令嬢さんが本当に王太子に色目を使っていれば、不敬に該当するのですが。少し調べた結果、完全に白だと判明しました。どうやら、本当に巻き込まれただけだったようです。


 不憫でしたので、ルシア王女同様、良い相手を見繕い、紹介させていただきました。風の噂では、婚約して仲睦まじいカップルとして社交界でも評判だとか。


 王太子が出来損ないならば、婚約者は優秀な方を迎えるという事情は、少し考えれば理解できる筈。


 それすら分からない人に、婚約破棄も、王太子という地位にいる権利すらございません。


 王家の恥として、療養と言う名の辺境での幽閉という事態にならなかっただけ温情がありました。


 私はあの時、珍しくドレス姿だったというだけで男爵令嬢と勘違いされたことに少々苛立っておりましたので、少しばかり残念ですが…まあ、良いとしましょう。


 私?


 私なら、広間を出たその足で辞表を提出し、さっさとアリドル王国へと帰らせていただきましたわ。

 

 そして、諜報員として裏社会で無双しております。

 もちろん、独身ですし、それを満喫しております。


 私の中では小規模なものではありましたが、武勇伝の一つでございました。

 これにて失礼いたします。

ふと思い立って書いてみました。

感想等、お待ちしています。

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