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言えないよぉ……

 ◇◆◇◆◇◆◇


「うわ!どうしたんですか!?顔が真っ青ですよ?」


「……おはよう……ラック」


 朝になり、隣のベッドで目覚めたラックが俺の顔を見るなり驚いていた。鏡を見ていないので分からないが、俺は相当にヒドイ顔をしているのだろう。

 結局、デュランダルを失った事に頭が一杯で寝付けなかった俺は、心も体も今までに無いくらいに疲弊をしていた。

 いくら考えても解決策は見いだせない。もうどうしようもない現実に、頭はずっとパニック状態だ。


 はぁ……こんな事、どうやってパーティーの皆に言えばいいのだ……

 デュランダルを失くした事を皆に黙っている訳にはいかない。

 でも、もしミネルバに言ったら、いつものゴミを見るような目で俺を罵り、得意の火炎かえん魔法で俺を火刑に処すに違いない。

 普段は常識人のヨウランも怒ったら凄く怖いし、東方に伝わる拳法を使って、俺に100連コンボをおみまいしてくるかもしれない。

 ラックだって俺を実験と称してモルモットの刑に処してくるかも。

 メリッサは……制裁は与えてこないかもしれないけど、いくら慈悲深き聖女様でも、さすがに呆れて俺の事を見捨てるかもしれないなぁ……

 本当にどうしよ……

 そんな事に頭を悩ましながらも考えがまとまらないまま俺は宿を出て、先に宿の前で待っている女性陣達と合流する。


「あっ、おはようございます。勇者様、ラックさん」


 俺達が宿を出た事に気づいたメリッサが俺とラックに気づいて挨拶をしてくれた。俺は「おはよう……」と、ラックは「おはようございます」と言って挨拶を返す。


「おはよう、二人とも。……アレ?ヨハン?なんか顔色悪くない?」


 挨拶をしてくれたヨウランが俺の悪い顔色に早くも気づく。ヨウランの指摘に俺の体はビクッと震える。


「何?二日酔いでもしたの?……これだからゴミクズ勇者は。肝臓もあんたの性根と一緒でヘタレているのね」


「……いや、そんなんじゃ……」


 俺の様子に悪態をつくミネルバ。

 いつもならそんな悪態にはカウンターの年増いじりをお見舞いしてやる所なのだが、デュランダルを失くしてしまった後ろめたさからか、そんな気力は沸いてこない。

 あぁ……デュランダルが失くなった事を早く言わねば……時間が過ぎていくと余計に言いづらくなってしまうし……

 よし、覚悟を決めた!潔く言うぞ!


「え~っと、あのぉ~……」


「もう!全く仕方がないわね!」


 俺が意を決してデュランダルを失くした事を皆に告げる為に口を開いたが、ミネルバがそれを遮るかのように大きな声で言葉をかぶしてきた。

 俺は喋るタイミングを失ってしまう。


「これを飲んでシャキンとしなさい!!」


 ミネルバはそう言って、何かが入っている小さな瓶を俺に渡してきた。


「……何これ?」


「二日酔いに効く栄養ドリンクよ。うちの里では有名なドリンクなの」


「えっ、いや……」


 別に二日酔いと言うわけでは無いのだが……。俺はそう言いかけようとするが、ミネルバは言う間を与える事なく話を続けた。


「このパーティーの中で一番弱っちいゴミクズ勇者の貴方だけど……」


 おい、事実だとしてもそんな事言うなよ。オブラートって言葉を知らないのかな?


「……それでも、魔王を倒せるのは聖剣デュランダルを唯一扱える貴方だけなのよ。そんな貴方がしっかりしないでどうするの?頼りにはしてるんだから、二日酔いくらい取り柄の根性でどうにかしなさい」


 ミネルバは視線を横にそらして顔を赤らめ、恥ずかしそうにしている様子だ。


 ……えっ?どうしてこんな時にだけデレちゃうの?

 めっちゃ言い出し辛くなっちゃうじゃん!

 普段はどんだけ頑張っても「地を這いつくばるゴミ虫みたいね」とかなんとか言って悪態つく癖に、どうしてこんな時だけ……


 悪い流れはまだまだ続いていく。


「私もヨハンの事を頼りにしてるよ。確かにこの中で一番弱いかもだけど、女神からの試練を乗り越えてデュランダルを手に入れたヨハンは本当に凄いと思う!世界で初めて聖剣デュランダルを所有した勇者''ヨハン・プリテンダー''のパーティーにいられる事は私の誇りだよ!」


 ヤメて!ヨウラン!良かれと思って言ってくれているのは分かるけど、余計に言い出し辛くなるから止めてくれ!

 あと胸が凄く痛い!


 人知れずダメージを受けている俺に、更なる追い討ちがやってくる。


 メリッサは俺の右手を両手で包み込むようにして掴み、そして自身の小ぶりな胸の前に、俺の右手を祈るポーズをとるようにして持ってくる。


「私は勇者様が……いえ、小さい時から一緒の孤児院(・・・・・・)で育ったヨハン君(・・・・)がどれだけの苦労と努力をしていたか私は知っています。皆に馬鹿にされながらも、勇者になってこの世界を救うんだと言い続けたヨハン君が、聖剣デュランダルを手にしてとうとうここまでやって来たんです……。本当に……ヨハン君は……グスッ」


 ハイ!!実は幼馴染みでした設定の最強デレデレが一丁入りましたぁぁ!!

 この破壊力には誰にも敵いませんっ!!


 憎呂になり、自分を律する為に俺の事を勇者様呼びしていたけど、最後の戦いを前に自分の気持ちが溢れ、幼い頃に呼んでいた呼び名に戻ってしまうだなんて……健気可愛いすぎる……。

 これに心が揺さぶられない男子なんているの?

 いいや!いないね!

 メリッサは俺の手を掴んだまま涙ぐみ、感極まって言葉にならない様子だ。

 あぁ、もう絶対に言えないよ……


「馬鹿だなぁ、メリッサは」


「……勇者様?」


「泣くのは魔王を倒してからだよ?魔王を倒した後、俺の胸でいくらでも喜びの涙を流すがいいさ。聖剣デュランダルの所有者であるこの勇者ヨハン・プリテンダー様が必ず魔王を倒してみせる!」


 俺はハツラツとそう言った後に、白い歯をキラリと光らせ、渾身の笑顔をメリッサに向けるのであった。


「……ハイ!!」


 俺の言葉に涙ぐんでいたメリッサは、まるで満開の花のような笑顔をパアッと咲かしていた。


 言っちゃった……もう後には引けないなこれ……


「皆さん、車の準備が出来ましたので乗ってください」


 いつの間にやら俺達から離れていたラックが、離れに置いていた『車』という鉄の乗り物に乗ってやってきた。

 車とは、 科学?とかいう技術を使い、電気魔法を動力にして操っている不思議な乗り物だ。

 滞在していた『ミーティアの街』は魔王国領土と山岳を挟んで隣接している街ではあるが、それでも魔王城とはかなりの距離がある。

 しかし、レッサードラゴンで引っ張る馬車よりも断然に速い車を使う事により、2日足らずで一気に魔王城へと到着するという算段だ。

 俺達は早速ラックが用意した車に乗り込み、ミーティアの街を出て魔王城へと向かった。


 あぁ……本当にどうしよう……


読んで頂きありがとうございます。


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