2091年6月 Part5 魔食石
ここ一か月忙しいので週一投稿が続くと思います
父さんの書斎のドアが再び開いたのは10分後だった。鍋島さんはすっきりとした様子で俺を迎い入れた。
中に入ると心身ともにボコされた父さんが床の上で伸び切っていた。ここで何されたんだろうと一瞬気になったが鍋島さんの凄みのある笑顔を見てきっぱり諦めた。
「と、父さん?」
俯け状態でピクリともしない父さんに声を掛けたが動く気配がない。
「ゴホン」
鍋島さんが見るに見かねて咳払いした。
するとなんてことでしょう。
死んだように突っ伏していた父さんが鍋島さんの咳払い一つで社長らしく机の後ろに座っているではありませんか。
「よくぞ来た息子よ」
机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に組みながらきりっとした表情で俺を見るが服も顔もボロボロの状態でそう言われてもなんもカッコよくない。
「それでどうしたの?」
俺はため息をつきながら座った
「んまぁこれを見てくれ」
そう言いながら父さんが俺になんか投げてきた
「これは魔石?」
黒に近い深い紫色のおにぎり大の結晶を手の中で転がしながら訊いた。
「半分正解だ。それは俺がここ最近一睡もせず愛する息子のために開発した食べられる魔石だ」
父さんは胸を張りながらそう答えた。
一睡もせずの部分は嘘かもしれないが常時魔素循環体の俺のために本当に作ってくれたのかもしれない。
「いや、それって泉さんたちが作ったもので社長はなんもしてないですよね」
父さんの後ろに立っていた鍋島さんが眼鏡をクイッと上げながら突っ込んだ。
え?父さん何もしてないの?
冷や汗を掻きながら全力で目を背ける父さん。そしてゴゴゴっという効果音が聞こえそうなオーラを出しながら父さんを見下ろす鍋島さん。
この構図を見れば鍋島さんの言ってることが正しいの明白だ。取り敢えずありがとう泉さん。
「この喰える魔石はどんくらい使えるの?」
「よくぞ聞いた!」
水を得た魚のように急に生き生きとしだした父さん、どうしようもない人である
「これは常時魔素循環体の人しか食べられないほど魔素濃度が高くて一日一回の補給で事足りるんだ!」
「なんで常時魔素循環体の人しか食べられないの?」
「あぁ~繋は魔力酔いを知らないんだな」
「魔力酔い?」
「自分の魔臓の魔素貯蓄量を超す魔素を補給すると二日酔いみたいな状態になるんだ。激しい頭痛と吐き気などなどだ。」
これは初めて聞いた。魔素は無害としか聞いてなかったから意外だ。
「会社の方ではそれを魔食石って言ってる。大きさも重さもどちらとも気にならない、それでいて魔素量は普通の魔石の30倍の濃度もあるんだからねぇ。いや~泉君たちはよくやってくれたよ」
そう言ってガハハハッと笑う父さん。
いや父さん、さっきまで自分が開発したとか言ってなかったか?まぁいいや。
「これは売るの?」
「う~ん正直迷ってる。」
父さんはそう言うと鍋島さんの方をちらっと見た
「この魔食石はコストがかなり掛かるんですよ。これを毎日大量生産するのは不可能なんです。」
鍋島さんは申し訳なさそうに謝った。
「そういう訳で今は繋だけにあげる。まぁテストサブジェクトだと思って受け取ってくれ」
そういうことなら有難く貰おう。んじゃいただきます。
チョコみたいな音と硬さで口の中で砕けて溶ける魔食石。味は巨峰?っぽい
意外とおいしい。
「結構いけると思うよ」
こっちをそわそわしながら見守る父さんにそう告げた
するとパーッと顔を輝かす父さん
「よし、泉たちの給与を倍増する。異論は認めん」
「そう言うだろうと思いまして来月の給与を前もって変えておきました」
そう言ってタブレットを父さんの前に置く鍋島さん
「おぉ~準備が良いな!よしこれに…うん?」
先までノリノリだった父さんがタブレットの画面を見ると固まった。
「なぁ美羽よ」
「どうしましたか社長?」
「なんで俺の給料がカットされるの?」
ギギギっと鍋島さんの方を向く父さん。
「社長の仕事ぶりを精査した結果…っと言いたいんですが本当は泉さんたちの給与増額を捻出するためこうなったんです」
そう言ってニコリと微笑む鍋島さん
いや~えげつないね、鍋島さん俺だったらこの時点で逃げ出す自信がある
父さんもその考えがよぎったのかドアの方をちらっと見たが鍋島さんの鋼の手が父さんの肩をがっちり押さえつけてた。
「異論は認めないんですよね、社長」
そのあと父さんは逃走を試みるもあっさり捕まった。
涙ながらサインをする父さんがめっちゃ哀れだった。
アーメン。