プロローグ part1
始めての投稿 かなり不安
完全な初心者が書いたものなので表現が下手又は間違っている場合、誤字脱字がある場合、改善すべき点がある場合、報告やアドバイスしてくださるとうれしいです。
暴言や誹謗中傷するようなコメントはNGです。
こちらの都合上、週に1から2話投稿となるので悪しからず
2075年 7月
「所長!例のパッケージが届きました。」
アメリカの地球外物質研究センター(Astro-material Research Center)所長室に研究員の一人、ニックが顔をのぞかせながら興奮気味に報告した。
それまでつまらなさそうにパソコンを突っついていた所長のアレクサンドラ女史は70とは思えないような素早さでパソコンを閉じ、ドアの鍵を閉めていた。
待っていたかのような女史の動きをニックはニヤニヤしながら茶化した。
「いや~所長、仕事楽しそうですね」
「そう見えるのか、ならお前にさせようか」
「まっさか~俺そんな年じゃないですし、亀の甲より年の劫って言うでしょ」
女史はニックのおどけた間抜けっ面にイラッときてためらいもなく断罪を下した。
「フン!!」
という短い掛け声とともに放たれた鉄拳は見事にニックの無防備な鳩尾にめり込んだ。
うがぁ~と言いながら地面で悶絶し始めたニックを見下ろしながらアレクサンドラは手を腰につけため息をついた。ニックはこの分野において希望の新星と言われるほどの天才で、研究中は大変優秀だった。しかし、後先を考えない失言が多く同僚や上司に腹パンや拳骨をほぼ毎週食らっていた。天才と馬鹿は紙一重、口は禍の元これらの慣用句をまさに体現したものがニックだった。
「お前もほんとによう懲りないねぇ」
「俺なんか悪いこと言いましたか?」
ニックは目に涙を浮かべ、未だに痛い腹をさすり地面で丸くなっていた。
「ほら立った、立ったNASAの人たちをあんまり待たせたらあかんぞ。」
アレクサンドラは文句を言うニックを無視し、廊下に放置したままNASAの人たちが待っていた部屋に先に向かった。
アレクサンドラが応接室に入ると同時に腰かけていたスーツを着た男が立ちあがった。
「あぁ~座ったままでいいよ。待たせて悪かったねテディー」
テディーと呼ばれた金髪で大柄の男の本名はルーズベルトでNASAの所長だが、友人は皆あだ名で呼んでいる。
「あんまり待たなかったから別にいい」
テディーのハスキーな低音ボイスは相変わらずイケボだ。
ちょうどその時、先程何事もなかったかのように颯爽とニックがトレーにコーヒーポットと空のコップ四つを載せて入ってきた。
「気の利く研究員を雇ったな」
テディーはニックからコーヒーを受け取りながらアレクサンドラに言った。
テディーには見えなかっただろうがアレクサンドラはしっかり彼の後ろでニックが特大などや顔をしているのが見えていた。ニックをまた殴りたくなる衝動が顔に出ないように必死に抑えながらアレクサンドラは作ったような笑顔をニックに向け、この話し合いの後もう一回ニックをシバこうと心に誓った。
「えぇ~彼はとっても“優秀”な研究員よ。」
ニックはなんたって歴戦のシバかれ屋だ、アレクサンドラのこの言葉から後で恐らく殺されると感じこの会談後どのように逃げようか画策し始めた。
「まぁそれはいいととして例の物はもうお前の人達に渡してある。多分今頃ラボに搬入されていると思う。」
「ありがとうテディーこれで研究が捗るよ」
今回NASAがARCに届けてきたのは宇宙空間で採取された暗黒物質が結晶化したもので、結晶化した原因と構造、成分研究を依頼されたのだ。
「うちの方で調べた結果がこれだ」
テディーはメモリースティックをアレクサンドラに投げた。
「かなり不可解な結果だったからクロスチェックしてくれ。そして頑張って原因を探ってくれ」
テディーが嘘をつくような男じゃないことをアレクサンドラは知っていた。だから今回の件はNASAの天才たちが頭を悩ませるほど厄介だと悟った。
「なんか注意すべき点は?」
アレクサンドラはメモリースティックをニックに渡しながらルーズベルトに聞いた。
「あまりないが一つあるとするとこの結晶の近くに長時間いた研究員の一人が健康不良を訴えて今病院で診察を受けてる。原因は分かっていないが長時間の研究はしない方がいいかもしれない。」
「放射能汚染?」
ルーズベルトは頭を横に振った。
「後でデータを見ればわかると思うがこの結晶は放射性物質じゃない。それにその研究員と一緒にいたものは体調不良にならなかったから感染症でもないと思う。」
「なんだって!」
アレクサンドラは驚きのあまり持っていたコーヒーを落とした。宇宙には宇宙線と呼ばれる高エネルギーの放射線が飛び交っており、その宇宙の成分である暗黒物質も高い放射性があると考えられてきた。なのにその結晶はなぜか放射性物質じゃない。NASAの秀才たちが頭を悩ます理由が分かったきた。
「俺も最初聞いたときびっくりしたよ。だからお前のところに持ってきた。期待してるぞ」
テディーはそう言いながらコーヒーを飲み干すと立ち上がった。
「なんかわかったら電話してくれ」
テディーは啞然と立ち尽くしたままのアレクサンドラの肩をポンポンと叩くとさっさと応接室から退出した。
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「なに?ニックが緊急搬送された?」
テディーの来訪から数日が立ち、持ち込まれた結晶の研究が本格的に行われるようになっていた。先程までクリーンルームで結晶の構造解析をしていた研究員の一人がアレクサンドラに急いで報告しにきていた。
「はい。実験室に入る前まで何もなかったのですが、二時間ぐらい経った時急に腹が痛いと言い出して暴れだしたのです。最初はいつもの冗談かなと思っていたのですが途中で本当に気を失ったのでこれはガチだってなって」
「あいつが昼なんか食って腹を下しただけっていう可能性は?」
「彼も私もお昼を抜いて実験室にいましたのでそれはないかと」
「腹パンは?」
「今週はされてません」
ニックに何が起きたのだろうとアレクサンドラが心配していたところ突然外線が入ってきた。報告に来た研究員を部屋から退出させて電話を取った。
「はい ARC所長のアレクサンドラです。」
「アレクサンドラ、俺だ」
オレオレ詐欺臭い返答であったがこの電話番号を知っている人達は限られており、アレクサンドラも声の主を知っていた。そして同時に電話越しでも声が緊急性を帯びていたことに気づいた。受話器を手で覆うと報告に来た研究員に礼を言うと退出させた。
「どうしたテディー?」
「今からワシントンに行くぞ。」
その有無を言わせないような返答に流石にアレクサンドラは目を丸くした。
「何が起きたの?」
「電話上では言えないものだ。」
「なんでワシントン?」
NASAの本部はヒューストンにあり、研究仲間のARCもすぐ近くに立っていた。わざわざワシントンに出向く理由がない。一つを除いて。
「大統領に結晶についてのブリーフィングをお前にしてもらうためだ。」
テディーが見事にアレクサンドラの考えていた最悪の事態を言い当てた。
「もしかして体調不良になる人たちが出てくることと関係してる?」
とアレクサンドラは鎌をかけてみた。彼女の勘は大概当たるのだ。
「あぁそうだが、もしかしてそちらの方でも出たのか?」
「うん、前会ったときコーヒー出した研究員。彼がさっき容態が急激に悪化したみたいで病院に搬送されたって部下から報告を受けたばっかりだよ。」
それを聞いたテディーは疲れたような深いため息をついた。
「なら尚更急がないとな。そっちに車で迎えに行く。二、三日泊まる準備と正装を用意してくれ。」
テディーがこんなに焦るほど深刻な事態なのだろう。アレクサンドラは文句ひとつつかず了解した。