異世界とAK47
お久しぶりです、東郷五十六です。
1年以上も間を空けてしまい、申し訳ありませんでした。
それではどうぞ。
「!」
俺は近づいてくる気配に目を覚ました。
俺はベストのポケットから双眼鏡を取り出し、周りの音に耳をそば立てた。
「けっこう来てるな……」
呟きながら、双眼鏡の先にある集落を見下ろした。二日前までいた集落は、盗賊達がうろうろしているようすが見られるだけだった。今はどこを探しても猫の子一匹も見つけられないことくらい俺は知っている。
逃げているうちにこの場所に隠れてみると、集落が見下ろせ、かつ下からでは見つかりにくいことがわかった。さっそくタコツボを掘り、その中で身を潜めているというわけだ。
今俺の手元の武器は両手で数える程しかない。この世界に来てから生死を共にしてきたAK47と、三〇発入り弾倉が六本。他には、予備武器として選んだP226と一五発入りマガジンが四本。万一のことを考えて用意した手榴弾と、銃剣。これが生き延びるためのすべてだ。
俺はもう少しここにいようと思った。まだ銃の手入れをするくらいの時間はあるだろうから……。
薄闇の中で銃を抱えて、今までのことを思い返した。
俺がこの世界に来たのは、高校二年の秋。ちょうど文化祭の頃だった。目の前が突然光に包まれ、次に気付いたらなんにもなしの原っぱの中。
当然周りは大混乱。教師達はショックで人事不省で呆然としていて、どうすることもできなかった。
連中に保護されたのは、この世界に来て二日目のこと。俺たちは予言の勇者だとかで、あの光はどうやらその勇者をこの世界に召還するためのものだったらしい。
元の世界に戻る方法がそう簡単に転がっているはずもなく、俺達はそのまま王様に謁見し、ろくでもない仲間を付けられて城を出た。
好きな武器を選べと言われて武器屋に行き、商品の中にこいつを見つけた時は、本当に泣いて喜んだものだった。
十年近く前にここに持ち込まれてから、使い方もわからず処分に困っていた。それを俺はタダ同然の値段で百丁近く手に入れることができた(同時に弾もマガジン一〇〇個をいっぱいにしてもまだ余る程の弾も手に入れた)。
手に入れたうちのほとんどが中国で生産されたAK(セレクターの表示が漢字になっている)だったが、俺が手にして使っているのは、純正ロシア製だ。分解して、中国製AKのパーツが使えることを確かめ、二丁を残して全部を部品取りとした。
さっそく城に戻り、ガラクタをかき集めて練兵場に向かった。そして、二〇メートルほど離れて的に向かい合った。
しっかりとストックを肩につけ、コッッキングレバーを引いて薬室に初弾を装填する。セレクターレバーを2つ下のセミ・オートマティックのポジションに動かし、銃口を向ける。その時に、ほんの少し右にずらして狙えば、だいたい当たると本で読んだことがある。その通りに照準し、トリガーを引く。予想より軽く動くことに驚いた。そして、反動が肩を蹴りつけ、空薬莢が宙に舞った。
レバーを安全位置にして、的を見る。甲高い音と共に砕けていた。初めて撃ったにしては、いい方なのだろう。見学に来ていた連中はそれを見て、どよめいていた。フルオートで的を粉砕した時は、その場にいた全員が黙っていた。
俺が初めて銃で命を奪ったのは、この世界に来て四日目のことだった。ギルドの登録を済ませて始めての依頼で、初心者でも十分倒せる程度らしい。それを二〇匹狩ってこいという内容だった。俺はすぐに気配を殺し、地面に伏せた。双眼鏡を覗き込んで、隣にいる奴にささやく。
「あそこ、二、三匹が固まってるぞ……」
俺はAKのセレクターをセミオートに動かし、構えた。フルオートで撃って弾を無駄にしたくないし、あれの毛皮を剥がねばならないことを考えると、変なところに穴を開ければ売り物にならないのだ。
照準の先でひょこっと動く。その瞬間トリガーを引いた。轟音とともに魔獣が血の筋を引いて倒れた。続けてもう一匹も同様に始末する。
慎重に近づいてみると、俺の撃った弾は脳天を直撃していた。やっぱり頭撃ったら死ぬのはみんな一緒か、と奇妙な感慨にとらわれていた。仲間はそれを見て、恐ろしいものを見る目で俺を見ていた。
それからというもの、戦う時には常にこいつがそばにいた。何度か死にかけたこともあったが、運良く逃れることができた。鉈持ったゴブリンの大群の訪問を受けたり、魔物が使ういろんな魔法に追い回されたりしたけど、不思議と俺はたいした怪我を負わずに済んだ。
そして、二日前。依頼の魔獣狩りを済ませて休息してした矢先のこと。突然山賊の訪問を受けた。わざわざ寝静まっている中を襲ってきたので、俺がAKで追い払うと、案外あっさりと逃げてった。
だが翌朝になると、仲間を自称する腰抜けどもはとっくに逃げ出していってしまった。ご丁寧に、俺がこなした依頼の品も持ち去っていったようで、俺の手元にあるのは武器と食糧だけだ。
今こうして敵に囲まれているのは俺一人。敵を足止めしろと命じられた日本軍の兵隊も、こんな気分なのかもしれない。
さて。
隠れていた茂みから這い出て、小高くなったところに伏せる。
マガジン六本分の弾を使い切るとは言わないが、そのくらい撃たないと逃げることはできない。リュックにも弾はあるが、装填している暇は当然ながらにない。手持ちでなんとかするしかないのだ。
幸いなことに、奴らは俺が潜んでいることを知らない。暢気にはしゃいでいる様子など、笑いがこみ上げてくる程だ。それを我慢して、最初に倒す奴を物色する。見つけた。俺はAK47を構え、セレクターをセミ・オートに切り替えた。
一番筋肉質で、緩んだ顔つきをしているオヤジを見つけた。もう俺たちが逃げたとでも思っているのだろう、にやけ面のまま辺りを睥睨している。
「へっ、お高く止まりやがって……」
オヤジの頭に照準し、トリガーに指をかけた。
(そういや、あいつら無事でいるかな……)
トリガーを引く直前に思ったことは、そんなことだった。
解説 AK47
ミハイル・カラシニコフ(1919〜)が設計した旧ソ連製アサルトライフル。世界中で最も多く使われているアサルトライフルで、その総数は密造品を含めて一億を超えるのではないかと言われている。
10歳程の子供でも分解、組立ができる程簡単な構造であるため、コピー品や密造品が多く作られている。そのため、テロリストやゲリラによって多く使用され、内戦の終結を困難にしている一因となっている。
ゲームや小説では敵側の銃として知られ、主人公が敵のAKを奪って使用するシーンも数多く見られる。
参考文献
カラシニコフ銃 AK47の歴史 世界で最も愛された民衆の武器
マイケル・ホッジズ著 戸田裕之訳 川出書房新社
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「異世界浪漫譚」は現在、構想を見直し、執筆中です。
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