ピカソ(奈々)
白の画用紙に絵の具を塗りながら私は悩んでいました。
高校の美術で果物を模写していますが、今日は完成しそうにないようです。
桃とリンゴとみかんの絵に陰影をつけたり重ね塗りをして質感を表現。
・・・ 初めてやったけど、難しい ・・・
気をつけてはいましたがところどころムラがあったり、クラスメイトから影の付け方がおかしいとなじられました。
自分でもこれはないなと思ったけど、他の人も同じくらい下手な人もいるし、気にしないで作業を続けました。
時間は徐々に過ぎていき、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「それでは作業を中断して、書きかけの作品は後ろの棚に感覚を開けて並べてください」
科目担当の先生が声をあげた。
私も筆を止め、片付けを始める。
自分の書きかけの作品を見て、絵の才能がないなとつくづく思う。
・・・ ま、初めてだからこんなものですよね ・・・
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翌日、
教室に入るとなぜかざわざわと騒がしくなってました。
「あ、本人が来た」
入り口にいる私をみつけた人から指を刺されたので何だろうかと少し混乱しました。
話を聞くと、昨日書いた私の絵がこの騒ぎの発端らしいです。
「奈々ちゃんの絵でみんな話してたんだよ」
「あの…下手くそで笑われているとか?」
「あはは、謙遜しなくていいんだよ。上手いって」
・・・ あれ? そうなの ・・・
てっきり笑われているものだと思っていたので予想外の反応に驚きました。
でも、それよりもなんでここまで話題になったのか不思議です。
その噂は次第に広がっていきました。
何か違和感がありましたが気にしないようにして誰かに「頑張れ」と言われるたびに「ありがとう」と返しました。
何が頑張れなのか言われるたびにモヤモヤしました。
そして次の美術の授業の時に私は気づきました。
私の作品の画用紙の棚だけに、見覚えのある誰かの筆跡で書かれた少し大きめな画用紙が手前に貼られてました。
・・・ みんな、これを見て話題にしてたのか。そりゃ目立ちますよ。 ・・・
その画用紙には私の悪友が冗談で「ピカソのコンクールへ応募予定」と書いていたのです。
ピカソの絵に似てるというのは褒め言葉と受け取っていいのかな?
それから人の絵を勝手にマーケティングしないでもらえませんか?
悪友のいたずらで恥をかかされて、顔が火照るのでした。