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ダブルヒロイン!?

「来ちゃダメですっ」


 一体全体どうしてこうなった?通常依頼の薬草摘みの依頼を受け、山の裾に広がる森の中に入っただけなのに。


「……動くな」

「ミルフィを離せ」

「動くなって言っている!」


 木の幹にミルフィが縛り付けられ、それに向けられているものは番えた矢の先。


「お前、こないだの奴か」

「……仲間たちはどこだ」

「既に捕まって、強制労働に駆り出されている」

「っ!?あいつらを返せ」

「そうは言っても罪は罪だ。現に被害も出ている」

「やむをえなかっただけだ、食べ物すらろくにない僕たちにこのまま飢え死にしろってか!笑わせる」

「少なくとも労働中なら食うところも住むところもある。死にはしない」

「信じられるか、転移者の言う事なんて」

「……何故知っている」

「この前の魔法、あれは転移者レベルだった…第一黒髪黒い目とか転移者位しか持たない色だ」


 この世界にも多少なりとも魔法を使えるものは居る。ただ、何故か転移者の方が魔力量が多い。あの受付のおっさんでさえそうだ。


「確かにお前は、俺の仲間を殺さなかった……だけど捕らえた、その恨み晴らす」

「タカツグ様、私は天使です。死んでも天界に戻るだけですから…だから逃げて」

「それでもお前が死ぬのは嫌だ」

「……転移者なのに、お前天使を庇うのか」


 ふ、と殺気が少しだけ和らぐ。


「当たり前だ、パートナーだからな」

「タカツグ、様」


 相変わらず矢はミルフィに向けられたままだが、布の隙間から覗く目には戸惑いが生まれていた。


「ちゃんとギルドで聞いたよ、労働によって奪った金品は返すことになっているが。命までは奪われないと」

「どうせ、天使の言う事だろう」

「何で天使を信じないんだ?」

「……僕は天使に裏切られた」


 え、と今度は俺が戸惑う。


「お前、転移者か?」

「そうだ…こちらに来て間もない頃、天使の企みを知って止めようとしたら殺されかけた」

いや

「死んだ方が良かったのかもしれない」


 ぐい、とそいつが胸元まで巻いていいた顔の布を取ると肌は色黒く、額に角が生えている。なにより。


「女の子?」

「悪いかっ!」


 いや悪くは無いけど。

 少し巻き毛だけど、柔らかそうな髪。大きな目、豊かな胸のラインどれをとっても女性のそれであった。


「転移者と言ったな、何で角が生えているんだ?俺の知ってる転移者は人間の儘だったぞ」

「天使にモンスター化させられそうになったからな」

「……は?」


 聞いてないぞ、そんな話。ミルフィの方を見ると苦し気に眉を寄せて、泣き出しそうな表情をしていた。


「ミルフィ、お前知って……」

「最近、知りました…全部お話しします…この国の天使は、数名を残してほとんどが魔族と化しています……理由は様々、自ら望んだもの…転移者が堕ちた為になってしまったもの様々です。もっと早くにお話しすべきでした。するつもりでした。タカツグ様は選ばれたのです……魔族に堕ちた天使を片付けるために」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……理解が追い付かない、え…いきなり天使が魔族になって、その契約者が魔物って情報量が多すぎて」

「アンタらは、俺の知っている天使と転移者と少し違うみたいだな」


 いつの間にか弓矢を下した少女は短刀を取り出し、ミルフィに向ける。


「止めろっ!?!」


 瞬間的に移動し、その刃先を自分の腕で受ける。

 味わった事の無いような焼き付くような痛み。


「バカかっ、縄を切ろうとしただけだ」

「……それでもミルフィに刃を向けるのは止めてくれ」


 自己満足だとは思っているけど、仕事であっても俺を死の淵から救い上げてくれた恩人だ。傷つくのは見たくない。

 しかし、痛い。流れ出る血にちょっとくらくらするのもある。


「タカツグ様っ!タカツグ様ッしっかり」

「仕方ない、僕の隠れ家に運ぼう…そこなら治療も出来る。幸い僕は賢者だ」

「お願いします、タカツグ様を」

「…あのな別に腕切っただけだし、命にかかわる傷でも」

「タカツグ様死なないでーっ」

「話を聞けーっ!」

「……アンタら面白いコンビだな」


 くすくす笑う賢者と名乗った子は。


「澪…浅海澪だ、賢者をやっていた」

「いたって事は」

「自分の意志で止めた。と言っても実際その活動をしなくなっただけだがな」


 そう名乗り、俺に肩を貸してくれる。華奢な身体だが、平和な世を生きて来たものとは違う何かが感じられた。


「ここだ」


 獣道を通り、たどり着いた先には小さな木造りの小屋が巧妙に木の枝や葉で隠されていた。

 ぎぃ、ときしむ音を立て中へと入る。


「そこ座って、治療する…腕まくれるか?って何脱いでるんだ」

「血で濡れて気持ち悪いし、腕まくり出来る状態じゃないんだよ」


 魔導士の象徴でもある黒マントを脱ぎ、上衣を脱ごうとすると。


「あ、ああ…そうだな」


 何処か狼狽えた様子の澪に。


「ミオ様、タカツグ様の手当てをお願いします」


 ミルフィは気にしていないのだろう、懸命に俺の心配だけをしてくる。

 こいつ、こんなだっけ?最近少し様子が変わったかなとも感じては居たんだが。


「まぁ、いい。腕を見せてみろ…あまり大した傷じゃないな…<治療>」

「お、傷がふさがった」

「簡単な治療魔法だ。表面しか塞いでいないから、あまり無茶はするな」

「ありがとうな、澪」

「……もとはと言えば、僕の落ち度だ。礼を言われる事じゃない」


 ぷい、とそっぽを向く彼女の頬は心なしか赤い。


「なぁ、何で夜盗にそんなに肩入れするんだ」

「………」


 転移者と言えど、本来の世界に失望・失意をし渡った筈。現地の人とかかわりが無い訳じゃないが…相手が相手だ。


「……転移してきた時。僕の天使は僕をモンスター化しようとし何でか途中で失敗した。そして姿をすぐにくらました。何かに呼ばれていると言ってな…事情も何も分からないまま放りだされた…そんな時に拾ってくれたのがあの夜盗…になる前のあいつらだ。角のある僕を拾ってくれた」


 それを聞いて、合点が行った。俺にはミルフィが居て、こいつにはパートナーである天使が居ない。

 それはとても心細い事だろう。俺だったらギルドにすらたどり着けなかったかもしれない。


「しばらくは畑を手伝ったり、あいつらの奥さんの家事手伝いをしたりと、上手く行っていた。賢者の基礎はあったし、治癒師としても重宝されたから……ようやく基盤も整いギルドに相談に向かう途中だ…村が襲われたのは」


 そこまで話すと、テーブルに着いた掌が拳へと変わり叩きつけられダンッと大きな音を立てる。


「帰ってきたら村は焼かれ、あちこちに村人の無残な死体。女子供もだ…夢中で名を呼び探した、生き残っている者はいないかと…そうして数名たまたま森に狩りに出ていた者達と合流した」

「…そうだったのか」

「あいつらだって、あんな目に合わなきゃ平和に暮らしていた。町に行っても何か特技があるわけでもない。ギルドに登録するだけの魔力があるわけでもない…あるのは絶望だけだ、僕はこの姿のままだしな」

「……そんな、ひどい」


 初耳だったのだろう、ミルフィの目に涙が浮かぶ。


「だから、夜盗になった。助けてくれなかった奴らから奪おうと…だけど確かにタカツグ、アンタの言う通り罪は罪だ…その位の分別はある」


 仲間を捕らえられ、また一人になった時に絶望したのだろう。仲間が、味方がいない。その状況がどれだけ辛いか、俺は多少なりとも知っている。


「なぁ、俺と来ないか?」

「タカツグ様!?」

「お前の絶望は俺には分からない。お前の感じ方はお前にしか分からないからな……でも一人の辛さは分かる、勿論お前が嫌じゃなければの話だが」

「タカツグ…いいのか?僕はアンタの命狙ったんだぞ、その天使を捕らえてまで」

「でも、結局怪我を直してくれただろう?ならいいさ、な?ミルフィ」

「……私はタカツグ様がいいとおっしゃるなら、反対する理由は有りません。ミオ様からは悪意を感じませんでしたし、本気で私を殺すおつもりなら反撃する予定でもありました」

「思い出した、お前防御魔法特化型だよな……なんであんなにあっさり捕まったんだ?」

「ミオ様の行動原理が知りたかったのです。転移者でありながら此方の住人の味方をする。だけど、どこか悲し気で……私の中のバグがそうさせたのかもしれません」

「バグ、前にも言ってたなそれ」


 少しだけ笑うと、いずれ分かりますとだけミルフィは言った。


「…なら、いい。なぁ澪、お前はもう一人じゃない…こちらの世界で助けてもらったのは俺も一緒なんだ。だから、気持ちはわかる」

「一人、じゃない」


 澪の頬に一筋の涙が流れた。

 その涙に彼女の今までが込められている気がした。

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