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連れ込み宿

 港町の繁華街にある連れ込み宿。そこの一番大きな部屋に三人で入った。

 カウンターに居た親父が入る時に目を剥いていたが当然だろう。

 上等な執事服のエロエロ超絶イケメンが、露出度限界ギリギリの完璧ボディの女を抱え、その後ろを玄人受け抜群の筋肉美を誇る黒ずくめの強面男が追って来たんだから。

 プレイ内容も気になるだろうし、厄介事の臭いプンプンだ。


 部屋に入ったエロ執事は、私を降ろすことなく巨大なベッドに腰掛け私を膝に乗せた。しっかりホールドはされている。


「鬱陶しい。降ろせ」

「こうしてアンナお嬢様を盾にしていれば、双剣に煩わされずに話し合いが出来そうですから」


 人質かよ。

 ホールドしながら私の腹を撫で回すエロエロな手を引き剥がそうとするが徒労に終わる。

 何者だ、コイツ。


「執事がこんなに強いわけ無い。お前、何者だ」

「執事なのは本当ですよ。アンナお嬢様の父上の同僚というのも本当です」

「アンナの父親は魔王か」

「はあ? 貴方、頭がイカレてるんですか?」

「ザキ、魔王は絵本の中にしかいない。そろそろ大人の常識を身に着けような」


 ザキの頓狂な発言にエロ執事が心底呆れた声を出したので、少しばかり同情して窘めたら、何故か二人から物言いたげな視線を受けた。

 何を言うつもりかと黙っていたら、エロ執事は私ではなくザキに話しかける。


「まさか、知らない、とか?」

「父親が育てていた奴らを本気でハーブだと思ってハーブティーにしてるぜ」

「アレを、ハーブ」


 一瞬、密着しているエロ執事が硬直した。

 高い効能の希少ハーブだから、ハーブなんて普通の呼称じゃ無知扱いされるのかな。

 ハーブの上位呼称って何だろう。考え込んでいたら、復活したらしいエロ執事に顎を掴んで上向かされた。

 蕩かすような熱を孕んだ妖しい桃色の瞳が強引に視線を合わせて来る。


「からかうだけのつもりでしたが、本気になりますね。私と結婚しましょう。アンナお嬢様」


 断ると言いたかったが、口を開くと危険な気がした。コイツ、絶対キスして舌入れて、ついでにヤバいモノ飲ます気だ。

 幼い頃にマズイ薬を嫌がる私に嬉々として口移しで無理矢理飲ませてた父さんと同じ目をしてる。

 首を横に振りたいが顎を掴まれて叶わない。

 色気を湛えた唇が、妙に紅い舌先を覗かせながら近づいて来る。ザキはドアに寄りかかっていたから間に合わないだろう。

 仕方無い。最終手段だ。


 私の物理攻撃など効かないからと自由にされていた右手で、私は腰のポーチからハーブの種を出してエロ執事の服の中に植えた。


「え?」


 何かを感じ取ったらしいエロ執事が私を放り出して立ち上がる。急いで執事服を脱ぎ捨てたが、もう遅い。


「イザベラたん、ご飯だよ」

「なっ?!」


 全裸のエロ執事が、急成長したイザベラたんの花の中に飲み込まれる。

 イザベラたんも、大きめ食虫植物系のハーブ。花の部分で近寄る生き物を捕食するが、その花は成人男性もスッポリの大きさ。

 自ら進んで飲みたい効能ではないのでハーブティーにはしてないが、見た目と正反対に歪んだ内面を持つ父さんが何かに使うらしく、栽培を続けていた。


「アンナ、何をしたんだ?」

「エロ執事の服の中にハーブの種を植えた」

「一瞬で成体が出現て媒介召喚だろが」

「召喚て、鶏の血で魔法陣を書いて呪文唱えるやつか? ほんと、ザキは頭の中が絵本だな」

「ソレ、人間が雑魚悪魔呼び出す儀式な。で、アレ何だ?」

「イザベラたん」

「イザベラ?」


 ふと、ザキが黙って何かを思い出そうとするように考え始める。

 よくある女性名だから、昔の女でも思い出しているんだろうか。

 おや? 食事中だったはずのイザベラたんが消えて、イザベラたんの蜜まみれのエロ執事全裸バージョンが立っている。コイツ、脱いでもエロいなぁ。

 イザベラたんの薬効成分は主に花の蜜にある。


「イザベラって、おいアンナてめぇッ!!」


 あれ? 物凄い形相してるってことは、ザキはイザベラたんの効能を知ってるのかな。

 禍々しい色気を放ちながら、エロ執事が向かうのは、私ではなくザキの方。


「美しい筋肉ですねぇ。犯し甲斐がありそうです」

「寄るんじゃねぇ! 後悔するぞ!」


 イザベラたんの効能は、好みと真逆のタイプに強烈に欲情する。使い道としては、嫌悪されてる相手に飲ませる媚薬が一般的。既成事実が簡単に作れる優れモノ。

 まぁ、こんなモノが世に出回れば、政略結婚による国獲りの諍いがカオスになるから秘匿している。

 イザベラたんの蜜の効果は体液をたっぷり出せば消える。蜜を飲まされたのが女性なら、効果を抜くのは大変だが、男性ならとりあえず発射すれば治まる。

 ザキ、お前の犠牲は無駄にしない。手を合わせておくか。


「拝んでんじゃねぇ! アンナ覚えとけよッ!」

「その下穿き、いつまで死守出来ますかねぇ」

「ごゆっくり〜」


 私は部屋を出て階段を降り、連れ込み宿の一角にあるカウンターだけの酒場で強めの酒を注文した。

 うちの秘蔵のハーブに捕食されて無傷で生還したエロ執事は、どう考えても普通じゃない。

 それに、ザキは遅れを取りながらもエロ執事と互角に遣り合っているのに、私は片手で抵抗を封じられる。

 私とザキは、腕力と体力が僅かに私が劣るが、戦闘力は大差無いはず。

 しかも、私を押さえ込む時のエロ執事は本気は出していない。

 ただ強いだけの相手と対峙した時の感覚とは違う危機感を、エロ執事と視線を合わせると感じる。

 まるで、捕食者に狙われた餌になったような。


 執事なのと、父さんの元同僚なのは本当だと言った。

 なら、エロ執事は父さんの過去を知ってるのか。

 去年出て行く時の父さんは、私が生まれた時から変わらない20代に見える外見だった。美人は老けないんだなぁと呑気に考えていたが、平凡顔の母さんも私が生まれた時から老けてなかった。

 エロ執事も20代の外見だ。さっき全裸になってたから、父さんと同じでシミもホクロも傷も無いしムダ毛も無いのが分かる。

 耐性無しで見つめれば目が潰れそうな美形という共通点はあるが、父さんとエロ執事の顔の造りが似てるわけではない。

 けれど、あのエロ執事は、何か父さんと同類な気がする。


 両親の手掛かりを探すために、エロ執事の職場を目指すか。

 貧民街を出たことの無い私の名前を知っていたし、父さんの関係者を名乗って違和感を全く感じない。

 いつまでもこの港町で足踏みしててもしょうがない。


「ザキ、抵抗してもいいけど案内役を殺すなよ」


 喉が灼ける褐色の液体を呷って、私は階段を再び昇った。

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― 新着の感想 ―
[一言] ザキさんナムナム(‐人‐) 執事さんはまあきっとアレなんだろうなー、アンナパパもアレだからイザベラたんがいるのかなーとか考えているのも楽しいけど、続き待ってます☆
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