怒られた
二人は少年達の後ろに続いて森の中を歩いていた。
「僕の名前はダイ。こっちは弟のネル。」
「兄さんが悪いんだよ?ダメっていわれてた森に入ろうって言い出すから……」
「ごめん、巻き込んで。だって俺だってもう大きいんだし大丈夫だって思ったんだもん…」
兄のダイが禁止されている森に勝手に入ったので、慌ててネルもそれについて行った。そこで、猛獣に遭遇してしまい、逃げていると偶然その場にいたアリア達を見つけ声をかけたらしい。
二人の話を聞く限りだと、兄のダイは割と考え無しに行動をするようだ。誰かに似てると思ったのか、ルークはアリアを見てクスッと笑ってしまった。
しばらく歩いて行くと、森を開拓したであろう小さな集落が見えてきた。
ロッジを連想させる家が円形に並んでおり、各々の家族が住んでいるようだ。中央には祭壇だろうか。木で組み上げた塔が建っており、木には丁寧な木彫り細工が施されている。
「「ここが僕達の集落だよ」」
集落に到着すると、兄のダイが小走りで先に一つの民家に向かい始めた。
「じゃあ、僕は家族を説得してくるね!」
「兄さん……僕も行くよ?」
「いや、僕が危険な所にネルを巻き込んだんだ。僕が行くよ」
ダイはそう言うと、三人を置いてどこか緊張した面持ちで家に入って行く。ネルはハラハラした様子でそれを見送った。無理もない。禁止区域に勝手に入って、人にお世話にもなってしまったのだから。怒られるのは目に見えている。
ーーそしてダイが家の中に入ってしばらく時間が経った。
「「こんの馬鹿野郎!!!!!」」
突然、中から男の人の怒声が聞こえてきた。
あまりの声量に待っていた三人はビクッと驚いてしまう。
直後、激しくドアが開き、父親と思われる男の人と、思いっきり首根っこを掴まれて号泣しているダイの姿が出てきた。案の定怒られたらしい。ダイは泣きじゃくっている。
「バカ息子が迷惑をかけたみたいで、すみません!」
そう言うと、父親は深々と頭を下げた。ダイも一緒に頭を下げさせられている。
アリアは慌てて頭を上げるよう促した。
「あ、頭を上げてください! たまたま、その場にいただけですし……それに困っているのを助けるのは当然です」
父親は申し訳なさそうな表情をしながら頭を上げた。
「優しい方々に偶然出会えたようで……本当に運の良い奴らです。息子達がお世話になりました。事情は聴いています、お礼に今夜泊まっていってください。」
そう言うとアリア達を中に招き入れた。
ーーしかし、中に入ろうとした時だった、背後から低い声が聞こえた。
「それはいかん」
声の主の方に振り向くと、一人の老人がこちらを見ている。父親はすかさずお辞儀をした。
「長老……こんにちは」
長老と呼ばれるその老人は大声を聞きつけたのか、険悪な顔をしながら近づいてきた。
「よそ者を村の中に入れてはいかん。災いを呼ぶと言い聞かせておるだろう」
父親は耐え忍ぶような顔をした。どうやらこの老人は村の権力者らしい。そしてアリアのような外から来た者を良く思っていないようだ。
そこに、ダイが反論する。
「じいさん、そんなことばっか言ってるからこの村は貧乏なんだよ! 商人があんまり通らないから僕たちの作品も売れないし……そんな考えは古いんだよ!」
「よしなさい!」
父親が慌てて止める。
しかし、長老はダイの意見を気にも留めていないようだ。所詮子供の戯言だとでも思っているのだろう。
「よそ者はさっさと外に出るがよい。」
長老はアリア達を睨むように一瞥すると、去って行った。
「くっそ……別にいいじゃんかよ!」
長老の様子がよほど気に食わなかったのか、ダイは悔しそうに地団駄を踏む。すると森に向かって勢いよく走り始めた。
「待って!」
止める手をダイは振りほどき、森に入って行く。アリアとネルも思わずダイを追いかけて森へ。
「ちょっとどこに行くのですか!」
ルークだけが集落に取り残されていった。
ーー森ではダイが木の下に蹲って泣いていた。その横にアリアとネルも座る。ダイはしばらく泣いたあと、見守るアリアに気持ちを打ち明け初めてくれた。
「あのじいさんの考えは古いんだよ。新しい人をもっと村に呼ばないと。……うちの村は木彫り細工の職人が多いんだ。昔はわざわざ村まで買い付けに来る専門の商人がいたんだけど、今はほとんど来なくなってしまって。だから新しい商人を呼び込む必要があるんだ。それで僕……新しい道を作れば、たくさんの商人に村の木彫り細工を売ることができると思って……だから危険だけど今回も道になりそうな場所を探すためあの森に行ったんだ……」
「兄さん……」
「でも、伝統だとか言って村によそ者を入れないせいで、新しい人が村に来なくて……これじゃ道を作っても商人に立ち寄ってもらえないよ……」
幼いのにしっかりとした考えを持っており、アリアは凄く驚いた。アリアは思わず二人の少年を抱きしめる。
「小さいのにそんなことまで考えてるなんて、偉いね。大丈夫、いつかきっと報われる日が来るから」
アリアは少年達を元気づけるように呟いた。少年達はにっこりとほほ笑むと「うん」と頷く。ダイの涙はもう止まったようだ。
「……お姉ちゃん、馬鹿っぽいと思ってたけど優しいんだね」
「……なんだろう、褒められたのに褒められた感じがしないなーー」
ーーしばらくして、心配したルークが現れた。
「探しましたよ、あちらであなた方のお父様も心配しておいでです。一旦戻りましょう。」
よく居場所が分かったなと感心しつつも、アリアは頷いて、二人の少年を連れて村へ戻っていった。
次回、村に異変が?! お楽しみに!