助けて!
ルークの言う、水の音が聞こえる方向に歩いて行くと、大きな川が見えた。大きな音を立てて水が流れている。おそらく上空から見えていた立派な川であろう。
「わぁ~! 大きな川!」
そう言うと、川を見るなりアリアは無邪気に河原に走っていった。
さっきまで落ち込んでいたアリアだが、少し元気が出たようだ。太陽の光が燦々と降り注ぎ、水面に反射してアリアを元気付けるようにキラキラと光を放っている。
ある程度川に近づくと、振り向いてルークを呼んだ。
「ルーク! すごく大きな川ですよ! きれー!」
しかしルークはゆっくりと追いつきつつ、こちらを見てほほ笑んでいた。
ルークにはキラキラと輝く川を背景に、さらにキラキラと輝くアリアの笑顔が見えているようだ。
「はい、美しいです」
“貴方も”と言わんばかりの表情で返事をするルーク。
少しきつく言ってしまったと罪悪感に駆られているようだったが、元気を取り戻したアリアを見て、救われたような気になったらしい。
「さぁ、水を汲みましょうか」
ーーしかし、二人が河原で水を汲もうとしたその時だった。ルークは何かを察したかのようにアリアを抱き寄せた。
ーー何かが近づいて来る。
「「うわああああ!!!」」
警戒をする矢先、二人の少年が茂みから飛び出してきた。
「こ、子供……?」
子供と分かりルークがアリアを手放すと、少年達の内一人がアリア達に向かって泣きながら訴えてきた。
「お姉ちゃん助けて!」
「助けてって何、どうしたの!」
急なことで焦るアリアだが、聞いている暇はなかった。
直後、少年達が出てきた茂みの方向から大きな熊を連想するような猛獣が現れからだ。
「ひぃぃ!」
少年達はルークとアリアの後ろに咄嗟に隠れてしまった。アリアも突然の猛獣に驚いてよろける。
猛獣の様子を窺いつつ、アリアは少年達に問う。
「あなたたち、いったい何をしたの?」
泣きながら少年は答えた。
「ごめんなさい、僕が悪いんだ。大人たちに行くなって言われていた場所なのに、勝手に入ってしまったんだ。そしたらこんな猛獣がいて……」
要は、禁止区域に入った子供たちが猛獣に見つかり、命からがら一生懸命ここまで逃げてきたらしい。
すると、猛獣はアリア達を見つけたらしく、ゆっくりと方向を定めながら近づいて来る。
ーーいやな予感がするアリア。
「ちょぉっと待って、こっち来るんじゃ……」
距離が徐々に縮まり、覚悟を決めるアリア。
「わ、分かったわ。お姉さんが何とかしてみる」
しかし、戦う準備をするアリアに対し、ルーク一が信じられない一言を言った。
「いや、話を聞く限り禁止されていた区域に勝手に入った者が悪いのです、自業自得でしょう。私たちが助ける必要性はありません。関われば私達にも危険が及ぶリスクがあるので逃げましょう。」
その言葉を聞き、アリアは絶句した。
(この状態で?! ひどい、そんなの見殺しにするのと同じじゃない。)
ルークの顔をキッと睨むと、アリアは言った。
「私は助けたい」
しかしルークも厳しい表情で答えた。
「先ほども考えなしに行動した結果、大変な目に会いましたよね? あれをお忘れですか?」
(確かに……でも……)
アリアは引かなかった。なぜなら魔法少女の正義感が働く。
「この子たちはちゃんと反省しているわ。危ないことはしないと学んだんだもの。もう一度チャンスを与えてあげましょう!」
そういうとアリアは止めるルークを振り払い猛獣に向かって走り出した。
「ジュエル・プリティ・チェーンジ!」
ーー光がアリアを包み、一瞬にして魔法少女に変身した。
今までの余計なポーズは省略できたのかとツッコミを入れたくなるが、真面目なシーンのため割愛させていただく。
「ピンク ウォーター!」
アリアがそう叫びステッキを振り下ろすと、川から水が勢いよく飛び出し、猛獣に襲い掛かった。すると猛獣は水に驚いたのか、あっさりと山に引き返していった。
「やったー! おねえちゃんが猛獣を追い払ってくれた!」
少年達の嬉しそうな声に、アリアも飛び跳ねて喜んだ。
「おねえちゃんやったよー!」
ーーパチパチパチ。と、そこにルークの拍手が聞こえた。
「お見事です。余計なことを申してしまい、失礼しました。」
アリアは駆け寄ると伏し目がちに言った。
「私だって学んだもの。大丈夫だと思ったから戦ったのよ。もう少し信頼してくれてもいいのに」
「ですが、ハラハラしました。それに、お忘れですか? 猛獣からの危機は終わりましたが、私たちの危機はまだ終わってませんよ」
少し呆れも入った口調でルークは話す。
「少し言い過ぎたと思い、触れないようにしていましたが、アリアの魔法で飛ばされた後、現在地も分からないため、今後の旅の計画も一から考え直しです。おまけに今日の宿もございません。」
「そ、それは……」
徐々にルークとアリアの間の空気が張り詰めだす。このままでは旅の開始早々に仲間割れが起こってしまう。
しかし、少年達がその空気と事情を察したのか思わず声をかけてくれた。
「あの……もしかしてお姉ちゃん達、迷子? 僕、お礼に森の案内するよ!」
「宿がないなら僕たちの家に来る?」
なんと気の利く子達だろう。先ほど悪戯に禁止区域に入り込んだ子達だとは思えない。
少年達のありがたい言葉にアリアとルークは同時に少年に振り向いた。
「いいの?」
「いいんですか?」
少年達は勿論と言わんばかりに頷く。
「助けてくれたんだもん!」
喧嘩が勃発しそうな二人の空気は、少年達のおかげで一瞬にして解消。アリアとルークはお言葉に甘えることに決まり、この場は丸く収まったのだった。
次回、お父さん怖い お楽しみに!