魔法使いとの旅
その夜は街の至る所で暗闇が去った祝いに宴が開かれた。楽しそうに酒を酌み交わす人々や、演奏や踊りをする人で街は溢れる。
アリアはその様子を穏やかに眺めていた。平和を取り戻し、笑顔になる人々の顔を見て、改めて自分の行動に誇りを感じているようだ。だが同時にまだ平和を迎えることができていない元の世界のことが気にかかっている様子でもある。
ルークはそんな浮かない顔をしたアリアを見つけると、にこやかな笑顔で近寄ってきた。そして、軽くお辞儀をしながら、ルークはそっと手を差し出すとアリアを誘った。
「お嬢様、一曲私と踊って下さいませんか?」
唐突な誘いに戸惑いながら、アリアはルークを見上げる。
「あのぉ、私踊ったことないんですけど」
「大丈夫、私がリードします。それにここは街です。皆好き勝手にリズムに乗っているだけです」
少しためらったが、確かに周りの楽しそうな雰囲気をちょっぴり羨ましくも思っていたアリア。
「そ、それなら……」
アリアはおずおずと手を添えてみた。するとルークはグイッとアリアを引き寄せ、華麗に踊り始める。最初は緊張でぎこちなかったが、ルークのエスコートはまるで魔法のようで、身を任せているだけなのに踊れている気になった。
しばらく踊ると、周りの明るい雰囲気もあり、アリアの顔は自然と笑顔に。
ーールークはアリアの腰を引き寄せ、上からアリアの顔を覗き込んだ。
「笑顔が戻りましたね。楽しそうに笑っているあなたの方が好きですよ」
ルークの紳士的な発言にアリアはドキリとした。そして思わず赤面して、顔を伏せてしまった。
(美青年すぎて心臓に悪いっ)
「あ、流石にこれだけ踊れば疲れますよね。そろそろ休憩しましょうか」
顔を伏せてしまったアリアを見て、ルークは疲れたと認識したらしい。
そのまま人気の少ないベンチに二人は移動。
風が心地よく、しばらく休憩をしていると、ルークは姿勢を正し始めた。そして、何かソワソワとした後、先ほどまでとは違う真剣な表情でこちらに振り向き……口を開いた。
「宜しければ、一緒に旅をしませんか?」
「……え?」
突然のことに思わずアリアはポカンと口が空いてしまった。
だが、そんなアリアの反応は想定内だと言わんばかりにルークは打ち明け始める。
「実は、私はこの世界でも珍しい魔法使いなのです。魔法使いと言ってもアリアさんほどの力はありませんが……」
「え、ルークが魔法使い?」
驚いたのか、目を見開くアリア。ルークは頷くと話を続けた。
「私は旅商人を生業としているとお伝えしましたが、旅をしているのにはもう一つ理由があります。それは、私は魔法使いとして王城に向かう必要があるからです。……ある日、私は魔法石を通じて王家に危機が迫っていることを知りました。王城へ向かい、一刻も早く王家に危機を伝える使命があるようです。偶然にも、この栄えた街で資金を稼いでいたところ、貴方に出会いました。色々と考えを巡らせましたが、この出会いは神の思し召しかもしれないと思えてならなくて……」
すると、ルークの手にグッと力が入る。
「私たちは共にいるべきではないでしょうか。貴方についても王家ならなにかご存知かもしれません。なにより、貴方がその危機について助ける鍵になるかもしれません」
ルークはアリアの目をもう一度真っ直ぐに見つめ直した。
「一緒に王城まで旅をして下さいませんか?」
ーーアリアは考えた。
信用すべきかどうか? でも、ルークが嘘をついているように思えない。
まず、魔法についてはルークが魔法使いであれば、アリアが魔法少女であることをすんなりと受け入れたのも頷ける。本当に魔法使いなのだろう。そして王家への旅だが、行くあてもない現状を考えると、一緒に旅をするのが最適かもしれないとアリアは思えた。
ーーアリアは決意した。
「はい、私で良ければ一緒に旅をしましょう!」
すると返事を聞いたルークは非常に嬉しそうに感謝を述べる。
「ありがとうございます!」
感動しているのか、ルークの目はやや潤んでいるようだ。
「では改めてよろしくお願いします。アリアさん!」
そう言うとルークはアリアの両手をギュッと力強く握った。ルークの勢いに押されつつも、アリアはクスッと笑う。
「こちらこそよろしくお願いします! あと……”さん”はいらないですよ!」
これからは仲間になるのだ。堅苦しい呼び方はしたくないので、気軽にアリアと呼ぶようにお願いをしてみる。急な呼び方の提案にルークは少し戸惑いを見せたが、そこは素直に従ってくれた。
「では……アリア」
少し照れ臭そうに名を呼んだルークに対し、名前を呼んでもらえ、思わずニッコリと笑みを浮かべるアリア。
ーーふと、昨日もらった宝石を思い出した。
「そういえば、昨日もらった宝石、お守りになるって言ってましたけど、これも魔法入りなんですか?」
「あぁ、あのお渡しした宝石ですね。あれはブルーサファイアといいます。大きな力はありませんが、きっと見守ってくれると思います。肌身離さず持っておいてください」
「では、ちゃんと持っておきますね!」
「是非そうして下さい」
ルークはせっかくだからと、宝石をネックレスに変え、首にかけてくれた。
ーーそして翌朝、二人は青空の下街の人々の見送る中、街から旅立って行った。
次回、やらかしたアリア お楽しみに!
(やっと物語が始まりました!)