全てはここから
本編はじまります!
(今話のみ、長めの内容になっています。)
目を覚ますとアリアは広い草原に横たわっていた。心地よい風が吹いている。
重い体を起こして、アリアは周辺を見渡した。しかし人影はなく、誰もいない。先ほどまで一緒にいた仲間の戦士も周りにいないようだ。
ー——先ほどの光で、いきなり見知らぬ土地に飛ばされてしまったらしい。
(やっと最終決戦だったのに! ひどい、私の見せ場がなくなったじゃない!)
いや、本当はそんなことを考えている場合ではないのだが、第一に出た感情が怒りだったようだ。
状況をいまいち把握していないアリア、しばらく腹を立てるとほとぼりが冷めたのか、周りを見渡してふと我に帰った。やっと一人でよく分からない土地に飛ばされたのを自覚したらしい。
「ここどこなのーーーーーーーーーー!」
一人ぼっちの状況に急に焦りを感じたのか、アリアは思わず半泣きで叫んでしまう。しかし、叫び声もむなしくどこからも反応はない。この状況にさらに焦りを感じたアリア。
(リーダーの私がいないと魔法少女が大変じゃない!急いで戻らないと!)
——嘘である。
魔法少女にリーダーというものは存在しておらず、その上アリアはリーダーのようなポジションというより、ただのぶりっ子キャラである。別に大変ではない。
(可愛いピンクがいないと魔法少女的にダメじゃない!皆のためにも、ひとまずここを移動して合流しないと!)
——別にダメではない。いろいろ突っ込む部分が多そうなので割愛させていただく。
そしてアリアなりに考えをまとめた結果、まずは魔法少女仲間と合流するのが先決すべき課題であると判断。アリアは自分がどのような状況におかれているのか探ることにした。
ひとまず街や人を探すべく、周囲を見て回ることに。
ー——どれくらい歩いただろうか。歩いても歩いても、何も見当たらない。
「うぇぇぇ、みんなどこぉ」
無駄に広い草原を前に心が折れそうになり、泣きそう、いやほぼ泣いている状態でアリアは歩き回った。
さらにしばらく歩くと、やっと少し視界が開けてきたらしい。何か建物らしき姿が見え始めた。思わずアリアは、建物が見える場所に駆け寄る。
広い草原が広がっていると思っていたが、高台だったらしい。崖のようになっている所があり、崖の下には街が広がっていた。
崖下の街は遠めに見ても建物が多く存在し、ある程度繁栄していそうな雰囲気であった。人の往来も多そうで、何か知っている人がいるかもしれない。幸いにも、眼下の街に向かう坂道を崖の横に発見した。
希望が出てきたアリアは涙をぬぐうと、坂道を下り、街に向かうことに。
崖下に降り立つと、早々に人々の話し声や音楽が聞こえてきた。声に惹き込まれるようにアリアは街を歩き始める。街はレンガ調の建物で統一されており、中央に大きな通りがあるようだ。通りでは店が並び、商売にいそしむ人々や、芸を行う人などがいて、街の賑わいが感じられた。
街をさらに探索がてら歩いていると、アリアは旅商人の集まる市場にたどり着いたらしい。アリアの世界には見たこともないような物が沢山売られている。アリアはまるで祭りの露店に来たようなワクワクとした気持ちになってきた。
——店に気を取られながら歩いていると、アリアは一軒のテント状の店に目が留まった。
暗めの青いカーテンがかかっており、市場の華やかさとは一風違った雰囲気を醸し出していた。近づくと、広げられた布の上に色取り取りの石が置いてあり、宝石店だと窺える。
——そこに、声がした。
「お気に召されましたか?」
あまりに真剣に見ているので店主が声を掛けたようだ。
「は、はい!あまりに奇麗だったので見とれてしまいましたっ!」
慌てて返事をして、店主の顔を見た。
と、同時に店主の姿を見て息をのんだ。
美しい青年が座っていたからだ。
端正な顔立ちと、顔立ちの良さ故に映える銀色の長く整えられた髪。切れ長の目には深い青の瞳が宿っていた。眉目秀麗とはこのことである。
「褒めていただきありがとうございます。国内外の様々な地域から集めた宝石です。それぞれの石に力が宿っており、お守りとしても使っていただけます」
柔らかい笑みを浮かべながら店主である青年は宝石の紹介を始めた。サファイアなど聞いたことのある宝石や、珍しい鉱物まであるようで、青年は丁寧に一つ一つ教えている。
アリアには少し難しい内容ではあったが、優しく教えてくれる青年の言葉や表情が何故か心地よく思え、しばらく聞き入ってしまった。
石の紹介が一段落したところで、アリアは青年に話題を振ってみた。
「様々な国から集めたってことは、お兄さんはいろんなところを旅しているんですか?」
「そうです、様々な国を行き来し、旅商人を生業としています」
「じゃあ私と同じですね!私も自分探し?……の旅をしているようなものなので!」
旅と聞いて思わず返事したものの、初対面の相手に自分のことを話してしまい、少し焦った。そのせいか、少しアワアワとした動きをしてしまう。だが挙動不審なアリアに対して、青年は優しかった。
「何故疑問形に……面白い方ですね」
クスッと笑ってくれた。
そこに、青年は何かを思いついたように鞄の中を漁りだす。
「何かの縁です。小さい物ですが……こちらの宝石を差し上げましょう。旅のお守りとして持って行ってください」
「わわ!売り物じゃないんですか?いいんですか?」
「大丈夫です。少し傷がついてしまったので売り物にはできないのですが、お守りとしてはまだ使えそうな物だったので」
初対面の相手である自分への優しさに驚きながらも手を伸ばすアリア。
「綺麗……ありがとうございます!」
お礼を言い、小さく深い青色……”青年の瞳”と同じ色の宝石を受け取った。
それは一見素人の目には傷物と判別できない程、美しい光を放っていた。
『——思えばここが全ての始まりだったのかもしれないが。——』
その後、青年に別れを言いアリアはその場を意気揚々と立ち去った。
(優しい人だったなぁ。一人ぼっちで寂しかったけど、ちょっとだけ元気でた!……ん?一人ぼっち……?)
嬉しそうなアリアだったが、しばらく歩いた後何かを忘れていることに気が付いた。
「あ~~~!どういう状況なのか、調べるの忘れてた~~~!」
◇◇◇◇◇◇
夕暮れ、一人の少女は途方に暮れていた。
突然飛ばされたこの場所がどこで、自分がどのような状況に置かれているのか調べるはずが、一向に解決していない。ましてや今日の宿さえ無い状態である。
いや、街の住人に話を聞きはしてみたのではあるが、まず”魔法少女なんです”なんて言おうものならそもそも話を聞いてもらえなかったり、相手から怪訝な顔をされたり。ついには頭が悪いのじゃないかと心配される始末である。
意気消沈し、街の中心であろう広場の噴水付近でアリアがしゃがみこんでいると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「かわいらしい女の子が、一人でこのような所にしゃがみ込んでいては物騒ですよ」
声のする方を見上げると、昼間市場で出会った青年がこちらを見ていた。
「とても困ってらっしゃるように見えますが、何かあったのですか?」
「あ、あなたは昼間の……」
少し心配をしたような表情の青年を見て、こんなところでしゃがみ込んでいる自分を恥ずかしく思った。泣きそうになってしまい、つい顔を伏せてしまう。
「少し大変なことになってしまって……」
すると青年は一緒にしゃがみ目線の位置を合わせてくれた。
「そうなのですか……事情は分かりませんがお辛そうですね」
青年は同情してくれているようだ。ますます恥ずかしくなるアリア。しかし、青年はそんなアリアを見て昼間市場で出会った時のような、二コリとした表情でアリアに優しく告げた。
「一人で悩んでいては大変でしょう。とりあえずお話だけでもお聞きしますよ。そして私でよろしければ力になりましょうか?」
アリアは思わず驚いて青年の顔を見上げ、凝視してしまった。
(話を聞いてくれるの?)
アリアの様子を不思議そうに見る青年。首をかしげる姿が一々美しいが、その表情を見てこの人なら話してもよいかもしれないとその時のアリアは何故か思えた。顔が美しい上に心も美しいのだなぁなんて感動して。
だが同時に、今までのように信用してもらえずに愛想をつかされるのではないかと不安にもなる。しかし、せっかく掴んだチャンス、逃すわけにはいかない。ゆっくりと、青年に話しをしてみた。
「実は、気づいたらここにいて……宿もなくて……」
今までの街の住民の傾向から魔法少女のことはさすがに信じてもらえそうにないと思い、あえて伏せて話した。
青年は相槌を打つものの、話を否定することなく真剣に聞いてくれている。それだけでも今まで聞いてくれる人がいなかったアリアにとってはありがたく感じられたのだった。
「なるほど、にわかに信じがたい話ではありますが、あなたの話し方を聞いていると嘘だとは思えませんね」
「え、信じてもらえるんですか?」
「信じるポイントがあるとするのならば、まずあなたの服装ですね。この国ではあまり見かけない物と思われます。少なくとも私は初めてです」
アリアは白地のブラウスにピンク色のバーカーを羽織り、プリーツスカートを履いている。そしてミルクティーカラーの髪はハーフツインテールで、ピンクのリボンがポイントについている。アリアの服装は現代では普通?な服装であり、確かに街の人々には珍しい。
「そのような服をお召になっているということが、別のから文化圏から来られたことを証明しているかと思われます。別の国か、はたまた異世界か……」
異世界と聞いてアリアは納得がいってしまった。なぜなら自分の知る世界ではなさそうだと薄々感じ始めていたからだ。
青年曰く、ここはコランダ王国のノースバレという街で、国の中でも発展した街らしい。アリアのいた世界ではそんな名前の国は存在しておらず、文化も違いそうである。言語が通じていることだけがなぜが奇跡といっていい。青年も異世界の可能性は捨てきれないと言う。
さらに事情を察した青年は今夜の宿も紹介してくれると言い出した。
思いがけない言葉に、アリアは思わず目を輝かせる。窮地にいるアリアにとって、それはとてもありがたい提案だった。あまりの優しさにさすがに遠慮しようかとも思ったが、他に頼るあてもないためお言葉に甘えることに。
どうしてそこまでしてくれるのか問うと、困っているあなたを助けたいと女神のような笑顔で応えてくれた。
「神ですか!」
神々しい姿にアリアは思わず拝んでしまった。
「神様なんて、滅相もございません。私はルーカスといいます。今後は気安くルークとお呼びください」
「名前、ルークって言うんですね!よろしくお願いします!」
救世主のような人物に出会い、アリアは救われたと心から思った。そして、二人はにこやかに雑談をしつつ宿屋に向かっていった。
ーー嬉しそうに宿屋に向かうアリアを、物陰から悔しそうに見つめている人影にも気づかずにーー
次回、もう一人の青年の登場 お楽しみに!