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宝石と水

 ーー港に着くと、なにやら慌ただしい。


 大型の船が並んでいるが、港に到着して直ぐのアリア達でも異変に気付く程度には相当な騒ぎになっている。遠目から目を凝らして見ると、船から陸へ荷物を運び込む過程で、見えない壁のようなものが海岸線に出来ているのか、荷物が陸上に運び込めずにいるらしい。荷物を担いだ船員が無理矢理その場を通過しようにも壁が固く、ただ壁にぶつかったような形になっていた。


 騒然とする中、ローズの部下であろう一人の男性が、こちらへ走ってきた。ローズは問いかける。


「一体何が起こったの!?」

「よかったローズ、船の荷物が運び込めないんだ。僕らの宝石もご覧の通り、陸地に上げることができないんだ。」


 男性の指さす方向を見ると、緑の旗を掲げた立派な船が目に入った。あれがローズ達の船のようだ。船員が荷物を担いで階段を下るが、陸に足をつけようとした瞬間、透明な壁に邪魔され先へ進めないでいる。食べ物など種類は関係なく、すべての上陸する荷物は通さないらしい。


「状況は? 一体どうしてこんなことが起こり得るの?」


 困惑したローズが船員にさらに問いかけるが、船員は俯いて首を横に振るだけだ。何が起こったか詳細は誰にも分からないらしい。


 とにかく冷静になろうとするローズ。このままでは荷物を下ろせず商売が出来なくなる。それどころか未知の現象によりその他どんな影響があるか予想できない。とりあえず今近くにいる部外者のルークとアリアには一度店に避難してもらうことにローズは決めた。


「このままでは、ルークの購入した宝石も降ろせなくなるかも……それに何が起こるか分からないわ。一旦ルークを連れて店に戻りましょう」


 ローズがアリアに言い聞かせた直後、船の方から不気味な声が聞こえた。



「「あ~、アリアちゃんだ~~~~」」



 声の方に振り向くと、船の先端にニヤニヤと不気味に笑うジリーがちょこんと座っていた。おまけにアリアの目線に気付くとヒラヒラと手を振ってみせている。

 アリアは咄嗟に警戒し、ローズを自分の後ろに庇った。


「ジリー、もしかしてまたあなたのせいなの?!」


 ジリーはいつも通り不気味に笑掛けると、マイペースに話を進める。


「また僕に会えてよかったね〜! どう、僕のことそろそろ気に入った? あ、元々両思いか〜」


いつも通りの軽いノリだ。適当なことを言い出すジリーにアリアはやはり怒り出す。


「ふざけないでよ!」


そんないつも通りのアリアの様子に満足した様子のジリー。おもむろにパチンと指を鳴らすと、船の先に赤い宝石を出現させた。今まで街や森で見たのと同じ物だ。


「ひどいなあ、今回は壁を作るくらいしかしてないのに~。仕方ないなぁ、ちょっと意地悪するか~」


 そう言うと、ジリーは呆れたような表情をしつつも楽しそうに指をまたパチンと鳴らした。今度は、赤黒い塊が出現。そして宝石のかかっている船以外の船舶がこの赤黒い闇で覆われ始めた。この赤黒い闇のことをアリアは知っている。これまで様々な物を消滅させかけた厄介な物だ。


「ジリー、あなた、また全て消すつもり?」


 ジリーはつまんないと言わんばかりの表情をしている。


「アリアちゃんがつれないせいだよ」


(なんなの?! 関係無い人を巻き込まないでほしい)


 そんな意見がジリーに届く訳が無いのを知っている以上、やることは一つである。

 ーー戦うしかない。

 アリアは変身することに決めた。だた、後ろにいるローズがさっきから必死にアリアを避難させようとしてくれている。


「アリア、さっきから何を喋ってるの?! 逃げないと! 危ないわ!」


 とりあえず今はローズだけで逃げてもらわなければならない。


「大丈夫、皆んなは私が守ります。だからローズさん、逃げてください」

「守りますって、何を言って……」


 ローズは戸惑いと焦りの混じった顔でアリアを見ており、今にもアリアを避難場所に連れ出していきそうだ。アリアが変身することを知らないのだから仕方がない。アリアはそんなローズを安心させるべく、ニッと笑いかけるとこう言った。


「大丈夫ですよ。だって、私は魔法少女だから!」

「……は? え? 魔法少女……?」


 困惑しているローズ。しかし時間がないアリアは目の前で変身を始めた。


「ジュエル・プリティ・チェーンジ!」


 音と光がアリアを覆い、宝石のついた大きなリボンのあるワンピースが現れた。髪はツインテールに変化し、手にはかわいらしい魔法のステッキが現れる。


「キラキラ輝くあなたの笑顔、魔法と可愛さでお守りします! 笑顔の天使、プリティピンク!」


 ーー渾身のかわいいポーズを決めた。


「アリアちゃん! 今日もぶりっ子が冴えてるね! 僕引いちゃう〜〜」


 ジリーが楽しそうにヨイショする。引いちゃうと言う割には逆にグイグイ来ている気がするが。


「だから勝手に引かないで!」

 アリアはプンプンと反論する。


 そんなレベルの低い言い争いをしていると、その光景を信じられないといった様子でローズが見ていた。無理もない。目の前でただの女の子が変身したのだから。


「あなた、一体……」


 アリアがただ者ではないと知り、驚いてうまく話せないようだ。しかし、今は説明する時間がない。アリアは避難してほしいことだけを必死に伝えた。


「私は魔法少女。詳しくは後で話します。とりあえずここは私に任せて逃げてください」


 状況が全く理解できないが、アリアの変身を見たローズは自分の想像できない何かが起こっているのを察したらしい。ここは逃げるべきと判断してくれたようで、そのまま頷くと走っていった。


「やっと僕とアリアちゃんの世界ができたね〜」

 ローズが去ったのを確認したジリーは、嬉しそうに船の上から降りてきた。


「ジリー、あなた毎回毎回なんなの? 私達になにか恨みでもあるの?」

「いや〜アリアちゃんが大好きなだけだよ! そして僕はアリアちゃんの力が欲しいだけなんだっ」

「……力が欲しい? どういうこと?」


 ーーアリアが聞いたその時だった、海から巨大な竜が二体出現した。

 海水からできているのか、向こうが透けて見える。水竜とでもいうべきだろうか。すると、さっきまで元気に話していたジリーから、落胆の声が聞こえてきた。


「またか…」


 そしてジリーは悲しそうな顔をするとこう告げた。


「ごめんね、アリアちゃん。また応援が入ったみたいなんだ」


 前回の戦い同様、応援と言う割には残念そうである。そんなにもアリアとの一対一の勝負がしたかったのだろうか。アリアは不思議そうにジリーを眺めた。


 だが、アリアが目を離した隙に激しい水音が聞こえてきた。慌てて振り向くと、一か所に向かって猛スピードで向かっている水竜達の姿が見える。向かう先はジリーの宝石らしい。あの宝石の魔力を炎が吸い取ると、炎の威力がアップしたことを前回の戦いで覚えていたアリア。

 まさに水竜も宝石を狙うかのようにアリアを無視して、宝石へと進んでいる。前回同様、宝石を取り込もうとしているらしい。今回は何としても宝石が奪われることを阻止せねばならないだろう。


「合体する気だわ!」


 気づいた時、アリアは考えるよりも、体が先に動いていた。……なんと、水竜が直前まで迫っているにもかかわらず、咄嗟に宝石の前にジャンプしたのだ。


 宝石と水竜の間に入ったアリア。宝石を守ろうとしたが、時すでに遅し。もう目の前まで水竜が来ており、宝石どころかアリアも水竜との正面衝突は免れない状況に。防御が出来ず、思わず衝撃に備えてアリアはギュッと目を閉じて身を守る体勢をとった。


(ヤバイ、間に合わない!)


 ーーしかし衝撃は来なかった。


 アリアは不思議に思い、そっと目を開ける……と、そこにはジリーの姿があった。

次回、やっぱり仲間割れ? お楽しみに!


(二人の青年の秘密へゆっくりと近づきます。)

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