女の勘
市場に連れてこられると、可愛らしい洋服店の前に来た。
「私ね、可愛らしい服装が似合わないのよ。だから、可愛い服を着こなしてくれる人を探してて。あなた可愛らしいから羨ましいわ~」
ローズはうっとりした顔をしてウィンドウを見る。
(十分、うらやましい体系をされていますが……)
というツッコミをアリアは発する直前で飲み込んだ。
「そうだ、どうせなら私が服を見繕ってあげる。あなた変な恰好してるものね」
「あ、変な恰好なんですか?」
アリアのような服装は初めて見るらしく、不思議な物を見るような反応をした。たしかにこの国の人々は中世ヨーロッパの庶民のような服装が多い。ルークも白と灰色をベースにした上下に、外出時は紺色のマントをしている。ジリーも黒を基調として、色は違えど皆同じような服装をしている。パーカーなどを着ている様子はない。
「そうよ、少なくともこれから王城に向かう人の服装ではないわ!」
なんで王城に行くのを知っているのか疑問に思ったが、ルークが話したのだろうと容易に想像できた。
「そうだ、城下町でも浮かないような服装にしてあげる!」
ローズは一度決めたら頑固なようだ。遠慮するアリアを引っ張り、無理矢理店内に入って行く。
ーー後はローズの思うまま、着せ替え人形のようになるアリア。しばらく試着を繰り返し、ローズのもアリアも気に入る一着が決まった。袖口にフリルが沢山つき、スカートの裾には花柄の刺繍の入ったピンクのワンピースだった。
「あら~~~、いいじゃないの、それ買いましょう」
しかしここで困ったアリア。お金はルークが管理しているのを思い出した。
「あの、ローズさん私お金持ってないです」
「いいのよ、付き合ってくれたお礼に支払うわ!」
すると、悪いですと必死に遠慮するアリアをよそに、会計をそサクッと済ませてくれた。さらにアリアは店員やローズの薦めもあり、買った服を着たまま店を出ることに。
歩いていると、ふと店のウインドウに自分の姿が映った。映ったワンピース姿の自分を見て、アリアは可愛らしいワンピースの似合う自分が気に入った。
そう、自分に。
(さすが私! 自分で言うのもなんだけど可愛い!)
ご機嫌でくるっとその場で回ってみせるのだった。
しばらくショッピングに付き合った後、アリアとローズはカフェで休憩することに。
「ローズさん、あの、ワンピースありがとうございました」
アリアは遠慮しがちにお礼を言った。
「いいのよ、ケーキも奢ってあげるからなにか選んで!」
すっかり二人は打ち解けたらしい。
しかし、話が一息つくと、ずっと気になっていたのだろうか、ローズがおもむろにアリアの恐れる話題を振り始めた。
「そういえば聞きたかったのだけど、あなた……ルークとは何かないの?」
思わずブハッとお茶を噴き出すアリア。
「ななな、なにもありませんよ!!!」
明らかに動揺をしている。
「あらそうなの?……だって、今日ルークの前だから言わなかったけど、ルークが私と一緒にいて寂しかったって聞いたとき、完全に嫉妬じゃないのって思ってたわよ?」
ブルーにも同じことを言われたのを思い出してしまった。
「嫉妬……ですか……でも恋愛とかそういうものではないかなと……」
明らかに挙動不審になったアリアに対し、イキイキとし始めるローズ。
「いいえ、わかんないわよ! お姉さんに話してみなさい!」
ここまで来たローズは止めれない。グイグイと質問攻めし始めたローズに対し、アリアは逃げることもできず……気迫に負け、観念して打ち明け始めてしまった。
◇◇◇◇◇
「アリア、あなたそれは恋よ!」
ズビシっとアリアを指さして、言い渡したローズ。
アリアの打ち明けた内容から、そう判断したらしい。
「そうなんですかね……!そういった本とか読んだりしましたが自分が恋愛とかそんなのしたことがなくて……!」
慌てふためくアリア。そんなに断言されたら否定しにくい。
「もうっ可愛いわね、素直に認めなさいよ! 女の勘は鋭いのよ」
「でも確かに、先ほどのお話を聞く限り、ルークを意識してしまっているのかもしれません」
「ルークを見てドキッとしたんでしょう? 少なくとも恋をし始めてるんじゃないかしら」
「そうですか……この気持ちが”好き”って気持ちなのかもしれませんね」
自分の気持ちに初めて名前が付いたことに、アリアは嬉しいような恥ずかしいようなそんなムズムズとした感覚を覚えた。
「はじめは動揺するかもしれないけど、そのうち実感するわ。私、応援してるわね! ……あ、そうだ気にしてたかもしれないから言っとくけど、ちなみに私ルークと何もないから。なんなら出会ったのは昨日が初めてだから」
いとも簡単にアリアが気にしていたルークとの仲を言ってのけた。
「き、昨日? あんな仲良さそうにしてたのに?!」
「商売人のコミュ力を舐めないでもらえるかしら?」
カッコつけるように髪をかき上げた。
「かっこいい……」
嫉妬云々を言っていたのを忘れ、アリアはキラキラとした憧れの眼差しでローズを見つめる。ローズもまんざらでもなさそうだ。
「もっと褒めてくれていいのよ?」
しかし、仕事を思い出したらしい。そろそろお開きにすることを提案してきた。
「……あ、そういえば、そろそろルークも船で宝石を手に入れた頃かも。せっかくだしルークを迎えに行くついでに船を見ていかない?」
船が見られるとあり、アリアは大喜び。二人は仲良く船に向かった。
次回、港が大変! お楽しみに!
(そろそろルークとジリーについて書きたかった部分に入ります。)