敵か味方か
翌朝、アリアとルークはとあるカフェに入っていった。
ルークの後ろにぴったりとくっつき恐々と隠れながら店内を移動するアリア。すると、テラス寄りの窓辺の席に昨日の奇麗な女性が座っている。飲み物を片手に本を読んでいた女性はルークを見つけると、嬉しそうに手を振ってきた。
金髪に色白の肌。ブラウスにパンツを合わせたコーディネートからも良く分かる女性らしいメリハリのある体型。そしてエメラルドのようなグリーンの瞳が窓から差し込む光に映え、とても美しく映った。
(うわぁ、美人だーーー!!)
女性の美しさやスタイルの良さに同じ女性であるアリアも思わず見とれてしまう。
「昨日ぶりですね、ローズ」
「また会いに来てくれたの?ルーク」
アリアを差し置いて気さくに挨拶を交わす二人。すでに相当仲が良いような印象を与えている。美男美女でとても絵になっている光景を見て、さっそく胸の中にチクリと違和感を感じるアリア。二人は雑談までしている。
(ルークが美人と話してる……!)
アリアは女性の美人具合を吟味するようにじっくりと見始めた。
美人を見て弱腰になったかと思いきや、見た目なら負けてないアリア。勝手にライバル視した挙句、私も可愛いんだから、と強気な姿勢でズイッと前へ出た。ルークと一緒にいるべきはこの私だぞと言わんばかりに。
するとルークが丁度良かったと言わんばかりに紹介を始めた。
「改めまして、こちらは昨日少し話していた、仲間のアリアです」
紹介されて、アリアは前に出たことを少し後悔したが、すでに女性はこちらを見ている。とっさにペコっと頭を下げておいた。
「アリア、こちらはローズさん。海外の宝石を専門とする輸入宝石店の方です。」
(でた、この女性の正体を突き止めてやる……ん??)
「……宝石店?!」
アリアは思わず口に出していた。
「はい、新しい宝石を買い付けようと思っていて、個人的にお話しをさせていただいていたのです」
驚くアリアに何事も気にすることなく説明を続けるルーク。ローズはこんにちは〜っとにこやかに軽く手を振ってくれている。
よく考えてみれば、商売関連と言うことも容易に想像できるはずなのだが……美人と二人でカフェにいるなんて、てっきりルークの恋人かなにかと思っていたアリア。予想外の答えに放心してしまった。
ーーそして一方のローズはアリアに興味深々。
「あら、その横にいる可愛らしい方が貴方の仲間なのね。仲間外れにされちゃったと思ってたんだって? 可愛いーー」
ウフフと笑うローズ。
「ちょっと……!」
ルークはローズにアリアの様子をチクったことをばれてしまうのを焦ったのか、待ったをかけている。
ーーしかしアリアの頭の中はそれどころではなかった。ルークが見知らぬ女性と会っているのを見かけたが、それは宝石店の人と会話しているところを偶然目撃しただけのことだったらしい。それを勝手に自分は嫉妬したりクヨクヨと悩んでいたと知ったアリア。
ーー恥ずかしくて穴があったら入りたいと思うのだった。
その後アリアはルークとローズの商談を横で聞いていた。
ルークとローズはとても気さくに話しており、ただの店員との会話には見えない。馴染みの相手といったところだろうか。
(本当に仲良さそうだよなぁ……やっぱ私は仲間外れにされて嫉妬してたんだろうな)
そう考えると納得するアリアは、今回の悩みは仲間外れに対する嫉妬と解釈することで片づけた。
しかし、納得いかないこともある。恨むべきはローズの体型である。仕事着のブラウスからははちきれんばかりの巨乳の存在感が物凄い。アリア自身の可愛さは誰にも負けないと思っていたが、こればかりは自分のと見比べて敵わないと思ってしまい、少しガン見するのであった。
「では、こちらの宝石をお渡しするので店まで来ていただけますか?」
ローズがいそいそとカフェから出る準備をする。店内での商談は終わったらしい。三人は店で宝石の現物を確認するためカフェを後にした。
歩いていると、コッソリとルークが耳打ちしてきた。
「アリア、お伝えしていませんでしたが、宝石の一部は魔法石へと変化します。今回も宝石を受け取った後、魔法石にするための儀式を行う予定です。ただ、魔法石の存在は誰にも知られていません。ローズさん含め、今後魔法や魔法石に関することを誰にも口外してはいけませんよ」
どうやら魔法に関することは一般には知られていないらしい。そのため、魔法石ももちろん知られてはいけないようだ。
「宝石に力が宿っていてお守りになると前に話していたけど、実際に魔法がかかっていたのね。魔法石にするってことは宝石自体には元々力がないの?」
「はい、魔法石はただの宝石だった物に私が魔法を込めることによって魔法石へと変化します。」
「へー、魔法石はルークが作ってたのね!」
ふと、魔法石が無いと魔法が使えないのに、石に魔法の力を込めることは出来るんだとアリアは思ってしまったが、別に大したことではないので言わなかった。
ーー大通りを歩くと立派な装飾の白塗りの建物が見えた。
「ついたわ、ここが私の店よ。」
三人は店内へ。ローズが商品を取りに行く間、アリアとルークは店内を見て回った。店内は外装に負けず壁画などの装飾が施されており、アリアは上ばかり見上げていた。商品棚もさすが宝石店と評価したくなるほど美しく整えられている。宝石単体やアレンジが施されたものまで多種多様の品が陳列していた。
しばらくするとローズが残念そうに現れる。
「ごめんなさいね、今店内にはないようだから船の方に取りに行く必要がありそうだわ」
「そうですか……では、私は船に宝石を取りに行きますからアリアはここで待っていてください。」
するとその返事を待っていたかのようにニコッと笑いかけるローズ。アリアをグイっと引き寄せると言った。
「それなら、アリアさんを私に貸してくださらくださらないかしら?」
「アリアを……ですか?」
驚くルークとアリア。アリアを貸せとはどういうことか。
「私は特にかまいませんが……アリアは?」
「え、あの私は……」
「決まりね」
なんとアリアの許可を得ずにローズは勝手に決定をしてしまった。アリアは何が何だかわからずパニックなる。物のように貸し借りされているような気分にもなった。
「その代わりルークには使いの者を呼ぶわ。」
ローズがベルを鳴らすと礼儀正しい男性が店の奥から現れた。
「では、お連れしてきます」
と言うと、心配そうな顔のルークを颯爽と使いの男性が店から連れていく。
「え、あの置いてかないでくだ……」
アリアはローズに掴まれた腕を振りほどくこともできず、捨てられた猫のような顔をして呆然とルークが去るのを見るしかなかった。
そこに容赦なく話しかけるローズ。
「ねぇ、あなたアリアっていったかしら? ルークと二人で旅をしてるんですって?」
詮索するようにアリアをまじまじと見つめてくる。
徐々に迫ってくる顔に、アリアは恐怖で硬直してしまうのだった。
迫りくる恐怖にただただ硬直して耐えるアリア。ローズの手が顔の前に伸びる。
(やられる!)
ーーそう思った瞬間だった。
「あなた、ほんと可愛いわよね~」
「……ほげぇ??」
びっくりして変な声がでた。伸びた手はアリアの頭を撫でる。
「私ね、船で各国を回る担当なんだけど、船員って男性が多いでしょ? 周りに女性があんまりいなくって……よかったら一日付き合ってくれないかしら」
平手打ちでもされるのではないかとハラハラしたアリア。予想外のことでうまく返事することができず、瞬きをパチパチと繰り返すしかなかった。
「あ、怖がらせちゃった? 大丈夫よ~。取って食ったりしないから」
ローズに悪意は無さそう……だ。
「ただ、可愛い女の子と女子会? 的なことをしたかっただけなのよ~。さあ行きましょ」
驚いておどおどしているアリアを気にすることもなく、ローズはアリアの手を強引に引っ張ると店の外に連れ出した。
次回、お姉さん勢い怖いっす お楽しみに!