女性と二人?
翌朝、ルークは寄りたい所があるとのことで、アリアに宿でお留守番を言い渡した。
ーー外に出すにはアリアがまだ本調子ではないと判断したためだ。
昨日の怖い体験から、街を一人で歩かせるのが危険である上に、昨日からアリアの様子が少しおかしいのを心配している。
しかし、良い子で待っていられないアリア。宿に一旦留まりはしたものの、外の様子が気になりだし、またもルークの言いつけを破って外に出てしまった。昨日一人でいて怖い目に合ったはずなのに、懲りていないようだ。
ーー何事も無かったかのように歩くアリアの前に青い光が現れた。
「おい、お前よぉ、昨日怖い目に合ったのにまたフラフラ出かけてんのかよ。懲りない奴だな。怒られるぞ」
胸元の宝石に戻ったはずのブルーサファイアの妖精ブルーがネズミの形に変化し、呆れて話しかけてきた。
「あ、ハムちゃん」
「いやだからハムちゃんじゃねーよ。ブルー様と呼べ!」
思いっきりツッコミを入れる。しかし、厳しいツッコミを入れつつもアリアのことが気になるらしい。横を心配そうに飛ぶブルー。
「お前、お留守番してなくて良いのかよ」
「だって暇なんだもん。それに港町ってワクワクするし少しくらいいいかなぁって。昨日はヘマをしたけど、今度は怖い目に合う前に変身してやっつけてやるわ!」
アリアは強気な顔をしてドンドン歩いていく。
これは言うことを聞かないなと判断したのか、ブルーはため息をつくと宝石に戻っていった。
ーーとても元気そうに見えるアリア。
しかし、実はソワソワして、いてもたってもいられなかったらしい。
ルークに助けてもらってから、何やら動悸がする。それにルークの顔を見ると少し顔も火照っているような気がした。ルークを送り出す時も正直言って、顔を直視出来なかったのだ。こんなことは初めてだったので、気分を変えようと思い、無理矢理外に出たのが本当の理由である。ルークには申し訳ないと思いつつもアリアの足はもう外を歩いていた。
ーーしばらく歩くと市場に出てきた。
港町らしい様々な国の特産品が売られている。特に、温暖な地域を思わせるような物が多いのか、果物の類が多い気もする。アリアは珍しい物に胸を弾ませながら市場を歩いた。
金は無いのでウィンドウショッピングになってしまうが……。
ーー市場の一角は飲食店になっているらしい。オシャレなカフェもあり、アリアが好きそうな雰囲気だ。羨ましくてつい店の中までマジマジと見てしまう。
ふとそこに、店の中に見覚えのある顔があった。よく見てみると……
ーールークである。何やら人と話しているようだ。
アリアは思わずドキッとした。
こちらには気付いていないため、こっそりと目を凝らす。
(誰かと一緒にいる……?)
ーーなんと席の向かいには艶やかなブロンドヘアーの美しい美女が座っていた。
その直後アリアからサーッと血の気が引いたような気がした。ルークが知らない女性といるところに出くわしてしまったようだ。別にルークが誰といようと関係ないはずなのだが、……アリアは急に不安になる。
(あの人は誰……?)
そんなことを考えると、いてもたってもいられない。。
ーー思わずアリアはその場から走り出していた。
◇◇◇◇◇
高台にある柵の上から海辺の景色をボーッと見下ろすアリア。
気持ちを切り替えようとするが、どうしても先ほどの光景が頭から離れない。
「はぁ〜」
つい大きな溜息をついてしまうのであった。
そんなアリアを心配するのか、青い光と共に妖精ブルーが再び現れる。
「おい、どうしたってんだよ。さっきまでの元気はどこいったんだよ」
「ハムちゃん……」
「いや、ハムスターじゃないけどな」
心配しててもツッコミは忘れない姿勢。素晴らしい。
ーーブルーはアリアの肩に乗り、思いっきり毛繕いをしながら言った。
「詳しくは分からんが悩みすぎは良くないぜ。まぁ、どうせルークって男のことだろ。おおよそ見当はつくがな」
「え、ハムちゃん見当がつくの?」
「単純なお前の思考だからな。そして諜報もしてるからな、俺を舐めんな」
「すごい、教えてよ!」
しかしブルーは簡単には教えてくれないらしい。やれやれとした顔でアリアを見ると提案した。
「まず、自分の状況を整理しようぜ」
ーーそれから、アリアは先ほどの出来事や、昨日から様子がおかしい自分自身のことをブルーに語った。
すると、一連の話が終わるや否や、ブルーはアリアの正面の柵に降り立ち、確信した顔でこう言った。
「俺は確信したぜ、名探偵の俺様にかかればこんなもの! ……っ!?」
待ってられず食いついたアリア。ブルーを両手でガシッと掴んでしまった。
「先生教えてください!」
これには思わずひぇっとブルーが悲鳴を上げた。つぶれそうなブルーに気づいたアリアは慌てて手を離す。助かったブルー。少し機嫌が悪そうにしながらも、毛繕いをするととても偉そうに話し始めた。
「お前それは嫉妬だな」
「嫉妬……?」
「ルークが他の女といて、嫌な気持ちになったんだろ。そりゃあ嫉妬以外の何者でもないぜ」
「私が……嫉妬」
「気になるならその女が誰なのか本人に聞けば良いと思うぞ。まぁ、恋愛沙汰にはよくあることだ」
「うーん、そうなのかなぁ……」
恋愛という馴染みのない言葉を聞き、納得しきれていないアリア。しかし、ブルーの言う通り、気になるなら本人に聞けばいいというのは一理ある。
「分かった。恋愛とかについては分からないし、関係ないかもしれないけど、クヨクヨするくらいなら聞いてみる!」
持ち前の明るさを出した。考えすぎるのは良くない。
「おうよ! それでこそ俺が見込んだ奴だぜ!」
ブルーはアリアの肩を元気づけるようにトントンと叩いた。
ーーと、不意にブルーは明後日の方向を見て何かを察知したらしい。
「そういやさ、ルークの奴そろそろ宿に帰りそうだぜ」
「そうか、ハムちゃんって位置情報とかも分かるのか! 便利!……て、やば! 早く帰らないと!」
ルークに無断で外出をしていたため、部屋にいないと怒られてしまう。アリアは慌てて宿へ駆け出した。
ーー必死に走るアリア。その姿を追いかけつつ、ブルーは思う。
《まぁ、話を聞いてる限りお前はルークのことが好きになってきてるんだろうな》と。そしてアリアの今後を一人案ずるのだった。
次回、外出してごめんなさい お楽しみに!
(ブルーのようなハムスターをモフりたい今日この頃。)