四話 二度目まして
それからわたしはネックレスを使ってものをすべてしまった。
本も手紙も小さな小物も。すべてが入って、出し入れも簡単だった。
前世で魔術の才能は無かったけど魔術道具を使うためにも魔力の操作方法だけは習っていたから問題はなかった。
それから何もすることがなくなった。
わたしは家で待つことにした。
外に出てすれ違うのも嫌だったし、この家からまだ離れたくなかった。
シマさんがいないだけでとても静かで、知らない場所のようだけど。それでもシマさんとの思い出の詰まったこの家での記憶はいつまでも変わらない。わたしとシマさんの宝物だ。
しばらく思い出に浸っていたとき、
扉にノックする音が聴こえた。
「あっ」
急に現実に引き戻されるような感覚。
振り返ると、記憶よりも随分と若い父様がいた。
なんて言おうか、下手なことを言うと流れが変わってわからなくなりそうだ。
そう考えて何も言えないでいると父様から話しかけてきた。
「君がヴィヴィアンだね。私はアドルフ、アドルフ・ランツェレトだ。今日から君はヴィヴィアン・ランツェレトになる。私はヴィヴィアンの父親だ。迎えに来た」
そうか、ここでわたしの名前がヴィヴィアン・ランツェレトになったのか。
わたし前世から無口だったから何も言わない。父様についていくのも決定事項なのだから何も言わなくていいだろう。
「荷物はこれだけか?」
父様があたりを見回して問いかけた。
ああ、そういえば怪しまれないように服などはだしたまんまだった。
にしてもそういえば父様は庶民のものだからと捨てるようなことは言わなかったんだ。
「うん」
「すべて持って行くか」
父様は凄腕の魔術師だからものをすべてタンスごと転移させて運ばれた。
これなら人にやらせるよりも早いだろう。
転移なんてほぼ神時代に近い魔術といえるだろう。
「よし、行くぞ」
なんかいつの間にか終わってたみたい。さすが父様、無駄に早いわね。
それからわたしは馬車に揺られながらこれからを考える。
弱かったから、一度わたしは死んだ。
弱かったから、わたしは母様を二度も見殺しにした。
弱かったら、また死ぬ。
痛いのは嫌だ。
魔術の才能がないからと諦めていた。
ならば、剣の道を歩もう。
剣には魔力が関係しても魔術は関係ないだろう。
そうだ、幸せになるためのわたしだけのための努力をしよう。
あ、この馬車腰に痛いわ。
なんで父様転移させてくれなかったのかしら。
魔術について調べる必要性があるわね。
そもそもなんでわたしには才能がないのかしら。魔力はあるらしいのに。
「父様、先程の魔術で移動はできないのですか?」
わたしがそう聞くと父様は一瞬驚いた顔をしたあと、すぐに無表情に戻って喋りだした。
あら、意外と教えてくれるのね。
以前は話そうとも思わなかったから以外だわ。
「魔術とは強大な力だ。加減を見誤ると痛い目をみる」
それからちらっとわたしを見てまた話す。
「こども、特にヴィヴィアンはまだ5歳だ。いきなり力の強い魔術に触れるとなにが起こるかわからんからな」
まあ、もっと意外だわ。父様にも家族をいたわる心があるのね。特にわたしのような厄介者なんてお荷物くらいにしか考えてないものだとばかり。
うん。いいかもしれなわ。
新しい発見。以前、これを知っていたならなにか変わったのかしら。
いえ、わからないわね。今のわたしがいるのはその前があったからだもの。
それに父様との、家族との初めての旅みたいでこの馬車も悪くないわ。