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二話 巻き戻る

あれ?

意識がある。

もしかして生きて帰ってきてしまった?

それは嫌だ。

生きても傷のある身、もらってくれる物好きもいない。ましてや、父が醜聞として外に出さないだろう。


にしても、動けない。


そんなに傷がひどいのかしら。


でも、痛みはない。


いや、体は動かせた。


動きが鈍いだけのようだ。

まるで自分の体ではないような気がする。



「アン起きたのね。おはよう」


いきなり扉が開いて人が入ってきたようだ。


私はゆっくりと体を起こす。

ゆっくりなら動けるようだ。


私を呼んだ女の人をみる。

初めて見たような。どこかで見覚えがあるような。


というか、アン?

私の名前?

別人になってしまったの?


「アン、朝ごはんを持ってきたわ」


そう言って女の人は私に部屋にある子ども用の机と椅子が用意されたところに行くように言った。

子ども用?私は向かう途中にたまたま見かけた姿見をみた。

そこには記憶にある私よりもずっと幼い姿をした私がいた。

いくつ頃の私だろうか。記憶にはあの女の人など憶えていない。

いや、よく見れば私に似ている。というよりも私が女の人に似ている。

顔も、髪の色も、瞳の色は違うけど。女の人は青い目だけど私の目は髪と同じパッとしない黒。


私は考えながら言われたとおりに席につき、おいてある朝食を食べる。


「あ、おいしい」


自然に言葉が溢れた。とても久しぶりに温かいものを食べた気がする。


私の言葉が聞こえたのか女の人がとても嬉しそうに笑った。


「ほんとう?よかったわ。たくさん食べていいからね」


疲れたような目の下にクマのできた女の人は笑うとキレイだった。

いつも笑っていればいいのに。

そう考えて思い出す。

私も笑ったのはいつが最後だろうか。そう思い出してなんだか人のことが言えないなと考えておかしくなった。


「アン!」


名前を呼ばれて振り返ると女の人がとても驚いた顔をしていた。

なにかあったのだろうか。


女の人はしばらくして微笑ましそうに私の頭をなでた。


こんなことをされるのは初めてかもしれない。

とても暖かくて、気持ちいい、心地よい気分になった。


嫌なことがあって、辛いことがあって、何故かわからないけど体が幼くなってしまったけど。


こんなにも幸せに思えたのだから。

今だけでも、今までのことはすべて忘れてこの幸せを感受したい。





それから美味しいごはんを食べ終えた私は女の人の膝の上でまるで独り言のような話を聞いた。


「私ね、この世界に生まれて少し悲しかった。魔術もあるから楽しいかなって思ったけど」



「前の世界が恋しかった。だから結局この世界に何も求められなかった。なくしたものばかり追いかけて」


この女の人の独白だろうか。

まるで世界を超えたような。前世の記憶があるような話しぶりだ。


女の人は私の背中をリズムよく優しく叩きながら、どこか遠くを見ながら話す。


「私は流されるままにこの家に来た。自分の両親のことも国のことも今ではどうなったかわからない」


そこまで話して、いきなり私に問いかけた。


「アン、あなたには私みたいにならないでほしい。自由に自分だけのことをまず第一にして」


だんだん眠くなってきた。

子どもだから当たり前のことかもしれない。


前回とは違う優しさと暖かさに包まれながら微睡んでいく私に対して女の人が語る。


「そして幸せになってほしい。これはそのお守り」


そう言って何かを優しく私にかけた。


ひんやりしたその感触をよく憶えている。


「おやすみなさいアン。いい夢を」



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