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少年たちのラグナロク  作者: 佐々木 律
7/13

初見、青髪の少年

〈心を通わせろ〉と言われたが、心など無いであろう無機物の何を感じ取れと言うのだろうか。


駄目だ、考えても拉致があかない。庭園に戻って、家のベッドの上に神器とやらを二つ並べて置き、ルイは再び下の階に下がった。



止まった階は十六階。昔から本を読むことが好きなルイは、案内を受けてからずっとこの場が気になって仕方が無かった。


しかしさすが階数二つ分を利用しているだけあり、端から端までルイの身長の二倍以上ある本棚がずらりと並んでいる。


どこから手を付けようかと奥へ奥へと進んでいくと、天井からはらりと木屑が降ってきた。


歩いてきた箇所はどこも塵一つなく清掃されているため、無論ルイは上を見上げた。


天井の模様に紛れて、壁際に小さな鼠一匹ならば入れそうな大きさの穴が開いている。


この時間だからか、図書庫には誰一人として本を読みに来ていない。


確実にあるはずだと周囲を見渡すルイの視界に入ったのは、大きな踏み台とはしごだった。


一つ目の踏み台で壁に背を付き置かれた本棚の上まで上り、抱えてきたはしごで棚の上段と天井を繋ぎ、穴にたどり着いた。


天井の壁紙はルイの予想より遥かに軽く剥がれ、穴の大きさは子供ならば行き来できる程度のサイズにまで広がった。


穴をくぐり抜け上の階に足をつけ、内側から壁紙を貼り直す。



顔を上げると、そこは広い廊下となっていた。


下から這い上がるために使った壁は、その階でもそのまま壁になっており、道は一方通行であった。


明かりが点々としか設置されていないため見つけるのに苦労を要したが、この階の壁には大きな扉が一つつけられていた。


ここが鈴獰に入るなと言われた十七階か。

彼は戻る気はなく、まっすぐ廊下の先を見据えながら進んでいく。




長く暗い廊下の終わりが見えたと思うと、次は階段が現れた。


階段横には、開きそうもない大きな鉄格子の扉が隠れている。


螺旋階段に一歩踏み出し上を見上げると、どうやらまだまだ終わりが見えないほど高く続いているらしい。


そんなことなど構わず、ルイは階段を上り始めた。


半分ほど登った辺りで、天井に小さな灯りが見えた。


とても小さいが、そこが目的地だと知らせる程度の職務は果たせる灯りである。


子供の底なしの体力を最大限に使い、先程の地点にたどり着くまでに要した半分の時間で灯りの元にたどり着いた。


そこは階段の終わりで、少々広めの踊り場になっていた。


灯りの中心に視線をずらせば、両開きの大きな木目の扉と目が合う。


これまでに感じなかった人の気配を扉の向こうから感じたルイは、三回ノックをし、そっと左側の扉を開けた。



そこは大して広い部屋ではなく、大きめのベッドと二つの本棚、揺れるランプの置かれた小さな一人用の机と椅子があるだけであった。


ノックに対して返事をしなかったということは、警戒心が強まったということである。


自然の中で動物とともに育ってきたルイは、知らぬ間に感覚が鋭く成長していたらしい。


部屋中をじっくりと眺め、ある一点に向かって迷わず進んだ。


ベッドにたどり着いた後、ゆっくりしゃがんで頭を地面に横向きにつけて声をかけた。



〈初めての時は自分から挨拶を〉



「こんにちは。」


そこにいたのは、言葉のとおり小さく縮こまった少年だった。


ルイの姿を見て驚きつつも緊張が解れたのか、小声で小さく返した。


「こんにちは…」



〈相手を気遣うことも忘れずに〉



「そこ、狭くない?」


「狭い…」


「こっちに来たら?」


「そう、する…」


大分ルイに流され気味の少年は、四つん這いのまま這い出てきた。


黒と青の混ざったような美しい髪をした少年は、大きな紫色の目でルイの顔をおずおずと覗き込む。


ルイもルイで整った顔立ちをしているが、そのルイが綺麗だと思うほどに、目の前の少年はか弱く、まるで人形のようである


体格に似合わないような大きめのサイズの服をワンピースのように羽織っており、四つん這いの状態から動こうとしない彼に、ルイから近づいた。



〈名を聞く際は、まずは自ら名乗ること〉



「僕はルイ。君の名前は?」


「僕は、ロキ…」


彼に合わせて四つん這いになると、今度は驚いたように跳ね、後ろの床に両手を置き後ずさるような格好に変わった。


「歳は?僕は十三。」


「ぼ、僕も十三歳…」


「そっか、じゃあ同い年だ。」


ルイが一歩前に進むと、ロキは一歩後ろに下がる。


「僕が、怖い?」


「えっと…」


しかし下がるにも限界があり、すぐに壁に手がついてしまった。


これ以上逃れられないのにも関わらず、目の前の赤髪の少年は近づいてくる。


恐怖を感じたロキは、勢いよく目を閉じ息を止めた。


どうしようかと悩んだ末に、ルイはロキの額に自分の額を合わせてみた。


不思議に思ったのか、ロキは目を見開き瞬きを繰り返している。


「怖くないって、伝わった?」


あまりに不器用な伝え方だったのか、ロキは笑みを零した。


「変なの。」


何故笑われた。ルイは額を離し、首をかしげた。


笑っているロキは、先程より更に美しかった。


いや、可愛らしいのかもしれない。そんなことを考えながら見つめてくるルイに、今度はロキが話しかけた。




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