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少年たちのラグナロク  作者: 佐々木 律
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紹介、六人の少年少女

夜空を眺めながら横になると、気が付けばもう外は朝であった。


ズボンの中に入れていた上着を外側に出してベッドから降り、軽くシャワーで寝汗を流してから、朝食にしようと備え付けられた冷蔵庫のドアに手をかける。


すると中には、野菜やら肉やら飲み物やらが綺麗に詰め込まれていた。


用意周到にも程があるだろう。ルイは一人、息を吐く。


おそらくそう遅くないうちに鈴獰がやってくるだろう。水を片手に胡瓜を齧りながら、ルイは玄関を眺める。


昨日の話を聞くに、どうやら自分は戦わなければならないらしい。


しかしその使命とやらで、ルイの関心を引くことはできなかった。


ラグナロクそのものにはまったく興味がなく、ルイの頭に残ったのは〈その後〉だった。


〈全ての命が絶え、新しき世界が誕生する〉ルイの心を動かしたのはその部分である。


ある意味、彼にとっては願ったり叶ったりであった。


人は誰しも、一番の願いがどれほどの努力を積み重ねても叶わないと悟った時、妥協をすることで次の望みを決める。


ルイも初めの願いはとうに諦めている。

しかし、それと同時に次の願いを決めていた。


人と神との共通点は、貪欲さだろうか。一日で立場ががらりと変わったルイは、くだらないとでも言うように再び息を吐き捨てた。


コップと手を洗い終えた数秒後、玄関の扉がノックされた。


開けた先に立っていたのは、昨日と同じようで同じでない顔だった。


「おはよう、ルイ。」


一晩でルイが考えた、トールとしての自分像は、こうだ。


「目、下に隈ができてる。それに、髪結ばれてない。」


〈普通の子供〉であること。


「いやぁ、昨日はちょっとばかり忙しくしていてね。その理由は後で聞いてもらうよ。」


一般論で〈普通〉をどう解釈するかを問うた時、どうしても人によって相違点が出てくる。


ルイが狙ったのは、少々欠けた部分が見受けられても許容できる範囲の〈普通〉であった。


きっと自分は、誰よりも自己勝手な理由でラグナロクに加わろうとしているのだろう。ルイは痛いほどに分かっていた。


だからこそ、悟られてはいけない。


六代目のトールは、〈無垢でラグナロクを望まない子供〉である。ルイは自分にそう言い聞かせることで、初めて他を欺けると確信していた。


「さて、まず君を連れて行きたい場所がある。朝食は済ませたかい?」


無言で頷くと、鈴獰は満足そうにルイを連れ出した。


着いた場所はラグナロク・アースガルズ層七階。高い天井に広々とした空間が広がっている。


部屋というには広すぎるそこの中心に、長いテーブルといくつもの椅子が置かれていた。


何人か席についている者がいると確認できる。


ただ鈴獰に付いて行くと、徐々に空間から物に焦点が移っていった。


彼が足を止めたため、ルイもその場に停止した。


「紹介が遅くなったが、この子が六代目トール。名はルイだ。」


響き渡る鈴獰の声に耳を傾けるのは、六人の少年少女だった。


昨日顔見知りになった、フレイとフェンリルも座っている。


鈴獰に自己紹介を促され、初めに口を開いたのはフレイだった。


「昨日ぶりだから、改めましてだね。僕はフレイ、十五歳。得意なことは料理だから、またご飯でも食べにおいで。」


「フェンリル、十六。昨日色々喋ったから、以下略な。他のやつのこと覚えてやれよ。」


フェンリルに肩を叩かれた褐色の肌の少年が、緊張を隠せないままに話し始めた。


「俺は、テュール。歳は十六で、得意なことは、得意なことは…何だ?」


「知るかよ。」


問いかけるように視線を向けられたフェンリルは、間髪入れずに突き放す。


「あ、足が速い。得意なことは走ることだ。よろしくな。」


天然な性格をしているのだろう。ルイは彼の話し方からそう察した。


短すぎない灰色の髪の毛が肌に映え、明るい黄色の目が光を反射している。


緊張しつつも笑顔を絶やさない彼は、よく人に好かれそうだという印象を持たせた。


「私はヘル。歳は、十五。得意なことはあまり無いけど、好きなことはおしゃれ!」


いかにも年相応なことを述べる少女は、長くまっすぐな黒髪を腹部まで伸ばしていた。


ルイがこの部屋に足を踏み入れた時から、ヘルは観察するようにルイを眺めていた。


大きく光る薄茶色の目は、今この状況を楽しんでいることをルイに伝えてくる。


「俺はヨルムンガンド。長い名前だから、ヨルでいいぞ。歳は十六。得意なことはあんまり思い浮かばないな。ちなみに、寒いのは苦手。」


深く濃い青色の髪を後ろに軽く束ねている少年は、年の割にどこか色気を感じさせた。


頬杖をつきながら軽く手を振ってくる彼に、ルイはどう反応すればいいか迷わされたが、からかわれていると気づき、ただ軽く会釈を返した。


「俺はスルト。十七だ。よろしくな。」


鈴獰を抜いた中で一番の歳上である彼は、声色といい態度といい、誰よりも落ち着きを放っていた。


ふわりと曲線を帯びている橙と茶が混ざった髪の毛は、不潔さをまったく感じさせない。


全員の簡易的な自己紹介が終了し、ルイも改めて自身の名を響かせた。


「僕はルイ。歳は十三。この中で誰より歳下だから、分からないことの方が多いけど、色んなことを教えてもらえると嬉しい。得意なことは…覚えること。よろしく。」


まったく緊張を感じさせないルイの口が閉じた時、自然と歓迎の意のこもった拍手が起こった。


「今日は忙しくて厳しいが、明日からはルイも時間に余裕が出来る。ここでの日数差は数日だろうが、年齢的に君たちは先輩だから、仲良くするように。」


「はーい。」


解散という言葉と同時に、少年たちはそれぞれルイに挨拶を終えてからその部屋を後にした。


さて。鈴獰は一度思い切り背を伸ばしてから、ルイに向き直った。


「皆の紹介も済んだことだし、軽く木の中の案内をしようか。」


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