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少年たちのラグナロク  作者: 佐々木 律
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難解、現状と理由

「君が住んでいた場所の名称は〈アースガルズ第十四地区〉。形式上はアースガルズではあるが、最下層にあるニヴルヘイムを治めるヘルのもう一つの世界、ヘルヘイムよりも更に下層にある場所だ。ユグドラシルの根元だね。」


 先程まで大して声を発していなかったライアスも、ようやく飲み物以外のために口を開いた。


「別名〈育成区域〉だ。実は育成区域は十四地区以外にもいくつか存在してる。十四地区はその中でも大分環境が厳しくされた場所だ。成長する上で必要最低限のものしか与えられない。」


「どうして、そんな場所を?」


「それは、さっき君に確認した件にも関係する。」


 今後も名前で呼ばれたいかという問いのことである。


「ここからはさっきみたいな基礎的な楽しい話じゃない。いいか?」


 ライアスの厳しい表情に、ルイの心が引き締められた。


「私たちは当初、君を別の名で呼ぶ予定だった。」


「別の名前?」


「〈トール〉。」


 ライアスがその名を述べた瞬間、ルイは思い出した。


 鈴獰が自分の姿を見たとき、そのような名前を口にしていたのだ。


「トールとは、アース神族という部類に分けられる神の一人で、雷を司っている。神器の名はミョルニル、君が右手に握り締めている、その鎚だ。」


 ルイの右手の指たちがぴくりと動いた。


「結論から言うと、お前はあの場所で、トールになるために育てられた人間だ。産まれてからすぐにミョルニルとの融合を行った時、最も高い数値を記録したからな。」


「神器はどうしても相手を選ぶからね。私たちが君を選んだわけではないことは、分かってほしい。」


「ちょっと、待って。」


 ルイは、まず頭を整理しようと試みた。


 神であるトール、それになるために産まれ育てられた自分、右手に残るそれらを事実とする確固たる証拠。


 全てをまとめて、どうしても自分の中で納得のいかない部分を一言にまとめて外に出した。


「僕は、何人目なんだ?」


 それに答えたのは、鈴獰であった。


「六人目だ。」


 納得はいかなかった。


 六人も同じ神がいてたまるものか。ルイの脳内は、更に混乱へと進む。


「君は頭がいい。しかし、一度に全てを理解しようとするのは、大人でも無理なことだ。」


 いつ取りに行ったのか、空になっていた湯呑に茶が注がれた。


 順を追おう。鈴獰は初めから説明を始めた。


「君が生まれた年は改号二四六〇年十二月六日。現在は二四七三年十二月六日だ。」


「日にちは分かる。僕の、誕生日だから。」


 声を出すことで、ルイは必死に鼓動と呼吸を落ち着かせようとした。


「そうだね、十三歳になった記念の日だ。それも大事だが、まずは君の誤解を解かせて欲しい。私の予想だと、君は六人もトールという神が存在していると思っているね?」


「違うってこと?」


 説明が足りなかったね。謝罪を交えつつ、鈴獰は続けた。


「正確には、君は六代目のトールだ。」


 ライアスも説明を付け加える。


「トール以外にもいるが、この世界では代替わりで神が変わっている。元の力や司る事象は変わらねえが、相続者によって個体差は出る。実際、お前とお前の先代の体格も性格も、丸っきり違うしな。」


「それから交代のタイミングは、命の終わりじゃないんだ。」


 丁度疑問に思ったことを、ルイが口を開く前に鈴獰が答えた。


「ラグナロクが終わった時が、そのタイミングだ。」


 鈴獰に合わせているのか否か、ライアスは息良く鈴獰をサポートしているようだ。


「ラグナロクというのは、大いなる戦いの通称だ。つい先日、予定より早く第五次ラグナロクが終了した。そのため神々の交代が必要になったから、私たちは君を迎えに行ったんだ。」


「どうしてそんなに戦う必要が?」


 街の雰囲気を思い出しても、最近まで戦争があったような雰囲気は無かった。


 その問いに、鈴獰は少々困ったような顔をした。


「まず、代によってラグナロクの内容は違うんだ。」


 〈戦争の内容が違う〉。先程から、ルイには理解しがたいことばかりが並べられる。


「戦争であることに変わりはないが、代によって発端も違えば、敵も違う。例えて言えば君の先代の子達のラグナロクは、所謂無血戦争だったよ。それもまた酷かったけどね。」


「無闇矢鱈に血を流さなかっただけでな。必要最低限の処刑だけやって終わらせやがった。」


「ラグナロクの終結を決める誰かがいるってこと?」


 さすがの回転力だと、鈴獰は感嘆した。


「決めるのは支配神オーディンだ。アースガルズ最上階にある城、ヴァルハラに住んでいる寂しい神様だよ。」


 見えもしないのに、ルイはふと上に視線をずらした。


「だが、オーディンは存在しているが、同時に存在してないも同様だ。絶賛お休み中だからな。」


 ライアスは、近くに置いてあったらしい茶菓子を口の中に放り込んだ。


「言葉の通り、オーディンは寝ている。初期ラグナロクが終了してからね。本来であれば、ラグナロクでは全ての命が絶え、新しく世界が形成されるための戦いなんだ。それが今でも続いている原因はオーディンにある。彼が、死ななかったせいなんだよ。」


 つまり。大分冷静に整理ができたルイが静かに述べた。


「新世界誕生のための条件を満たすために、言い方を変えればそのオーディンっていう神様を殺すために、ラグナロクが続いてる。」


「簡単に言うとね。」


 あまりの理解力に、ライアスは開いた口を塞ぐことができていない様子だった。


「わざわざそんな面倒なことをしてるってことは、寝ているオーディンは無防備じゃないってこと?」


「お前、トール神なんかより学問でも極めた方がいいんじゃねえか?」


 驚愕のまま口走るライアスの左足に、鈴獰の右足が重石のようにのしかかる。


 悶える男を他所に、鈴獰はルイの疑問に答えた。


「いや、寝ているオーディンは無防備だよ。だが、寝ている状態の彼は誰にも殺せないんだ。二代目も同じことを考えてラグナロク前にヴァルハラに向かったさ。第一次ラグナロクと同じ方法を試みたらしい。確かに殺した感覚はあったそうだが、瞬時に大きな光に包まれ、目を開けると数秒前と変わらない様子でオーディンは寝息を立てていたそうだ。」


「ラグナロクを行えばオーディンを起こせる?」


「それに関しては保証は無いし、可能性も未知だ。現に今の時点でオーディンは相も変わらず寝ているからね。」


とりあえず。ルイは軽い深呼吸をした。


「僕に戦えということ?」


 表情の固まる鈴獰に代わり、ライアスが頷く。


「そのために十四地区に送られたんだ。まぁそれ以外にも理由はあるが大元はそれだな。トールの力の強さに人間どもは期待しまっくてる。何より、六代目トールを引き継ぐことは逃れられない。なんせミョルニルがお前を選んじまったからな。だが、ラグナロクをどういう形で始め、そして終わらせるかは六代目のお前たちが決めることだ。」


 〈六代目のお前たち〉ということは、自分以外にも六人目として神の椅子に強制的に座らされた者は他にももういるのか。先程までとは打って変わり、ルイは冷静だった。


 張り詰めた空気を割ったのは、鳴り響く着信音だった。


「うわ、呼び出しだ。」


「急患?」


「らしい。悪い鈴獰、後はまかせた。ルイ、悪いがまた後でな。」


 携帯電話の向こうの声に応対しながら、駆け足でライアスはその場を去った。


 静寂に包まれた空間で、鈴獰は静かに笑った。


「難しい話をしすぎたね。私たちから今話すべきことは話し終えた。他に何か質問があれば、それに答えるよ。」


 山ほど聞きたいことはあったが、ルイは興味の大きなものから質問することにした。


「母さんと、知り合い?」


 初めからその問いがくるとは思っていなかったのか、覚悟はしていたらしい鈴獰の面持ちは固いものになった。


「そうだね、その通りだ。彼女の話でもしようか?」


「いや、今はいい。今はそれがわかっただけで十分。」


 そうか。再度口を噤んだ鈴獰に、更に質問をした。


「今日から僕はどこでどう生活をするの?ラグナロクのためのきっかけを作るべき?」


「いや、ラグナロクは本来急くものじゃない。生活場所は、そうだな。見たほうが早いだろうから、今から案内をしよう。」


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