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少年たちのラグナロク  作者: 佐々木 律
2/13

来訪、ユグドラシル

 樹の中にいるとは思えない広さに、少年は圧巻させられた。

 その中でも多くの人間が忙しなく動き回っている。


 そこもまた、一種の街のようであった。


「こっちだ。」


 ライアスが呼ぶ方へ鈴獰と共に向かうと、少々狭い空間に入れられ、さらに分厚い扉を閉じられた。


「これはエレベーターだよ。一旦私の家に向かおう。」


 書籍で読んだことはあったが、本当にエレベーターというものが存在するとは。少年はゆっくりと唾を飲む。


 扉横にいくつも並んだ数字を見ると、十二のボタンが光っている。

 その更に上を見ると、時計のように針が回っており、丁度十二を指した時、扉は開かれた。


 その階には、一定の間隔を空けながら扉が設置されている。

 その扉の横には数字が書かれており、鈴獰は降車後右に曲がってしばらく歩いた1213と数字が刻まれた部屋のロックを解除した。


「いらっしゃい。どうぞ上がって。」


 部屋の中にあげて初めて、鈴獰は少年の手を離した。


 ライアスは慣れているのか、部屋に入って初めに右に出てくる扉の中へと入っていく。


「ここはトイレだよ。それからこっちが洗面所とお風呂場。その隣のこの部屋は寝室だ。」


 そのどれでもないドアの向こうに、少年は案内された。


「ここがリビング。さぁそこのソファに座って。お茶を淹れてこよう。」


 少年の想像に反し、彼の部屋はあらゆる装飾が施されていた。


 紺を中心に落ち着いた色合いでまとめられ、カーテンやテーブル、椅子など、全てにおいて細やかな紋様が描かれている。


 アジアと呼ばれる地域に、このような模様を描く国があるという。


「中国…」


 三つの国の争いを描いた昔話を読んだ際に見た挿絵の柄と酷似している。


 全てを記憶するかのように部屋中を隈なく見回す少年の前のテーブルに、取っ手の無い白い湯呑に入った薄い茶色の飲み物が出された。


「高山茶というお茶だよ。私の祖先が住んでいた地で作られていたものだ。まぁこれは私が庭で栽培している程度のものだから、本物に劣る味だろうけどね。」


 鈴獰が向かいのソファに座り、一口茶を啜るのを見てから、少年も口をつけた。

 少年は味の良さを感じはしたが、つい先日まで飲んでいたものと随分似た味だと思い、上手い感想が思いつかないでいる。


 しかし、彼が一気に全て飲み干した様子を見て、鈴獰は軽く微笑んだ。


「空腹なら、食事にしようか。それとも先に体を洗い流してくるかい?」


「それか、この世界の話をするか、だな。」


 用を足し終えたのだろう、ライアスが鈴獰の隣の一人がけのソファに腰掛けた。


 無論、少年の答えは決まっている。


「話を、聞かせて欲しい。」


 少年のその声に、鈴獰は目を閉じ二回頷いた後、ずっと肩にかけていた鞄から板を取り出し、何枚かの紙を挟んで筆記用具を左手に持った。


「ではまず、こちらの質問にいくつか答えてもらいたい。何、大した質問じゃないから気軽に答えてくれ。」


 息を呑む少年の緊張を、鈴獰は軽い笑みで解そうと試みつつ、続けた。


「君の名前は?」


「僕は、ルイ。」


「今後もそう呼ばれたいかい?」


 何故そのような確認をするのか。少々疑問には思ったが、少年は目を逸らさず頷いた。


 そうか。鈴獰は何故か満足そうな面持ちをする。


 そして先ほど出した紙に何かを走り書きした後、再び顔を上げた。


「ではルイ、質問を続けよう。年齢は?」


「十三。」


「性別は男の子で合っているね?」


「合ってる。」


 随分と基本的な質問をしてくる。用意周到に自分を連れ出したかと思っていたルイは、

鈴獰の問いに対して些か疑問を覚えた。


「では、君の出身地は?」


 先程と同様に答えようとしたルイは、言葉を詰まらせた。


 自分が住んでいた場所の名前を知らなかったのだ。


「出身は、分からない。」


 無知を有にすることはできない。


 通常、記憶喪失でもないのに自身の出処を知らないと言えば、誰しも怪訝な顔を向けるはずであるが、鈴獰は一切表情を変えずに、ただ二度前に首を折るだけであった。


「よし、質問に答えてくれてありがとう、ルイ。」


「次はこっちが質問に答える番だ。」


「それもそうだが、まずは基礎部分の説明から始めようか。」


 鈴獰は、ペンをジャケットの胸ポケットに閉まった。



 鈴獰とライアスの話によると、世界はユグドラシルを中心に九つに分別されているらしい。


 ルイを乗せた船が到着したのは、大きく言うとアースガルズという世界であった。


 アースガルズを最上層として、同じ第一層にアルフヘイム、ヴァナヘイム、第二層にニタヴェリール、スヴァルトアルフヘイム、ミズガルズ、ヨトゥンヘイム、第三層にはニヴルヘイム、ムスペルヘイムが位置している。


 正確には、アースガルズ自体も地区ごとに分けられているという。

 船で鈴獰がこの場所を〈アースガルズ居住地区〉と称したのは、このためであった。


 最も広い面積を誇るアースガルズでは、おおよそ十万人が生活している。


 その中でもこのユグドラシル内部に入ることができるのは、鈴獰やライアスのように研究職についている者か、その他選ばれた者のみである。


 ユグドラシルはアースガルズ以外の全ての世界と繋がっており、それぞれ階層が決まっていた。


 また、それぞれの世界に訪れるためには、それぞれのエレベーターに乗り移動する必要があるらしい。


 つまり、アースガルズにはアースガルズ用としてそれが作られているということだ。

 無論、全ての世界にエレベーターが用意されている訳では無いそうだが。


 ユグドラシル内部はそれで移動が可能だが、それ以外は船が使われた。


 ビフレストは、アースガルズとその他の世界や地区全てを結んでいるため、外の移動が必要な際は船を利用する。


「ユグドラシル内のアースガルズの階層それぞれについては、後で実際に行きながら説明をするとして。次は、君についての話をしようか、ルイ。」


 無意識に、ルイの背筋が伸びた。




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