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少年たちのラグナロク  作者: 佐々木 律
12/13

不明,解決策

「まぁおまえらと大した差はないけどな。俺たちは俺たちの身体そのものに力が宿ってるってだけの話だ。」


なんとなく濁されたような気がしたが、ルイは両手に握られた二つの神器に視線を移した。


「鎚を使ったことはあるか?」


スルトの問いに、ルイは一度だけ、と答える。


「その時、どんな感覚になった?」


ヨルムンガンドの言葉に、ルイは目を閉じた。


「温かい光に包まれた。でも、それ以外には何も起こらなかった。たぶん、出切らなかったんだと思う、その…力が。」


「どうして光が現れたか、きっかけは分かるか?」


ルイは、静かに首を振る。


二人の兄は、悩むように腕を組み、先程のように頭を掻いた。


どうやらルイ自身が答えを見つけない限り、先に進むことはできないらしい。


「二人共、皆のところに戻って。」


ルイはこのまま時間を過ごしても埒があかないと考えた。


「これは、僕が解決しなきゃいけないことだから。皆も自分の力で得たんだから、僕もそうする。皆、二人を待ってると思う。」


「ルイのことも待ってるんだぞ。」


距離を置こうとしたのが察されたかと思ったが、ルイはただ縦に頷いた。


「僕が器に認められたら、また誘って。それまでは、一人でがんばらせて欲しい。色々教えてくれてありがとう。」


先に戻ると背を向け走っていくルイを、二人は見つめることしかできなかった。



「そんな顔するなって。俺らは俺らで、ルイが胸張って来るのを待ってないといけないだろ。」


「そう、だよな。いや、まだ十三なのにって思うとどうも…」


「確かに最年少だけど、ルイが自分で決めたんだ。あいつも男なんだし、変に手を出す方がたぶん間違いだよ。」


ヨルムンガンドに頭を叩かれたスルトは顔をあげ、共に森の奥へと入っていった。


遊ぶように能力を高めていくのが、彼らの訓練法であった。


いつか〈使われる〉日を、どこかで望みながら。




一足先にエレベーターに乗り込んだルイが向かったのは、四階にある鈴獰の研究室であった。


「鈴獰、いる?」


「ルイかい?いいよ、入っておいで。」


入室の許可が出てから、ルイは両手で扉を開いた。


こっちだという声がしたのは、昨日も案内された応接間であった。



昨日とは打って変わり、汚れた白衣を来た鈴獰が茶を淹れていた。


「ちょうど淹れ始めだところだったんだ。どうぞ、座って。」


ソファに腰を下ろし、鈴獰が茶を入れ終わるのを待つ。



しかしその前に、鈴獰が口を開いた。


「悩み事かい?」


悩みではないが。ルイは先程スレイとヨルムンガンドに受けた説明も交えながら、自身の力量不足について問いた。




鈴獰は最後まで真剣に話を聞いていた。


ルイの話に区切りがつくと、鈴獰は腕を組んだ後に顎をさすった。


「君が初めて神器を神器として扱った瞬間について、今の話を聞くだけでは全てを理解することはできないが、現時点で私から言えることは、まずは心を取り戻すことだ。」


ルイの前に、茶が入った湯呑が置かれた。


「今の君には、喜怒哀楽を初めとした基本的な感情すら見られない。それでは器と同等の立場になることすらできないよ。神器は君の本質を見定めたいと思っているからね。」


「スルトもヨルも、皆神器と波長を合わせたって言ってた。まるで神器が意思を持っているみたいだ。」


そのような発想は持ったことがないのだろう、鈴獰は笑い声をあげた。


「意思、意思か。確かにあるのかもしれない。こう何度も主人が変われば、器も疑い深くなるだろうよ。いつになったら自分の仕事は終わるんだろうかとね。」


いつの間にか湯呑の温度は低下していた。


「初めに教えただろう、心を通わせろと。通う心が無いんじゃあ話にならない。方法はきっとあるよ、君に合っているものがね。」


今すぐに解決はできなさそうだということだけが分かったルイは、冷めた茶を一気に飲み干し、鈴獰に礼と別れを告げた。



彼にとって心を取り戻すということは、簡単な問題ではなかった。


当の本人が解決策を持っていないからである。


何かのきっかけがあれば良いのだろうが、そのきっかけを探すのもまた容易なことではない。


庭園に戻ろうとしていたルイの足が無意識に向かっていたのは、ロキの元だった。



気がついた頃には扉の前に立っており、考えることもしないままに三回ノックをしていた。


中から明るい声と軽い足音が聞こえてくる。


ルイが手を伸ばす前に、扉は内より開かれた。


「いらっしゃい!」


ロキの眩しすぎる笑顔は、昨日より温かみを増しているような気がした。


ルイが何かを話す前に、じっと顔を覗き込んできたロキは、彼の手を引き中へと迎え入れた。


ルイの体を押してベッドに座らせ、ロキはぱたぱたと机の上から水を持ってルイの隣に腰を下ろした。


「どうぞ。」


「え、ありがとう…」


水を飲んでいる間も、ロキはルイの顔から目を離さなかった。



「僕でよければ聞くよ。」


どうかしたの。何かあったの。そのような言葉を全て通り抜け、ロキはそう言った。


目を丸くしたルイは、聞くと言われても何も話せなかった。


「何、どうしたの急に。」


必死に探して出た言葉は、これだけだった。


「なんとなく、ルイが何か奥に押し込めてるものがあるような気がしたんだ。今日のルイの目、すごく暗かったから。」


目の色など大きく変化するだろうか。疑問には思ったが、ロキが冗談を言っているようにも思えなかった。



まっすぐな彼の瞳にルイは、彼になら良いだろうかと考えてしまった。




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