ロストワールド第二篇 こちらから読めます
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やっとのことで正門にたどり着いた頃、時刻は既に時計の9時半を過ぎていた。
「ハァハァ……もう入学式は終わってるか。さすがに」
太智の予想通りすでに入学式は終わっており入学式の後に行われる自分の得意な武術を生かしながら戦闘の練習を行う為に使う武術の種類を選ぶ武科の体験入部が新たに始まっていた。
「えっと、、剣術の武科はどこに行けば体験出来るんだ……今来たばっかりで入学式で何にも説明聞いてなかったからどこに行ったら良いか分からないな………仕方ない人にきくか」
ちょうど正門付近を歩いていた眼鏡をかけた女子生徒に声を掛ける。
「あ、、あの!すいません。」
「は、はい。なんでしょうか?」
声をかけられた女子生徒は太智がまさか入学式に遅刻して来たとは思っていなかった為驚きながら答えた。
「剣術の武科の体験場所に行きたいんですけど、場所が分からなくて……どこで剣術の体験やっているか教えて貰えませんか?」
「さっき入学式で貰った紙に体験場所の一覧書いてありましたよ!ほら、ここの8ページ目に」
女子生徒は入学式で貰った説明の紙を指差しながら答える。
「実は僕、、入学式に遅刻して参加できなくて……その紙持ってないんですよね。、、あはは」
入学式に遅刻という事態をすぐには理解することが出来ず少しの間沈黙が続いた。
「遅刻、、ち、、、遅刻!!!? にゅ、、入学式に遅刻したんですか!?あなた」
「は………はい」
太智は急に恥ずかしくなりうつむき加減に答える。
「ふふ……面白いですね、入学式に遅刻なんて。 私そんな人に会ったの初めてですよ。」
「で、、ですよね……」
落ち込んでいる太智をよそ目に女子生徒が続けて太智に話しかけた。
「私も剣術の体験場所に行こうと思ってて、良かったら一緒に行きませんか?1人だと何だか心細くて、、私」
「ぜ!!!ぜひお願いします!! 僕も心強いですよ!この学園広いから1人で行動してたら迷っちゃいそうですしね。」
「それもそうですね 初めてですもんね。この場所、さぁさっそく行きましょう」
2人は剣道場のある校舎西側の体育館の方角へと歩みを進めた。
向かっている途中で初対面同士の2人は中々会話を切り出せなかった。そんな中 その気まずさを紛らわす為に太智が沈黙を破った。
「えっと、、お名前は何て言うんですか?」
「佐藤、、佐藤小春っていいます。あなたは何て言うお名前なんですか?」
「僕は竹下太智って言います。僕ら同級生になるんですもんね。よ、、よろしくお願いします。」
「そ、そうですね!同級生ですもんね、こちらこそよろしくお願いしますね。」
彼女の不意に見せた爽やかな笑顔に太智はどうしていいか分からずに少し戸惑ってしまった。
そうこうしているうちに2人は剣道場に到着した。
「ここが剣道場か、俺の通ってた道場の倍ぐらいあるんじゃないかこれ。」
「お、大きいですね太智さん。 さすがこの学校と言うべきでしょうか。」
到着した時にはすでにたくさんの体験希望者が剣道場に集まっており、道場内は活気に溢れていた。
「ひ、人多いですね。小春さん」
「ですね。どうしましょうか」
「後ろから回り込みましょう!」
太智は人混みの中を後ろの方からかき分けてどんどん進んでいった。
「ま、、!待ってください。太智さんっ!!」
小春もその後をすぐに慌てた様子で追いかける。
剣道場の中では体験希望者と剣道の武科の部員との手合わせ稽古のような体験内容が行われていた。
畳の上では部員の持っている竹刀が首スレスレまで突きつけられた体験者が汗をかきながら両手をついて座り込んでいた。
「ま………参りました。」
降参の言葉を発した体験者に対して部員が優しく声をかけた。
「大丈夫だよ。君結構腕いいね!ぜひ部に入部して僕と一緒にもっと腕を磨かないか?」
部員がそう発言した瞬間に会場からは部員に対して黄色い声援が飛び交った。
「さぁ、次に僕と手合わせしたい人は手を挙げて! 誰でも相手になるよ」
部員がそう言うと会場にいた体験者達はこぞって手を挙げてアピールをした。
「俺にやらせてくれ! 」
「俺にも!」
「俺にもやらせてくれよ!!」
そんな中道場の後ろの方でその様子を眺めていた太智と小春は会場のあまりの熱気に押され手を挙げられずにいた。
「こんな、、強い人相手に入学初日の私達が勝てるわけありませんよね。太智さん」
小春が弱腰になりながら太智に同情を求めた。
しかし太智の様子は違っていた。
「……………………………………………」
太智は黙り込んだまま何も言わずにただ正面を見つめていた。
「太智さん?」
小春が心配そうに言葉を投げかけたその瞬間、体験者を募っていた部員が会場に来ていた人の中から指名を行った。
「そこの君!その奥でこっちを見てる髪型ストレートの君!!さぁ、やろう」
そう言って指名されたのはまさかの太智だった。だが太智は指名されたのにも関わらずボーッとしたまま相変わらず正面を見ながらその場に突っ立っていた。小春が太智の肩に手をポンポンとあて声をかける。
「太智さん!指名されてますよ」
ボーッとしていた太智だったが小春の声に現実に呼び戻される。
「………え?俺?」
「はい 指名されてますよ 行った方が良いですよ皆んなこっち見てますし。」
周りの視線は指名された太智に集中しており行くという選択肢以外用意されていないかのようだった。
太智は周りの視線と小春に促されながら正面へとゆっくり歩みを進めた。
太智が正面の畳の剣道部員の正面に立った時に部員が太智に再び声をかけた。
「この剣使ってね。はい」
差し出されたのは先程の試合でも使われていたつばの部分が無い日本刀の形をした木で作られた竹刀だった。
「久しぶりだな………この感触…」
太智が竹刀を握ると部員は太智の10歩程度離れた位置に移動した。
部員が移動し終わって竹刀を構えた時に太智が部員にこう尋ねた。
「この試合 本気でやって良いんですよね?」
太智が尋ね終わると部員は
「あぁ、本気で良いよ。何事にも本気で取り組む。その真っ直ぐな姿勢 ぜひウチの部に欲しい人材だよ」と冗談交じりにお世辞を飛ばした。
「両者 構えッ!!」
審判員が構えの合図を出し、部員は両手で竹刀を握り準備をした。
太智も同様に竹刀を両手で握り準備をした。
竹刀を構えると今までは別人のように太智の目つきが変わった。
相手をしっかりと捉え、尋常じゃない程の集中力をみせた。
あまりの集中力に部員が一瞬たじろぐ。
「なんだコイツのこの集中力……」
「はじめッ!!!」
開始の合図がかかると先に動き出しのは太智の方だった。
地面を後ろ足で踏み込みと姿勢を低くしたまま後ろ足を踏み出し、一気に部員との距離を詰める。部員が気付いた時にはすでに間合は一太刀ほどしかなくなっていた。
「こいつ いつの間にこんなに近くに」
部員はそれに気がつくと慌てて持っていた竹刀を両手で振り下ろした。しかし太智は振り下ろされた竹刀を刃先にかけて段々と細くなっている側面で受け止めると竹刀を上側に片手で振り切り部員の振り下ろした竹刀をはじき返した。その瞬間 部員の正面がガラ空きになった。
太智は上側に振り上げた竹刀を離していたもう一方の手で竹刀を握ると部員の体目がけて右斜め上から左斜め下に一気に振り下ろした。部員は竹刀の衝撃で後ろに倒れ込み。試合は一瞬で勝敗を決した。
時が止まったかのように辺りが一瞬にして静まり返る。審判員・周りの体験希望者も含めて皆 何が起こったのか把握できずにいた。
しだいにまた辺りが騒がしくなり始める。
「なんだよアイツ」
「勝っちゃったぞアイツ どうすんのこれ」
「え?あの部員の人弱かったの?」
皆不審がるように倒された部員や太智に向かって言葉を投げかけ始めた。
倒された部員も何が起こったのか把握出来ずにそのまま座り込んでいた。
「こんなもんなのか……この剣道部は。」
ステージ上にいた誰よりも早く口を開いたのは太智だった。
その言葉を聞いていた周りにいた他の部員の1人が口を開いた。
「どういう意味だよ1年お前」
周りにいた他の部員がとがめる様に話しかける
「おい、お前やめろよ。体験に来てくれてる1年なんだぞ」
「関係あるか!そんなもん。 俺らは毎日 妖夢を倒すためにこの剣道部で練習してるんだ。それをこんな体験に来ただけの1年にバカにされる筋合いはねぇよ!!」
竹刀を持ったまま怒れる部員が太智に詰め寄る。
「そんなに言うんだったらオレ達と勝負してみろよ1年。そのへらず口 2度ときけないようにしてやる。」
何かに火がついたのかの様に部員が怒る。
他の部員がなだめるが止まる気配はない。
「お前いい加減にしろよ!!なんでそんなにキレてんだよ!!他の1年も見てるんだぞ!」
なだめようとした部員が掴みかかり怒る部員を止めようとしたその瞬間 太智が口を開いた。
「俺だって、この学園に入るまでただ遊んでいたわけじゃない。 俺は期待してた……この学園に……ここに入ったらもっと強く…何か変われるんじゃないかって。でもさっきの試合で分かった……ここじゃ俺は何も変わる事は出来ないって、、」
太智がそう言い放ったその瞬間に怒った部員が竹刀を持って太智に向かって斬りかかった。他の部員が止めようとするが他の部員をなぎ倒しながら太智に迫る。
「だったら今ここでお前に教えてやるよ!
この部は遊びじゃないってな!!」
「ハァ………」
太智が呆れた様にため息をついた。
怒った部員は竹刀を両手で持ちながら太智に向かって距離を詰めた瞬間 その竹刀を太智目がけて思い切り突いた。
しかし太智は突きを顔にかすめる程の距離だけ顔をズラしかわすと部員との間の距離を一気に詰めながら竹刀を振ろうとする。しかし後ろから来る気配に気づきとっさに横にズレる。その瞬間に太智の先ほどいた位置に後ろから竹刀が振り下ろされる。
「んッ!? 今の避けんのかよ」
後ろから斬りかかった部員が呟く。
竹刀を避けて横に移動していた太智に対し最初に斬りかかった部員がすぐさま剣を振り下ろす。
それに気づいた太智は竹刀の刃先を下にして竹刀を縦に持ちながら攻撃を防ぐ。その防いだ相手の竹刀を自分が持っていた竹刀を片手で少し浮かせて竹刀を上から振り下ろし相手の竹刀の刃先を床につける。 その瞬間 太智は相手の竹刀の上に片足を乗せ相手の竹刀の行動を制限した状態で持っている竹刀を横から勢いよく振り切り相手の首筋に思い切り叩きつけた。
「グッっっっ………」
竹刀を叩きつけられた部員は息を漏らしながら床に倒れこむ。倒れ込んだ部員に太智は持っていた竹刀の刃先を突き付けて言った。
「集団で襲い掛かってくるなんてあなたには武道の精神もないんですか。」
竹刀を突き付けられた部員は下を向いて黙り込み、その部員と一緒に太智に襲い掛かった部員も黙り込んでしまった。
想定外の乱闘騒ぎになってしまったため周りの1年も部員の2年も誰1人として口を開こうとはしなかった。
「僕はもう帰ります。 ここに竹刀置いておきますね。」
そう言い残すと太智は竹刀を床に置き、出口に向かって歩き出した。周りにいた1年達は太智に道を作るかの様に間を開けた。
そんな時、後ろから太智に向かって声がかかる。
「ねぇ、君 ちょっと待って」
太智は歩みを止め声のかかる方に振り返る。
すると 髪はまるで雪のように白く腰ほどまでに伸びたロングヘア、目は迷いのないほど透き通った青い瞳をした1人の少女が立っていた。
それは太智が剣道場に入ってからずっとボーッと見ていた壁に寄りかかりながら1年と部員との勝負を見ていた少女だった。
「なんの用ですか?」
太智がそう答えると少女はこう答えた。
「ごめんね、急に驚かせちゃって、私はこの剣道部の部長をしている橘奏です。君がずいぶん暴れてくれちゃったおかげでこの部のイメージがちょっとね………」
「僕はこの剣道部にいても何も変わる事は出来ません。だから他の部に行きます。」
太智がそう答えると奏ではさらに返答を続けた。
「わたしがこの部の部長をしている立場上ね、君をこのまま帰すわけにはいかないんだ。」
「だから僕はこの剣道部には!」
太智がそう言い出した瞬間 奏では太智に提案を持ちかけた。
「この剣道部の立場というかイメージをこんなに公の場で潰した君をこのまま帰すわけにはいかない。だから少し提案があるの」
「提案?」
「今から部の部長でこの部のリーダーである私と君が勝負する。もし君が勝ったらこのまま他の部を見にいくためにこの体験から帰ってもいい、でももし私が勝ったら君はこの部に入る。どう?」
「なんでそんな提案に」
そう言い放った太智の言葉を遮るように奏が言った。
「君に拒否権はないの。」
「………ハァ、分かりましたよ 乗りますよその提案。じゃあもし僕が勝ったらこのまま帰してもらいますからね。」
「了解、私は一度言った事は決して破らないから安心して」
奏ではそう言うと先ほどの試合でやられた部員が床に落とした竹刀を拾い上げ 試合開始の位置についた。
太智も先ほど自分が床に置いた竹刀を再び拾い上げ試合開始の位置につく。
周りにいる体験希望者の1年達がざわめき出した。
「おい、あれって………嘘だろ」
その光景を後ろで見ていた小春も声を漏らす。
「た、、、太智くん 一体あれが誰か分かってるの………………」
試合開始のための合図を出すために奏が審判役をやっていた部員に声をかける。
「佐々木くん 審判よろしくね」
「は、はい! 分かりました部長」
慌てた様子で声をかけられた部員が審判の位置についた。
その時 奏が声をかける
「ねぇ、君 名前は?」
「僕は竹下太智です。」
「太智くんね、、、さっきみたいに容赦しないで本気でかかってきていいよ」
奏がそう言い放った瞬間 審判が声をあらげる。
「試合 開始!!!」
試合開始と同時に動き出したのは太智だった。一気に奏でとの間合いを詰めると竹刀を持っている右手で下から竹刀を振り上げた、しかし竹刀は防がれた。 太智は一瞬驚きたじろぐ。そんな中奏では竹刀を太智に向けて突いた。太智はとっさに後ろ側に飛び退けて竹刀を交わす。
「なるほど……さすがに強いですね。さすがこの部の部長というだけある。さっきの本気でいっていいという発言 嘘じゃなさそうですね、、、、だったらもう容赦はしません。」
そういうと太智は再び間合いを詰める
しかし先ほどとは明らかに違っている点があったそれはスピードだ一気に間合いを詰めると容赦ない速度で左右上下から繰り返し斬撃を繰り出す。しかし攻撃は全て防がれた。
「ハァ、、ハァ、(なんだこの人、、さっきから斬撃を全部防がれる。しかも剣に力が入らない。)」
「君の斬撃はもう全部 見切ったよ。」
奏が言い放つ。
「僕はもう負けるわけにはいかない!」
太智はさらに踏み込み。先ほどとは比べならない様な速度でさらにどんどん斬撃をあらゆる角度から繰り出す。しかし先ほどと同じように全て斬撃は防がれる。しかし問答無用に太智は斬撃を繰り出し続ける
「(なんで、なんでこの人に斬撃が押し込めない! 力なら男の俺の方があるはずなのに…………)」
そこで太智がある事に気づく
「(剣の重心を取られてる!? この人 俺の剣の斬撃の重心を全部取ってきてる、、う、嘘だろ……本当に俺の斬撃をこのら短時間で全部 見切ったっていうのか………)」
太智は繰り返していた斬撃を止め少し後ろに距離を取る。
「どうしたの?太智くん。これで終わり?」
奏が太智に尋ねる
「僕はあなたには勝てない……今剣を合わせてみて分かった……」
その発言に周りで見ていた全員が驚く
「本当はこの技は使いたくはなかった……この技は僕の作った僕の実力じゃないから、、でもこんなにも強い人を相手にするなんて思ってもみなかった、だから全力をぶつけたくなりました」
太智は少し微笑むと右手の親指の方に竹刀の下が来て相手に刃が向くように構えた。
「いきます!」
太智はそう叫ぶとそのまま奏でに突っ込んでいった。
奏では両手で竹刀をしっかりと持ちながら斬撃に備える。
太智はそのまま振りかぶって剣を振り切る。
防がれた斬撃は滑るように下に落ちる。
だがすぐに太智は続いて両手で竹刀を持ち剣を突く。
「うぉおおおおおおおオオ!」
「君の発言に少しばかり期待していたよ、、振りかぶって防がれた斬撃を利用してすぐに突きに移る………確かに強いでも、、、ただそれだけ」
奏では突かれた竹刀を右の片手で左下から右上に向けて竹刀を払いガードする。しかしガードした目の前にに太智の姿はなかった。
「……んっ…………まさか!!」
奏ではすぐに状況を理解し後ろに気配を集中させる。
太智はガードされ振り切られた相手の剣に自分の剣先を絡め相手の力を利用して奏での後ろに回り込んでいた。
「いける!!このまま押し切る!!!」
剣は奏でのうなじ目がけて振り切られた。
「バチンっ!!」
うなじを竹刀で強く撃たれた音が剣道場の中に響きわたる。
うなじを強く撃たれ気絶して床に膝から倒れ込んだ………しかし倒れ込んだのは奏ではなく
太智の方だった。
道場内にいた全員は何が起きたのか理解できずにいた。