おふざけぱろでぃ~『赤ずきんちゃん』
*あくまで、原作とは別物です。
あるところに、真っ赤な髪がチャームポイントの女の子がおりました。
女の子は、遠縁のおじいちゃんと、おじいちゃんの若奥様のお義姉様と一緒に暮らしています。
女の子は、赤毛混じりの金髪なお義姉様と、おそろいの自分の髪の色を、とっても自慢に思っておりました。
けれども、昔々、赤毛の人達にひどいことをされたことがある街では、赤い色の髪は、あまり良い目で見られません。
そこで、女の子の二番目のお兄ちゃんは、赤毛が目立たないようにと、女の子に赤い頭巾を被せてみました。
女の子は、頭が良すぎて性格がひん曲がっていましたが、見た目は可愛いので、赤い頭巾がとっても似合っていました。
そして、大大大好きなお義姉様に赤い頭巾を褒められ、それはもう気を良くした女の子は、常に赤い頭巾を身に着けだします。
その内、赤い頭巾が目印と化した女の子は、みんなから『赤ずきんちゃん』と呼ばれるようになりました。
◆◆◆
ある時、一番上のお兄ちゃんに呼び出された赤ずきんちゃんは、お土産に、お義姉様が好きなお菓子をもらいました。
一番上のお兄ちゃんの奥さんは、お義姉様と仲良しで、赤ずきんちゃんが遊びに来ると、いつも帰りにお使いを頼まれるのです。
正直、新婚ラブラブなお兄ちゃん夫妻のやり取りは、妹の赤ずきんちゃんも見ていて胸焼けがしてきます。
けれども、お兄ちゃん夫妻のお土産を、お義姉様が喜んでくれるので、赤ずきんちゃんは、お兄ちゃんの呼び出しを無視したりしませんでした。
ところで、赤ずきんちゃんのお家は、お兄ちゃんたちが住んでいる街から、少し離れた森の中にあるのです。
そして、その森には、強いやつを見るとヒャッハーする、戦闘狂な森の主がおりました。
そのせいで、悪い奴はあまり近寄らないので、森にある道は意外に安全だったりします。
でも、か弱い女の子の一人歩きが危ないことは、やっぱり変わりありません。
ですから、赤ずきんちゃんは、二番目のお兄ちゃんが拾って来た、ワンコを一匹お供にしておりました。
お目めが一つきりの、一つ目ワンコは、まだまだ仔犬ですが、悪い大人を簡単にやっつけられるくらい、頼もしいのです。
赤ずきんちゃんは、お義姉様へのお土産入りの籠を大事に持って、お家までの道を、弾んだ足どりで歩きます。
赤ずきんちゃんの頭の中は、すでに、笑顔でお土産のお礼を言ってくれる、お義姉様の妄想でいっぱいでした。
――そんな赤ずきんちゃんと、お供の一つ目ワンコを、こっそりとうかがう影があります。
木陰に隠れたこどもオオカミは、美味しそうなお菓子の匂いに、お鼻をひくひくさせました。
喧嘩が強いこどもオオカミは、けれども喧嘩が嫌いです。
それなのに、おとなオオカミたちは、喧嘩の度にこどもオオカミを頼ってきたのでした。
こどもオオカミは、喧嘩よりも、そんなおとなオオカミたちの方が怖くなって、住んでいたお山を逃げ出したのです。
それから、こどもオオカミは、赤ずきんちゃんが住む森に辿り着いたものの、運悪く、森の主に出くわします。
戦闘狂な森の主は、当然、こどもオオカミと戦いたがりました。
喧嘩嫌いのこどもオオカミは、当たり前に逃げ出しましたが、ギラギラ笑顔の森の主は、それを許してくれません。
それでも、何とかかんとか森の主から逃げきったところで、こどもオオカミは、お菓子を持った赤ずきんちゃんを見つけたのでした。
森の主に追いかけ回されたせいで、お腹がペコペコのこどもオオカミには、赤ずきんちゃんが持っているお菓子が、とっても美味しそうに見えました。
赤ずきんちゃんを脅かして、自分が食べてしまおうと、思うくらいには。
森の小道を歩いていた赤ずきんちゃんの前に、突然飛び出す影がありました。
「がお~っ!!」
両手を広げたこどもオオカミが、赤ずきんちゃんに向かって大きな声を出します。
しかし、赤ずきんちゃんは、あわてず騒がず、目の前の不審者を観察することにしました。
赤ずきんちゃんはか弱いので、敵の弱点を早く見つける必要があるのです。
「……」
「がお~っ!!
――って、あれ……?」
赤ずきんちゃんの反応が、思っていたのと違っていたので、こどもオオカミは困ります。
赤ずきんちゃんがお菓子を置いて逃げてくれないと、こどもオオカミがお菓子を食べられません。
お腹が減って仕方がないこどもオオカミは、危険を感じる野生の勘が、大分弱っておりました。
「お、お菓子をくれなきゃ、ひどいことするぞ~っ!!」
あんまりひどいことをしたくないこどもオオカミでしたが、空腹に負けて、言ってはいけない台詞を口にしてしまいます。
「――はぁ?」
その時の赤ずきんちゃんの顔は、こどもオオカミにとって、おとなオオカミたちや森の主よりも怖いものでした。
赤ずきんちゃんは、激おこです。
だって、目の前の不審者は、お義姉様へのお土産を、赤ずきんちゃんから奪い取ろうとしているのですから。
そうなれば、赤ずきんちゃんはお義姉様の笑顔を見ることができませんので、断固許すまじなのです。
怒り過ぎて、赤ずきんちゃんの薄い琥珀色のお目めが、金色に輝きだしました。
赤ずきんちゃんのお家の人は、とってもとっても腹が立つと、今の赤ずきんちゃんと同じようになるのです。
魔王降臨的な状態の赤ずきんちゃんを見て、こどもオオカミは、ようやく、自分が手を出してはいけない相手を怒らせた事に気が付きました。
こうなったら、逃げるが勝ちです。
お腹がいっぱいにならなくても、命があれば、何とかなります。
わき目も振らず逃走を開始したこどもオオカミの背を、赤ずきんちゃんは薄い笑みを浮かべて見送ります。
そして、お供の一つ目ワンコは、道端から咥えてきた縄を赤ずきんちゃんへ差し出しました。
――その縄の反対側にあるのは、赤ずきんちゃんが二番目のお兄ちゃんと一緒に作った、対不審者用のえげつない罠です。
対不審者用の罠を発動させる為の、縄を引っ張る赤ずきんちゃんの顔は、それはそれはあくどい笑顔でした。
***
師匠である森の主と、肉体言語で語り合ったばかりの猟師が見たのは、一つ目ワンコに噛み付かれ、しくしく泣いているこどもオオカミと、彼を縛った縄を持つ妹の姿でした。
……猟師としては、自分の妹がノーマルだと信じたいのです。
でも、ぷるぷる震えているこどもオオカミの前で、薄ら笑いを浮かべる妹の姿を目にすると、彼女の将来が心配になってきます。
現に、猟師のお供の馬とどデカワンコも、赤い頭巾がお気に入りの妹の、アレな行動に軽く引いておりますし。
「……何をしているのだ、シャルロッティ……?」
「――あら、ラザロス兄上、お疲れ様です。
ちょっと、この不審者に身の程を教えているだけですが、何かありました?」
猟師の質問に、笑顔で答えた妹の目は、全く笑っていませんでした。
そんな妹の様子に、彼女の足元で正座していたこどもオオカミの震えが、さらにひどくなっています。
「……せっかく、せっかく、お義姉様にお土産のお礼を頂けるところだったのに、この不審者は、うふふふふ――って、いたっ?!
――痛いのですが、ラザロス兄上っ――?!」
怒りが一向に収まらず、ついには不気味な嗤い声を上げ始めた妹に、猟師は、とりあえず教育的指導(物理)をくらわせました。
いくら怒りたくなるようなことをされたとは言え、さすがに弱い者いじめはいけません。
そして、赤ずきんちゃんは、猟師なお兄ちゃんと一緒にお家に帰り、笑顔のお義姉様から、お土産のお礼を受け取りましたとさ。
めでたしめでたし。
――そして、こどもオオカミは、赤ずきんちゃんの下僕になり、少なくとも、空腹に悩むことはなくなりました。
めでたしめでたし?
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※きゃすと※
〇赤ずきんちゃん:しゃるろってぃ
〇おじいちゃん&お義姉様:たいこうふさい
〇一番上のお兄ちゃん夫妻:おうたいしふさい
〇森の主:げんすい
〇一つ目ワンコ:ゆに
〇こどもオオカミ:あれすくん
〇猟師(二番目のお兄ちゃん):らざろすにいやん
〇馬:あすとぅらび
〇どデカワンコ:すかー




