表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

ぎゃくはーれむって、いいことあるの?

 あるところに、金髪碧眼の平凡な女の子がおりました。

 女の子は、少しだけ貧しい平民でしたが、成績優秀でもあったので、特待生として王都の学園に入学することが出来ました。

 学園には、見目麗しく優秀な、貴族の跡取りや王子様も通っていました。

 女の子は、ひょんなことから、貴族の令息達や王子様と交流を深めていきました。

 跡取り達も王子様も、自分の周囲にはいなかった、天真爛漫(てんしんらんまん)な女の子の魅力に想いを深めていきます。

 女の子は、よく見ると可愛い系の容姿でしたから、なお良しです。

 女の子が仲良くなった男の子達は、学園の中でも人気者で、仲良しの女の子にはやっかみや嫉妬が集中しました。

 けれど、女の子と男の子達は、すれ違いながらも、力を合わせて目の前の問題を解決していきました。


 その他にもなんやかんやあり、(以下省略)――


 ――卒業後、女の子と男の子達は同じ家に住むことにしました。

 そして、いつまでも仲良く暮らしましたとさ。




「――はぁ?」

 今話題になっているらしい、恋愛小説を読み終えた次期大公は、子供らしからぬ表情で眉を寄せた。


 ◆◆◆


「ラザロス兄上、逆ハーレムには、どの様な利点があるのでしょうか?」

「……シャルロッティ、なぜそれを男の私に聞くのだ?

 女性に尋ねるものではないのか?

 ぎゃくはーれむというのは、要するに、一妻多夫の様なものなのだろう?」


 日課の鍛練(たんれん)終わりの次兄に聞いてみれば、酷く怪訝(けげん)な顔をされた。


 どこか近くで、――それ、団長に聞いちゃうんですかっ?! と、誰かの(なげ)きの声がするが、シャルロッティも次兄も気にしない。


「お義姉様と義姉上に聞いてみたのですが、お義父様とゼノン兄上に怖い顔をされました」

「だろうなぁ……」

 一夫一妻制の仲睦(なかむつ)まじい夫婦の片割れに、一妻多夫の利点を上げさせるなど、夫が腹を立てて良い案件だ。

 ついでに言うと、逆ハーレムの利点については、お義姉様が困惑しきりで分からないと回答し、義姉は笑っていない笑顔で無いと言い切った。


 しかしながら、だ。


 シャルロッティは、次兄に向かって、持っていた書籍を(かか)げた。


(きら)めく七色の恋~愛は虹の始まる場所に~』と題されたその本は、最近話題の恋愛小説だ。


 ――平民の少女が、特待生として王立学園に通い、高貴な生まれの少年達と仲を深めていく物語だ。

 そしてこの話は、最終的に、少女が想いを確かめ合った七人の少年・青年達と、末永く仲良く暮らすに至るという、シャルロッティには訳の分からない終わり方をする。

 ……物語をどう読んでも、一夫多妻制はあれど、一妻多夫制の文化がある設定は、記載されている様に認識できないのだが。


 ちなみに、――それが良いっ!!! 、と言う熱烈なファン達と、――こんな頭のおかしい設定を、うちの子が信じたらどうするっ?!! 、と言う教育熱心なご婦人達の間で、激烈な論争が勃発(ぼっぱつ)することすらあるらしい。

 ()にも角にも、人様の妄想を現実に当て()めるのは個人の自由だが、この様な小説が存在する以上、逆ハーレムとやらには何か利点があるのだろう。


 が、しかし、その利点がさっぱり分からないシャルロッティは、理解できないもやもやの解消の為、次兄に(たず)ねてみることにしたのだ。


 ビミョウな表情の次兄は、シャルロッティが掲げた本を受け取ると、ばーっと勢い良く流し読む。

 パラパラと音を立てて、ページが(めく)られていくその様は、とても本を読んでいる速度ではない。

 だがそこは、近隣諸国まで脳筋ぶりが鳴り響いてしまっている、軍事関係に能力を全振りした次兄である。

 これでも次兄は、持ち前の動体視力で、きちんと内容を読み取っているのだ。

 ――まあ、本に書いてある内容を頭に入れることと、その内容を理解していることとは、同じ事ではないのだけれど。


 時間にして数十秒、内容を全て頭に入れ、ぱたんと本を閉じた次兄の顔は、何とも形容しがたいものだった。

「……シャルロッティ」

 シャルロッティに読み終えた本を手渡した次兄は、難しい顔で腕を組む。

「……複数人で(めかけ)を共有するのは、趣味が悪すぎると思うのだ……」


 ああ、そういう見方もあるのか。

 シャルロッティは、目から(うろこ)が落ちる思いだった。

 軍事以外はポンコツ仕様の脳筋に、大した答えは期待していなかったが、やっぱり、自分と異なる視点と言うのは大事である。


「つまり、共用にくべ――い、いたいいたいいたいっ!!

 痛いのですが兄上っ?!!

 というか、いきなり何をするのですか、この脳筋っっっ!!!」


 何故か次兄が、シャルロッティの頭を鷲掴(わしづか)みにして、(てのひら)にぎゅぅぅぅぅっと力を込めてきた。

 殺傷能力のある金属塊を振り回すべく、日頃から鍛練を欠かさない次兄の握力は、相応に強い。


「シャルロッティ……」

 (よわい)十二のか弱い妹に、教育的指導(物理)を食らわせている騎士団長は、深々と溜息を吐いた。

「うちの師匠は、反面教師にしかならならないのだぞ。

 ――師匠が使う言葉を、真似してはいかんのだ」

「わかりましたっ!!

 分かりましたから、今すぐこの手を放してくださいっ!!!」

 小動(こゆるぎ)もしない次兄の腕を、両手で持った本で(なぐ)りつけながら、次期大公は叫ぶしかなかった。


 それなりに厚い本の角を利用したにもかかわらず、次兄が平然としているのが、少し納得いかない。

 涙目で解放された頭を抑えながら、シャルロッティは(ほお)(ふく)らませる。


 とりあえず、このことは、長兄と養父に通報せねば。

 婦女子の扱いがなっていない脳筋は、二人から説教を兼ねた八つ当たりでもして(もら)えば良いのである。


 シャルロッティは、効率優先の、傍目(はため)には大分セコイ報復行動を心に誓った。


 そんな妹の脳内予定など(つゆ)知らず、次兄は、眉間に(しわ)を寄せ、(あご)に手をやる。

「シャルロッティ、そもそも男系の社会で、ぎゃくはーれむは難しいのではないか?

 産まれた子供の父親が分からないのでは、誰の責務や財産を引き継ぐべきか、判断できないだろう」

 それはそうだ。

 父親から我が子へ、その財を引き継がせるという想定ならば、逆ハーレムなんぞ利点も何も無かろう。

 むしろ、カッコウの托卵(たくらん)よろしく、他人の子供の教育に金と労力を注ぎ込む恐れすらあるのだ。


 ――まあ、それは、父親から息子への血の継承を最優先させる、男系の社会だからという話で。


 本を抱きしめたシャルロッティは、可愛らしく首を傾げる。

「男系社会ならば、ラザロス兄上の言う通りでしょうが、女系の想定ならば、特に問題はないのではありませんか?

 兄上の御友人のキリル様のお手紙に、東方の女帝が沢山の側室を囲っていると言うお話がありましたし」

「……ああ、そう言えばキリルの奴、そこの国の、三日三晩かけて食す全席料理を食べたいと書いていたな」

「兄上、そこは今関係ありませんから」

 食いしん坊の親友を思い出して、話を脱線させかける次兄に、シャルロッティは突っ込みを入れた。


 全席料理は、逆ハーレムに無関係だ。


「女系ならば、別に托卵の心配などしなくても良いですし、妊娠中は何かと不便だという話ですから、人手は多い方が、都合が良いですよね。

 自分で男を養えるのならば、女帝の様に男を何人か(かこ)うのも悪くないかもしれません」

「……シャルロッティ、ひもが何人もいて、役に立つのか……?」

 基本的に、男が女を養う男系社会の思想が染み付いている次兄が、(しぶ)い顔をする。

 次兄は、ナイフ一本で雪山に放り込まれても、普通に生き延びた(たくま)しさからか、ひもにはあまり良い印象を持っていない様だ。

「そこは、(あめ)(むち)の使いようでは?」

「……別に、金で男を囲うくらいなら、その金で優秀な部下を雇った方が、妊娠中に楽が出来るのではないか……?」


 次兄のまっとうな指摘に、シャルロッティは、言葉に詰まった。


「……そう、ですね……」


 ――…………。


「ラザロス兄上、逆ハーレムの利点って、何なのでしょうか……?」

「何なのだろうなぁ……?」


 ――色々な種類のイケメンにちやほやされたい! イケメン達とイチャイチャしたい!! という、女子の欲望がずっぽ抜けた、逆ハーレムの利点に関する兄妹の議論は、堂々巡りの様相を(てい)していた。



 Copyright © 2018 詞乃端 All Rights Reserved.




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ