閑話 勇者召喚されたクラスメイト
気がつくと石造りの教室2つ分くらいの部屋に、神谷 蓮のクラス全員と担任教師がいた。
チャイムが鳴って先生が入って来たタイミングで、彼らの教室が突然光に包まれて、気がついたらこの場所にいた。みんな『ここは一体どこなんだ』と口々に話している。
「勇者の皆様、召喚にお応えしていただき、ありがとうございます。」
突然部屋の中に女の子の声が響いた。
「一体どういうことだ!」
「早く家に帰して!」
一様に不安を口にする先生や生徒たち、その中でアニメやラノベにハマっている一部の人たちは、「勇者召喚、キタコレ!」と歓喜の声を上げている。
俺はそんな中、声をかけてきた女の子にバレないようにステータスを開いた。
『ステータス』
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名前:神谷 蓮 (レン=クロスフィールド)
年齢:18歳 レベル:1(表示不可)
所属:アースティア王国(クロスフィールド公爵家)
称号:召喚に巻き込まれし者(救国の英雄、勇者、公爵家当主、女神の代行者、大賢者)
スキル:剣術4、水魔法4(表示不可)
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ステータスの隠蔽は出来ている。これで見られても大丈夫だ。安心していると隣にいた女の子が声をかけてくる。隣の席の安藤 奈津さんだ。
「蓮君、元の世界に帰れるかな?」
「どうかな?最悪、帰れない場合のことを考えておかないと。」
そう言いながら、自分はこの世界に残ることを決めている。そんな騒がしいのをよそに、先程の女の子が話し出す。
「私はアースティア王国第2王女、アイリスと申します。こちらは宰相のラック侯爵です。この度は勝手な都合で召喚してしまい、誠に申し訳ありません。どうか私たちの国を救ってください。」
「あの、元の世界に帰ることができるのですか?」
クラス委員の三条 葵がクラス委員の責任感から質問する。いかにも優等生という雰囲気をまとう女の子だ。いつもは背筋を伸ばしている彼女も突然な出来事にどう対応したらいいのかまったくわからない様子で、不安そうな口調だ。
「残念ながら今すぐに帰すことは出来ません。しかし先代の勇者様は元の世界に帰還されましたので、帰ることは出来ます。」
王女はそう告げると殆どの生徒から落胆の声が上がる。女子生徒の一部は泣き出すものも出てきた。
「皆さまにはしばらくの間、この世界で過ごして頂くことになります。是非皆さまのお力をお貸しください。それは邪神を倒すことです。先代勇者様は国を襲っていた魔王や魔神を倒しましたが、それは邪神の計画の一部でした。私たちはそれを止める為に勇者召喚を行いました。どうかお力をお貸しください。」
「わかりました。」
三条さんがそう返事をする。
「ありがとうございます。詳しくことは国王陛下からご説明ありますので、付いて来てください。」
謁見の間に到着したアイリス王女が、国王に会う時は私の真似をしてほしいと言うので、他のクラスメイトたちはそうすることにしたらしい。謁見の間に入ると、大きな部屋が広がっていた。
キラキラが多く眩しいぐらい綺麗なものばかりだった。
周りには頑丈そうな鎧を着込んだ人達や高級そうな服を着た人達がたくさんいる。そんな中、アイリス王女は階段がありその頂上で玉座に座る国王の元に向かった。
「国王陛下。召喚した勇者様たちをお連れしました。」
そう言いアイリス王女は膝をついて頭を下げる。他の人達もそれを習い頭を下げている。立っているのは俺だけだ。アイリス王女と安藤さん、三条さんは焦った目でこちらを見てくる。周りの貴族たちは「なんて無礼な!」と叫んでいる。この状況がわかっているのは、陛下と王妃、一部の兵たちだ。そんな騒がしい中、1人の兵士が入って来た。
「申し上げます。クロスフィールド公爵家が軍隊を引き連れて王都に進行中です。また、公爵家当主及び第1王女シャルル殿下の声明が出ています。」
それを聞いた宰相が陛下に言う。
「何かの間違いでしょう。第1王女殿下は国家反逆罪で捕まっているし、公爵家当主は元の世界に帰還されました。」
「それが今回の召喚で戻って来たとしたらどうする。そなたもそう思わないか?《英雄》レン=クロスフィールドよ。」
陛下が俺の顔を見てそう言ってくる。
周りが騒がしくなる。一部の人間は偽物だと言い、大半の人達は英雄の帰還に喜んだ。アイリス王女は涙ぐみ、クラスメイトは困惑していた。
「陛下。バラすタイミングが早くないですか?」
「そなたのことだ。準備が終わっていたから、臣下の礼を取らず立っていたのだろう。」
「もちろんです。一応形式なのでやりますかね。クロスフィールド公爵家当主、レン=クロスフィールド及び第1王女シャルル王女殿下は、今回の件について遺憾に思い、国王陛下、王妃様、アイリス王女、宰相閣下等、関わりを持った人達を拘束させて頂きます。」